5月20日、JFL第12節栃木ウーヴァFC戦で今季昇格した藤枝MYFCがJFL初勝利をあげた。

JFL第12節 対栃木ウーヴァFCの結果報告(藤枝)

09年、WEBのコミュニティサイトを母体として生まれた藤枝MYFCは、10年に静岡FCを吸収し東海1部リーグに参戦、リーグ優勝を果たす。この年は地域決勝の一次ラウンドで敗退したが、翌年再び東海リーグを制し地域決勝でも準優勝。2012年からのJFL参戦を決めた。

同クラブの代表を務める小山淳氏は地元・藤枝東高校の元キャプテンで浦和・山田暢久の1年後輩にあたる。小中高と全国制覇の経験があり自身も中田英寿らと同世代のU-17日本代表候補だった。だが、早稲田大学時代に怪我で選手生活を断念。そこから世界放浪の旅を経て、ビジネスを学び、ベンチャー企業を立ち上げ、株式会社Jプレイヤーズの代表及び株式会社藤枝MYFCの代表としてサッカー界に戻ってきた。

シーズン開幕前、クラブ創設から3年でJリーグの一つ下のカテゴリーまでたどり着いた彼に、ここまでの歩み、今後の展望について話を聞いた。(取材・文 岡田康宏)

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【チームの行動規範は「紳士(真摯)たれ」】

小山:

09年にチームを立ち上げて2年目に静岡FCを吸収し東海1部リーグを戦って地域決勝まで出たんですけど負けちゃったんですよ。そのときに監督である斎藤俊秀と話し合って、チームをガラっと変えました。このままじゃ勝てないから、とにかく走るチームにしようと。それから、元Jリーガーで固めたチームはやめようと。それで、この年から大卒の若手主体に切り替えたんですよ。

もうひとつ、規律を徹底したんですね。静岡県では有名になってきたんですけど、茶髪、長髪、ヒゲ、ピアス禁止にしちゃったんですよ。僕も茶髪にしてたのに黒くして(笑)。それと審判に文句を言っちゃいけないというのを徹底させました。

万が一、異議でイエローカードを貰ったらクラブのルールとして3試合出場停止にしたんです。チームの行動規範として「紳士(真摯)たれ」と。僕はMYFCを育成型のクラブにしていきたいので、ほんとうの意味で子供たちのお手本になろうと考えているんです。

最初は選手も戸惑っていたんですけど、3試合出場停止は嫌じゃないですか、だから審判に一言も文句を言わなくなって、そうしたら勝てるようになっていったんですよ。なにが良くなったかというと、攻守の切り替えが早くなったんですね。

サッカーではよくあることなんですけど、審判のせいにする、味方のせいにする、なんでも人のせいにしがちなんですよ。その瞬間にコンマ何秒でも意識が飛ぶんですよね。それは絶対ダメと徹底させたら切り替えが早くなって、そのコンマ何秒の積み重ねが90分間で大きな差になってくるんですよね。

かなり厳しい走力トレーニングもやって、そうしたら後半逆転できるチームになって去年昇格してしまった。創設から3年でJFLに。地域決勝はある意味、一番大きな難関だと思っていたので上がれたのは大きかったなと。静岡FCは7年かかって上がれなかったですから。

【斎藤俊秀には「日本のベンゲルになってくれ」と】

Jリーグまでは最短であと2年ですね。藤枝市の総合競技場がサッカー専用1万3千人収容でバックスタンドとゴール裏が芝生席なのですが、そこを改修して5千席ほど増やせばJリーグ基準を満たせるんですね。今、スタジアム改修にむけた署名の準備なども進めているのですが、それがクリアできれば、すぐに準加盟できます。

スタジアム改修署名活動開始(3/2)(藤枝)

Jリーグに入れば創業社長として初めてのJリーグ入りですし、6部からJリーグまで指揮をとった監督もたぶんいないんじゃないかな。斎藤俊秀には「日本のベンゲルになってくれ」と言って誘いましたから。僕は斎藤俊秀を日本の宝だと思っているので世界に通用する監督に育てたいんですよ。

あれだけの一流だった男が6部リーグのどろんこのグラウンドで戦って、練習は小学校の校庭で自分でトンボをかけるわけです。「土でやる練習は本当にいい。凸凹のグラウンドなら基本をもっと大事にするし」とか言うんですよ。あの男にそれを言われたら、環境に関して誰も何にも言えないですよね。

将来は代表の監督をやってほしいし、海外のクラブで指揮をとる経験をしてほしいんですよね。僕自身は小学校4年のときに日本サッカー協会の会長になるって言ったんですが、自分でクラブチーム立ち上げて、Jリーグにもっていけば説得力あるかなと。これ情熱大陸のネタになりますよね(笑)。

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(新体制発表会見の記事。地元紙での扱いは大きい)

