左からのクロスボールを右足でトラップしたが、うまくいかず、再度胸でトラップし、落ち着かせたボールを右足でシュート。DFに当たったボールがゴールへと吸い込まれた。

 7月25日、中国上海で行われた上海申花との試合で、マンチェスター・ユナイテッドでの初めてのゴールを決めたというのに、香川真司はそれほど大きな喜びを見せなかった。
「なかなかきれいなゴールではなかったから……」と話してもいるが、「とりあえず、ゴールはよかったですけど、あくまでも相手も格下で、本当にこれからなんで」と何度も繰り返す香川のことを思うと、ファーストゴールは、香川にとって、やっとスタート地点に立てたくらいの意味しかないのかもしれない。

「ヨーロッパへ帰ってから厳しい戦いが待っている。代表組も帰ってくるし、次の試合、次の練習という風にアピールしていければいい」
 移籍決定直後から、「最初のインパクトが大事、結果を残したい」と話していた香川にとって、上海申花戦での決勝ゴールでは、まだまだ物足りないということなのだろう。
 
 ユナイテッドの2012-13シーズンは、恒例のワールドツアーから始まった。7月中旬から南アフリカで2試合戦い、そして7月23日未明に上海へ到着。英国との時差がは7時間あるものの、滞在期間が短いからと上海でも英国時間で生活を行った。簡単に言えば、明け方に就寝し、午後に目覚めるというものだ。
 スポンサーのイベントや公式インタビューなど主要選手は忙しいスケジュールを消化していたが、香川も当然その一人だった。
 7月25日の試合当日、スタジアムに集まった多くの中国人サポーターが、KAGAWAと書かれたユニフォームを着用している。当地では、昔からユナイテッドの人気はとても高い。そんな憧れのチームに日本人とはいえ、アジアの選手が加入したのだ。「香川はアジアの誇り」という風に語ってくれる中国人もいた。

 そして迎えた試合。ユナイテッドは、4−2−3−1のような形で、1トップはイタリア人のマケダが入り、その後方に立つ香川のポジションは、いわゆるトップ下という場所。しかし、開始早々から、香川はボランチよりも下がり、DFラインからのビルドアップパスを受けるシーンも多い。パス回しの組み立てに参加し、ボールをはたくと、前線まで駆け上がる香川。そしてそこから攻撃陣とのワン・ツーでゴールに迫りたいというイメージでパスをはたくが、ボールが戻ってくることは少ない。誰もが「俺が決めてやる」というようにシュートを放ってしまう。

「どうして、俺にパスをよこさないんだ!」
 たとえば、香川がそう主張することもできただろうが、彼はそうすることなく、次のプレーへと集中していた。ボールを持った相手DF陣へプレスをかけることも厭わず、そして、後方に下がってパスの組み立てにも参加する。そのうえでフィニッシュにも顏を出す……。技術面だけでなく、そういうハードワークできる姿勢がファーガソン監督を喜ばせたのは言うまでもない。
 試合後の会見では「(香川は)チームに大きな貢献をするだろう。今日のプレーには満足している。思考が速く、合理的な判断のできる選手だ」と評している。

 本来のプレミアリーグに比べたら、気温30度前後の中での上海申花戦でのプレースピードは、断然遅い。ユナイテッドのプレースタイルも、ボールを保持する形となった。そういう中で香川の存在が大きく輝いていた。面白いように彼の元へパスが集まる。豊富な運動量でパスコースに顏を出せる香川の能力の高さを表していたし、チームメイトたちも香川の力を信頼していたからだろう。香川も「技術的には今のところ、通用できていると思っているし、やれると思っている」と自信を見せる。