開幕からまもなく2ヶ月が過ぎようとしている今年のJFL。アルテ高崎が今年に入って急遽リーグ脱退が決定されたことにより、今季は17チームによる戦いに変更され、そのため毎節1チーム試合がない変則的日程となっているが、上位争いは例年以上に混戦状態となっている。

その中でも、Jリーグ準加盟クラブとして昇格を目指すVファーレン長崎、カマタマーレ讃岐の2チームが当初の予想どおり順調に勝ち点を伸ばして上位をキープ。そしてそれに続くのが、こちらは予想外の上位進出となったびわこ滋賀が3位。首位争いを期待された長野パルセイロだが今節、カマタマーレとの「同期生対決」に敗れ一歩後退の5位。さらに9位のHonda FCまで、首位からの勝ち点差が5と肉薄した状況が続いている。

そんな混戦状況の今季の中で注目したいのは、J2徳島の美濃部前監督をTAに招聘し、選手補強も積極的に行った佐川印刷だ。現在は5勝2分2敗で4位に着けているのだが、シーズン前から実に的確な補強状況を敢行し、それが見事に今季の成績に反映されている。大卒組で即戦力として期待された山岡、岩崎、藤本、佐藤、田端はすでにチームの新しい力となり、Jから「助っ人」としてやってきた江添、池田、下畠もしっかりとその役目を果たしている。

中森体制になり5年目を迎え、熟成機を迎える印刷だが、美濃部TAがチームに入ったことで、より確実に勝てるチームへと変わろうとしている印刷。大型補強をしたからと言って、いきなり派手に打ち勝つチームに変わったわけではないが、決めるべき所、守る所という場面場面での「見極め」が高まっている印刷は、将来的な状況を含めて「Jを狙うチーム」にとって非常に厄介な存在となっていくだろう。

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そして次に紹介しておきたいのが、今年からJFLに加入した3チームのうちの一つであるY.S.C.C.(以下YS)だ。

関東リーグ時代から、観る者を魅了する「ハイプレス&パスサッカー」の追求を目指してきたYSだが、地域リーグレベルだけではなく、全国リーグとなった今でもそのサッカーが十分に通用することを証明しているのだ。

Jを目指すクラブのように、何千万円単位の大口スポンサーはいない。プロ契約選手の有無どころか選手はそれぞれ活動費を納めながらプレーであり、練習場は相変わらず固定されたグラウンドではない状況。さらには、仕事を終えてからの夜間での練習が大半を占めている。そんな中でも鈴木監督をはじめ選手、スタッフ一同は「限られた選手、環境の中でどこまで自分たちを高められるか? そしてどこまで見る人を魅了できるサッカーが出来るか?」に挑戦し続ける毎日を送っている。

長崎、長野とリーグ上位争いを予想される2チームとの対戦でスタートした今季は、内容は互角以上のものを見せたが結果的に連敗スタートになってしまった。しかし、続く3節のSAGAWA SHIGA戦に4-1と大勝してからは、一気に上昇気流に乗り上位争いに食い込んでいる。


鈴木監督は好調を維持するチームについてこのように語ってくれている。

「高いレベルでやれることに選手が喜びを感じています。結果的に上位に食い込んでいますが、チームとして常にチャレンジする気持ちを忘れてはいないし、新鮮の気持ちを持ち続けてプレーしていることが好調に繋がっていると思っていますね。

ウチは、選手個々の力では強いチームには太刀打ち出来ないと思っています。だからこそ、ハードワークと連携を高めて行かなければならないので、当初のフレッシュな気持ちを忘れることなくこの先のリーグ戦に挑んでいきたいと思います」


好調を維持しているYSだが、今年の新戦力でレギュラーを獲得しているのはサイドバックの西山とGKの高橋だけであり、それ以外のメンバーはほとんどが地域リーグ時代からのメンバーばかり。戦術も変えるどころか、自分たちがやってきたサッカーに自信を深め、さらにそのサッカーをもう一段高いレベルに対応できるよう努力を重ねている。

全国リーグで戦うには当然ながら、それ相当の戦力と資金力が必要だが、それらがベストな状態で揃わなくともやれることを証明し続けている「街のスポーツ(サッカー)クラブ」であるY.S.C.C.。2年続けてあと一歩というところで涙を呑んできたことは、決して無駄では無かったし、プロを目指さない普通のクラブでも全国の舞台でやれることを、この先も証明し続けて欲しいと願いたい。

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さて、その他にも興味深いチームをいくつか取り上げたいのだが、ここでは名門復活を賭ける年となっているHonda FCの話を触れておきたい。

新田、鈴木弘大などを擁し、一時代を築いた吉澤・石橋監督時代から一転し、過渡期の中で苦しい3シーズンを迎えてしまった大久保前監督時代。昨年は順位としては最終的に6位で終了し、悲観することもない位置で終えたが、天皇杯出場を逃すなど結果的には「物足りなさ」が残ったことは否定出来なかった。

そんな中で「名門復活」が期待される今季は前田仁崇氏がコーチから昇格。そして長らくチームを支えてきた新田純也が引退し、文字通り「新生Honda」のスタートとなる年となるのだが、開幕からのスタメン構成を見ても新しいHonda FCの姿が見えてくるようだ。

昨年までは意図的に「若い選手に経験を積ませる」という感じであったHondaだが、今年はかなり違っており前田監督はメンバー選考に関してはこのように話をしてくれている。

