カンヌライオンズ2015を「動画」で総括。今もっとも評価される、社会を動かす動画とは?

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今年のカンヌライオンズでは既存の16部門に加え、Glass(グラス)部門が新設されました。ブランデッドコンテンツ&エンターテイメント部門ではグランプリが出ませんでしたが、Volvo UKの「Lifepaint」がプロモ&アクティベーション部門とデザイン部門で二冠を達成しています。
それでは、グランプリを受賞した全18作品の中から、動画を軸に実施されたキャンペーンをご紹介していきましょう。

目次

フィルム部門:ライカ「35の名作写真が切り取った100年を動画で再現」
サイバー部門:アンダーアーマー「批判を逆手に取りブランドメッセージを表現」
インテグレーテッド部門:ナイキ「1人の野球選手に贈るリスペクト動画」
グラス部門:P&G「女性への差別を考える機会を創出」

フィルム部門グランプリ

フィルム部門はカンヌライオンズが設立された1954年から続く、もっとも歴史のある部門です。作品の独創性や表現力を重視し、ブランドイメージの向上に貢献している広告に対して賞が贈られます。

ライカ:35の名作写真が切り取った100年を動画で再現

 

企業・ブランド:Leica Gallery São Paulo (ライカ・ギャラリー・サンパウロ)

キャンペーン名:100

キャンペーン概要:
ライカは世界で初めて持ち運び可能なカメラを発売したカメラメーカーです。2014年に100周年を迎えたライカは、今年11月にブラジルのサンパウロにギャラリーをオープンすることを決定し、お祝いとオープン告知を目的に2分間のCMを公開しました。

審査員も文句なしのクオリティ

動画「100」では、世界の写真家たちが撮影した、100年の歴史を象徴する35のシーンが動画で再現されています。元となった写真にはライカ製カメラではない作品も含まれていますが、ポータブルなカメラだからこそ捉えられる人間の喜怒哀楽や、台本のない偶然の一瞬の数々が、クオリティの高い動画で表現されています。

この作品は審査員からの評価も非常に高く、最初の投票で22名の審査員のうち19名がグランプリに選びました。審査員のTor Myhre氏は本作品についてこのように語っています。「完璧に近い映像作品です。ビジュアルによるストーリー構成がユニークで美しい。描写も実に見事です。何よりも重要なことは、携帯電話や色気が薄れた手軽な写真の台頭により、このような写真作品の世界が今、減少しているという事実です」

サイバー部門グランプリ

1998年に設立したサイバ―部門は、ラジオやTV・Web・アプリケーションなど、時代の変化に合わせてその審査対象を広げてきました。テクノロジーとクリエイティブのシナジー効果によって、ユーザーとのエンゲージメント向上・企業の認知拡大・売上などに貢献した広告が評価されます。

アンダーアーマー:SNSに溢れる批判を逆手に取りブランドメッセージを表現

 

企業・ブランド:アメリカのスポーツウェアブランド「Under Armour(アンダーアーマー)」

キャンペーン名:I will what I want(なりたい私になる)

キャンペーン概要:「I will what I want」キャンペーンは、男性的なイメージが定着していた「アンダーアーマー」のリブランディングを図るために2014年7月に開始されました。ロールモデルとなる女性を起用し、彼女たちの姿を通して「自らの意志を尊重する」というメッセージを伝えます。第一弾の動画が大きな話題となった後、第2弾のキャンペーンに起用されたのがスーパーモデルのジゼル・ブンチェンでした。彼女の起用が発表されると、ソーシャルメディア上には「ジゼルはただのモデルでアスリートではない」などといったネガティブな反応が飛び交います。

そこで同社はこのような批判コメントを集めたTV-CMとスペシャルWebサイトを制作。ジゼルへのコメントが壁に大きく投影される中でサンドバッグを力強く蹴り上げる彼女の姿を通して、「I will what I want(なりたい私になる)」というブランドコンセプトをより深く訴求しました。

