妊活ブームだからこそ知っておきたい(写真はイメージです)

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 空前の婚活ブームといわれる今、妊娠したならば、誰もが無事に出産したいと願うだろう。生まれてくる子どもが五体満足、心身ともに健康で生まれてくると信じている。だが、現実は出産した子どもがかならずしも五体満足とは限らないからだ。

 産婦人科医の視点から妊娠、出産を扱い大ヒットした漫画『コウノドリ』(鈴ノ木ユウ、講談社)は、ドラマ化(主演:綾野剛、TBS系列)され、2015年12月18日に放映された最終回は12.3%という高視聴率(関東地区:ビデオリサーチ社)をマークした。

重度心身障がい児のための医療助成制度

 このドラマでも、生まれてきたわが子が障害児という現実が受け入れられない父と母が描かれている。実のところ、産婦人科医の間ではこうしたケースは珍しいことではないという。大阪府内の産婦人科医がその実態を語る。

「エドワーズ症やダウン症といった先天性の染色体異常や、無脳症、両性具有など、現代医療では治療を困難とする疾患などを持って生まれてきたベビーのパパ・ママのなかにはその現実を受け入れられず、わが子と会うことなく退院される方もいます」

 現在では出産前検診の受診で先天性染色体異常もある程度察しがつく。先述のダウン症やエドワーズ症、大脳半球が欠損している無脳症などなど、出産前の時点で先天的疾患や異常を把握し、これをわかったうえで出産する。

 それでもいざこの世に生まれてくるとこれらの現実を受け入れられない父親・母親もいる。その場合、子どもはまず入退院を繰り返すことになる。前出の産婦人科医が明かす。

「もちろん治療目的での入院です。しかしわが子の疾患を受け入れられない両親の駆け込み寺的な側面を病院がはたしていることもまた事実です」

 とはいえ入院となると経済的負担も大きいのではないか。両親の経済的負担とはいかほどか。ダウン症など重度心身障がい者への医療助成制度に手厚い福岡市の関係者が語る。

「福岡市では病院での自己負担相当額を全額助成します。もっとも条件はありますがダウン症やエドワーズ症なら助成が認められると考えて差し支えありません」

 福岡市関係者が語る“条件”とは以下の通りだ。(1)身体障害者手帳1・2級所持者 (2)療育手帳重度(A)判定 (3)精神障害者保健福祉手帳1級所持者。

 医療費相当額完全助成を行っている福岡市ほどこの制度に手厚くはない自治体でも、重度心身障がい児への医療費は通院でひとつの医療機関につき月額1000円程度、同じく入院でも2000円程度と、厳しい財政状況下にあるといわれる自治体でも重度心身障がい児(者)には厚遇する傾向にある。

 この厚遇ぶりが結果的に先天的な疾患を持つ子どもを持つ親たちの“駆け込み寺”のような役割をはたす現実があるという。

「重度心身障がい児施設に入所させるまで、もしくは施設に空きがなく入所できなくても入退院を繰り返すことで疾患を持つわが子との時間をできるだけ持たずに済みます。実際、育てるとの決意をもって出産しても、現実は想像を絶する困難を伴います。そうした親たちを責めるのは酷かもしれません」(前出の産婦人科医)

 今、巷では“妊活ブーム”が花盛りだ。だがこうした現状は誰も語ることがない。妊活という言葉が世に定着した今だからこそ、これから妊活を行おうという人をはじめ、社会全体で考えなければならない問題だ。

川村洋(かわむらひろし)1973年大阪府生まれ。大学卒業後、金融業界誌記者、地元紙契約記者を経てフリーに。週刊誌や月刊誌で活躍中