【藤枝という地域には探せば探すほど宝が埋もれている】

僕らが恵まれているのはまずグラウンドがあるということ。あの地域には天然芝のグラウンドが21面あるんですよ。人工芝も入れたら、約30面あるんです。そこを転々とするだけでいつも天然芝で練習できるので僕らは専用の練習場を作る必要がないんですよ。

選手でいえば中山さん、名波さん、暢久、長谷部、成岡、最近だと磐田の山田も藤枝東高の出身です。そうした選手が育つ土地柄なのに、いままでトップチームがなかった。そうしたサッカー文化の土壌がありながらも、地域全体をまとめるものがなかったから、その力が一つにまとまっていったら、そうとう大きな力になるんじゃないかと。藤枝という地域には探せば探すほど宝が埋もれているんです。

僕は生まれも育ちも藤枝ですから地元の関係者は僕のことを子供の頃から知っている人が多い。今の市のサッカー協会の会長が僕の中学のときのトレセンのコーチですし、市長はご近所さんで藤枝東高の先輩でもあります。また藤枝東高の監督は僕の一個上で一緒にプレーした方ですし、藤枝明誠の監督は僕の中学のときのトレセンのコーチです。それは大きいですよ。ああ、淳がやり始めたのかと。それで分かってくれますから。

【クラブが一枚岩でやっていけるように】

最初はクラブ経営も厳しかったんですが、1年半前にスクールを初めて、今は1千人を超える生徒が通っています。サッカーだけじゃなく野球もやっていて、本当に総合スポーツクラブを目指しているんですよ。ぼくはJリーグの理念が大好きで、10万20万の都市に1つずつくらいクラブがあっていいと思うし、いいスポーツクラブ文化は日本に求められていると思うので。そういうのを自分たちが一丸となって作って、そのノウハウを全国に波及させていきたいと思っています。

今、クラブの経営陣、選手、スクールのコーチまで合わせて60人から70人くらいのスタッフがいて、それが藤枝と東京にわかれているんですけど、月に2回、テレビ電話でつないで全体会議をやっているんですよ。そこで事業部ごとの状況を毎回報告しているので、選手でもしっかり聞いている選手は、うちのスクールに今何人生徒がいるのか、把握しています。

そうして情報をオープンにして一枚岩になってやっていっていく。全体会議のない週にはトップチーム会議というのもやっていて、選手たちは毎週、経営陣と顔をあわせて、私たちが何を考えているかというのを共有している。そうやってクラブが一枚岩でやっていけるようには工夫しています。

【教育コンテンツにならなきゃいけない】

また試合を中継してくれている地元のケーブルテレビにお願いして、インタビューを取るときにわざと嫌な質問をしてくれって頼んでいるんですよ。選手はその質問を受けて、ニコニコして答える。その受け答えについて全体会議でディスカッションする。

僕は今の日本でサッカーチームが継続的に発展していくためには、教育コンテンツにならなきゃいけないと思っていて、トップチームはその模範にならないといけないと思っているんです。たとえば英国とはサッカーの根付き方が違いますから。プレミアリーグみたいなのは、次の段階だと思うんです。

ゆえに「紳士たれ・真摯たれ」というテーマを持ってやっていて、そうなるとチームが強くても弱くても、軸がはっきりするんですね。MYFCの選手たちがほんとうの意味で地域の人々の目標だったり憧れだったりになっていけば、サッカーを知らない人にも関心をもってもらえるようになると思っているんですよ。

まず自分たちが仮説を立てて取り組み、結果を出してロールモデルとなることができれば、そのノウハウを伝えて広めていく。僕はこういったノウハウは全部公開していいと思ってるんです。それが表に出てみんなが知る頃には僕らはまた進化しているので。

僕らは自信を持ってやりながら、でも泥水を飲みながら、狂ったほど勝負をかけてやっている。藤枝でこんなことを考えて、こんなことをやっている奴がいるんだって、メディアの方でもまだ知らない人も多いと思うんですよ。何年か先、Jリーグに入ったらそこで気づいてもらえるのかもしれないけれど、今このタイミングから見ていてもらったら、もっとおもしろいと思うんです。

【おもしろいことが次々と起こるクラブに】

MYFCはAKBとかと同じプラットフォームだと思っていて、ノウハウを共有化しつつ、もっといろいろなクラブが出てくればいいと思っているんです。サッカークラブってやれることが無数にあって、その中で優先順位をつけてやっていかなくちゃいけない。僕らはまだ広報が弱くて、そこは現状では切り捨てている部分ですし、ネットのコミュニティの方は手が回らず開店休業状態ですが、それは優先順位の問題なので、いつか有効に活用したいとは思っている。

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(現在は開店休業状態に近いネットのコミュニティだが)

うちはバックに大きな企業もついていないですし、僕がやろうと決めればいろいろなことにチャレンジできる環境なわけです。しがらみのないチームだから、いろいろなことにトライできるので、みんなに育ててもらって、うまくいくこともいかないこともたくさん出てくるでしょうが、おもしろいことが次々と起こるクラブにしていきたいと思っています。

藤枝MYFC