最新テクノロジーを駆使したスペシャルWebサイト

本作を受賞に導いたのが、"Will Beats Noise(雑音を打ち消せ)"をテーマにしたスペシャルWebサイトです。サイトにアクセスするとTV-CMと同じ映像がフルスクリーンで流れますが、TV-CMとは違い、壁に投影されるコメントがソーシャルメディアと連動しており、ほぼリアルタイムで反映されるようになっています。

リアルタイム性とソーシャル性をテクノロジーによって実現した本Webサイトは、インターネット上で飛び交う無数のリアクションを可視化し、ブランドストーリーの強化に活かした事例として審査員に高く評価されました。

本キャンペーンは1500万円相当のメディア露出、サイトへの訪問者数42%増などの結果を残しましたが、特筆すべきは売上への貢献です。キャンペーン後28%も売上が上昇し、アメリカのスポーツウェアブランド第2位の座をアディダスから奪うという驚くべき成果を残しました(参考)。

インテグレーテッド部門グランプリ

2007年に設立されたインテグレーテッド部門は、さまざまなメディアを横断的に活用したキャンペーンを対象に、アイデアの新しさや統合性を評価しています。

ナイキ:1人の野球選手に贈るリスペクト動画

企業・ブランド:Jordan Brand(NIKE)

キャンペーン名:RE2PECT

キャンペーン概要:
Jordan Brand(NIKE)は、引退を表明したNYヤンキースのスター選手、デレク・ジーターのキャリアを称えるキャンペーンを実施。彼の背番号2にちなみ、「RE”2”PECT」というタイトルの動画をTV-CMやYouTube、公式サイトで公開しました。

本キャンペーンでは、帽子のツバに手をかけることで相手に敬意を表すというシンプルな動作がアイコンとなっています。動画では、ジーター選手がバッターボックスに立つと、ライバルの投手に始まり、球場のファンやスタッフが次々と帽子に手をかけます。そしてその連鎖が球場を飛び出し、街の人びと、著名人、ライバルチームの選手にまで広がることで、ジーター選手の偉大さを表現しています。

アメリカ全土が心を動かされ行動を起こす

NIKEは動画の他に屋外広告なども展開。この一連のキャンペーンにより、一般の人だけでなく多くの著名人、キャラクターのスヌーピーまでもが、帽子に手をかける様子の動画や写真をソーシャルメディアに投稿をし、一大ムーブメントとなりました。

本キャンペーンがもっとも盛り上がりを見せたのはジーター選手の本拠地最終戦の直後でした。わずか数分でRE2PECTのロゴが入った帽子が完売。FacebookやTwitterではハッシュタグ「#RE2PECT」がトレンドとなり、帽子に手を添えて写真を投稿する人が続出しました。NIKEの2015年第一期の決算報告によれば、3カ月で総利益が15%向上しており、本キャンペーンが売上拡大に寄与したことがうかがえます(参考)。

「RE2PECT」はスポーツというジャンルを超えて多くの人々の心を掴んだ成功キャンペーン事例となり、結果的にNIKEブランドの向上にもつながりました。

グラス部門グランプリ

今年新設されたグラスライオン部門。性差別や偏見の解決に貢献し、実際に社会にインパクトを与えた広告が対象となります。

P&G:偏見が残る国において女性への差別を考える機会を創出

 

企業・ブランド:インドの生理用品ブランド「Whisper India(ウィスパー)」(P&G)

キャンペーン名:Touch the pickle(ピクルスに触ろう)

キャンペーン概要:
インドには女性の生理を”恥ずべき呪い”と捉える古い慣習が根強く残っています。生理期間中の女性は台所に入れないなど日常生活でも行動を制限され、家庭にあるピクルスの壺に生理中の女性が触れるとピクルスが腐るという迷信があるほど。
このような文化が性差別や偏見につながっていると考えたウィスパーインドはこの悪しき慣習を断ち切るべく「TOUCH THE PICKLE(ピクルスに触ろう)」をテーマに掲げた動画を公開しました。

