傘下に日刊新聞75紙と週刊新聞200紙以上を持つ米新聞チェーン大手のゲートハウス・メディアは、傘下のすべてのメディアの電子版の記事を非営利目的で使用することなど3条件を定めたCC(クリエイティブ・コモンズ)ライセンス方式で、自由に転載することを認める方針を決め、実施に移し始めた。(同社が発行する日刊紙については、このサイトを参照)。

  同社が採用したCCライセンスでは、非営利目的の使用に限定されているほか、記事の内容を改変することは禁じられているが、これまで記事を著作権で完全に保護してきた米国の大手新聞チェーンが、CCライセンスに転換し、記事の転載を許可したことは、高く評価されるべきだ。

  当然、これまでも新聞記事の転載については、新聞社の許可があれば可能だったが、CCライセンスで発行されることで、新聞社から事前に許可を得ることなく、自由に記事を転載することが可能になった。ゲートハウス・メディアは、このような方法で記事の転載を許可した初のメディアだろう。

  CCライセンスでは、もう一つの条件として、著作権元のクレジットの明記とリンクを示すだけで、自由に記事を掲載できるようになったのは、電子版の記事を引用することが多いブロガーやオンラインメディアにとって大きな利点がある。しかし、今回の試みについて何か問題はないだろうか。まだ、十分に考えたわけではないが、いくつか注意すべき点があるように思われる。

  (1)一見、コンテンツが自由に配布されることで、米検索エンジン大手のグーグルが評価するサイトの重要度を示す「ページランク」が上がり、検索サイトで、その新聞社のサイトがヒットされやすくなると考えるメディアもあるだろう。しかし、グーグルは、1つのコンテンツが何度も大量に複製された場合、それを検索エンジンスパム(無差別の大量配信)と見なし、そのコンテンツのあるサイトにペナルティを課す。ここでのペナルティとは、記事を大量に複製したサイトの検索順位が著しく低下するということだ。

  (2)著作権の制限がない状態で、自由に記事を転載できるということは、ブログ版スパムと言われる「スプログ」やインターネット上のあらゆる情報をかき集める「スクレーパー・ボット」にとっても、自由に利用できるということだ。グーグルの「アドセンス」など、広告収入が得られるサービスを悪用している者は、他人のブログや無料のニュースサイトにあるコンテンツを無断でコピーして、それを自分のサイトに貼り付け、アクセス数を集めることで、一儲けしている。同じことが、CCライセンスのコンテンツに起こっても不思議ではない。

  ゲートハウス・メディアが今回、CCライセンスで記事を発行するのは、メディアとブロガーにとって大きな一歩といえる。しかし、スプログで金儲けをする者など悪意のある者によって利用されないよう対策を講じることも重要だ。CCライセンスが普及し、ユーザー投稿型のコンテンツが増え、著作権による制限が今よりも大幅に緩和されれば、グーグルなどの検索エンジン各社はこの問題の解決に乗り出すことになるだろう。

  グーグルのウェブスパム対策チームのエンジニア、マット・カッツ氏にこの点について意見を伺ってみたいところだ。

■オリジナル記事:News Conglomerate Makes All of Its News “Free”
■ブログ:ザ・ブログ・ヘラルド(The Blog Herald)(2006年12月16日付)より
■筆者 トニー・ハング(Tony Hung)氏:
「ディープ・ジャイブ・インタレスツ」というブログの筆者でもあり、ウェブ2.0やブログについて詳しい。ザ・ブログ・ヘラルドは、ブログやブロガーについての情報を提供するブログとしては「老舗」的な存在。創立者はダンカン・ライリー氏。同ブログが始まったのは2003年3月で、当初は3万人程度だった月間訪問者数も、現在は45万人にまで増加した。2006年2月にブログメディア(現在はプロブロギングに改名)に買収され、その後、今年12月にブロギー・ネットワークに売却され、現在に至る。

ブログバースト(BLOGBURST)提供

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