1本の動画をキッカケに国中で議論が巻き起こる

本動画では10代の女の子が元気よく「ピクルスの壺」に触れ、その行為を年配の女性たちが応援する様子が描かれています。

"Girls, let's make the taboos go away and touch the pickle jar.(女の子たち、タブーなんて気にせずピクルスの壺に触ろう)"」と呼びかける本動画は多くの若い女性を勇気づけ、290万人もの女性がソーシャルメディアなどを通じて「私もピクルスを触る」と表明。さらにマスメディアをも動かし、インド中で女性のタブーについて議論するキッカケとなりました。同時に、インドにおけるウィスパーの支持率も21%から91%へ上昇するという成果を残しています。

1本のCMがそれまで女性が言いたくても言い出せなかったことを代弁し、国中を動かすほどの影響を与えた本キャンペーン。ターゲットが抱える社会的問題の解決への足がかりとなったクリエイティブは、まさにこのグラス賞にふさわしい秀作です。

その他グランプリ作品

他の4作品は以前にmovieTIMESでご紹介しています。それぞれの記事にキャンペーン詳細を載せておりますので、併せてご覧ください。

フィルム部門グランプリ

企業:GEICO
キャンペーン名:Unskippable
過去記事:プレロール動画広告の特性を活かした秀逸な動画広告

クリエイティブ・イフェクティブネス部門グランプリ

企業:Volvo
キャンペーン名:Live Test Series
過去記事:【ボルボの”命がけ”実験動画まとめ】ユーモアたっぷりの傑作バイラル動画集!

フィルムクラフト部門グランプリ

企業:John Lewis
キャンペーン名:Monty's Christmas
過去記事:クリスマスの動画広告から学ぶ、バズる動画の秘訣。

PR部門グランプリ

企業:Procter&Gamble(P&G)
キャンペーン名:#Likeagirl
過去記事:自信を失くしたターゲットを応援することでファンを獲得

人の心を動かす力を持つ動画の社会的影響力

以上、動画を主軸にしたグランプリ作品を振り返ると、今年は社会性の高い作品が特に評価されていることが分かります。 アンダーアーマーの「I will what I want」、ウィスパーの「Touch the pickle」、P&Gの「#Likeagirl」はいずれも、女性への隠れた偏見に着目し、社会に対して問題提起を行っています。

また惜しくもグランプリは逃したものの、8部門をまたいで賞を獲得した Ad Council (AC)の「Love Has No Labels」も多様な愛の在り方を訴える動画でした。

 

社会に新たな気づきやインパクトを与えるメッセージ性の強い作品が「優れたクリエイティブ」とされる昨今、 強い印象を残し、人々の感情を揺さぶるために「動画」は不可欠なファクターとなってきています。今後も「伝える・伝わる」ツールとして動画の活用がますます広まっていくことでしょう。

[参考元]

※エントリー数:Cannes by the Numbers: Yachts, Cocktails, Penthouses, More
http://adage.com/article/special-report-cannes-lions/cannes-numbers-yachts-cocktails-penthouses/299121/

ライカ : http://www.canneslionsarchive.com/winners/entry/573677/100

アンダーアーマー : http://www.canneslionsarchive.com/winners/entry/563541/gisele-bundchen-i-will-what-i-want

ナイキ:http://www.canneslionsarchive.com/winners/entry/589771/re-2pect

ウィスパー:http://www.canneslionsarchive.com/winners/entry/595340/touch-the-pickle

After a Record 8 Lions in Cannes, Ad Council Brings 'Love Has No Labels' to NYC Pride
http://www.adweek.com/news/advertising-branding/after-record-8-lions-cannes-ad-council-brings-love-has-no-labels-nyc-pride-165667