「年齢でメンバーは選んでいませんよ(笑) 当然、選手それぞれが競争し、その中で若い選手が伸びてきて、ベテランに打ち勝って実力でスタメンの座を奪っています」

とコメントしてくれたのだが、今年のスタメンを見れば最年長に当たるのが柴田や西といった選手になっており、随分と世代交代が進んできた感を受ける今年のHonda。そんな中で、若手が伸びてきた背景を考えてみると、やはり大久保前監督が試行錯誤を重ねたこともあったが、それでも若手を起用しつづけてきたことが今年に繋がっていると感じるのだ。

前田監督も「名門復活」を掲げているものの、「自分はこれまで積み重ねてくれてきたものの上にいるだけです」と語っているのだが、自分ではそれほど選手には指示を出しているのではなく、自主性という部分で大きく成長していると監督は話している。

また、自主性という部分に関してだが、これまでの試合でそれがいい形で現れていることも感じさせている。今年の基本戦術は中盤がフラットに並ぶ4-4-2を採用するHonda。しかし、形は常に流動的であり、時には香川がトップ下に入るダイヤモンド型になったり、ピンチと見れば土屋も下がってトリプルボランチの様な形を取るなど、ベンチの指示ではなく選手が自主的に判断して対応する場面が非常に多く目に付いている。

そして新生Hondaの目玉というか、JFL全体での「新星」と呼べそうなのが法政大から入団(入社)した浅田大樹である。

チャンスと見れば、果敢にチャレンジし、右サイドを蹂躙するスピードスター。大学在籍中にいくつかのJスカウト陣も注目したのだが、結果的には獲得するチームがなくHonda入りとなったが、彼の動き(活躍)は十分プロで通用するはずであり、この機会に名前を是非とも知って貰いたいものである。

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さて、最後にリーグから脱退してしまったアルテ高崎関連の話をしておきたい。

何を今更という話だが、昨年末から運営母体のゴタゴタに巻き込まれ、ついにはチームがリーグから去ることとなり、現役続行を希望する選手はそれぞれ新しい進路を見つけて今日に至っている。

ということで、アルテの選手たちの進路先をもう一度まとめておきたい。

GK:安藤淳也、岡田大/福島U(東北1部)、土田健太/OFC(群馬2部)、岩舘直/水戸(J2)

DF:小島直希/福島U(東北1部)、岩澤徹/YSCC(JFL)、長谷川務/岐阜SECOND(東海1部)、小林亮太/G盛岡(東北1部)、山田裕也、塚本一希/群馬教員(群馬1部)、島優也/琉球(JFL)、田中舜/JSC(北信越1部)、布施有太/ソニー(JFL)、増田清一/引退(神戸下部組織コーチ)

MF:川里光太郎、安間ム月/栃木UVA(JFL)、佐藤大樹/OFC(群馬2部)、益子義浩/福島U(東北1部)、山藤健太/ソニー(JFL)、望月大地/藤枝(JFL)、田代主水/奈良クラブ(関西1部)、神谷恭平/G盛岡(東北1部)、石沢泰羅、関根真、白山貴俊/引退(神戸下部組織コーチ)

FW:伊藤和基/YSCC(JFL)、小林定人/JSC(北信越1部)、松尾昇悟、竹越夏基/長野(JFL)、土井良太/草津(J2)

後藤監督/東京国際大学コーチ

30人のメンバーの中で、当初から引退を表明していた増田はともかく、結果的に引退となったのは3人だけであり、その他の26名はカテゴリーの違いはあれど、晴れて現役を続けることになった。そして現在のJFL全体を見渡してみると、意外に「元アルテ(ホリコシ)」経験者が多いことが目に付くのである。

Y.S.C.C.に移籍した伊藤はレギュラーを掴み、ソニー仙台に移籍した山藤、布施も出場機会に恵まれいる。さらに栃木UVAに移籍した川里、長野へ移籍した松尾、竹越もそれぞれ活躍し、J2草津に「昇格」した土井も先日スタメンのチャンスを与えられた。

さらにもっと深く見ていけば、長崎で中心選手と活躍する杉山琢也に岩間雄大、YSCCで攻撃の核となっている吉田明生、長野のCBを務める小川裕史、秋田の久保田圭一、横河武蔵野で息長くプレーし続けている小山大樹、長野の第二GKとしてベンチ入りしている田中賢治、さらにJ2東京ヴェルディの秋葉勇志や現在はロアッソ熊本に在籍する藏川洋平もこのチームのOBでもある。

このように、直近の試合でも数多くの元アルテ戦士が高いカテゴリーで活躍している現実を見ると、なんとか特例でもいいので、このチームをリーグに残して欲しかったと思うところだが、実際にアルテに関わったいろいろな選手に話を聞くと、なかなか面白い返事が返ってくるのだ。

「いや、本当にあのチームだけはいろんな意味でマジ勘弁ですよ(笑)」
「Jリーグの一つ下のカテゴリーじゃなきゃ絶対に辞めてました」
「ステップアップするのには最高のチームだと思います」
「待遇、環境は最悪でしたが、やる気さえあればチャンスが転がってましたね」

確かに、母体である創造学園大学や、理事長の評判は最悪である。しかし、プロになれなかった選手や、一つでも上のカテゴリーで活躍したい選手にとって、アルテ高崎(FCホリコシ)は、まさに「救いの神」「駆け込み寺」のような存在であったことは否定できないのだ。

かつては不祥事や内紛が続き、不名誉な記録を打ち立てしまうなど、JFLのお荷物と呼ばれた存在だったアルテ。だが、後藤監督が就任してからの3年間は確実に成長を見せ、毎年のようにステップアップしていく選手を輩出するなど、JFLで戦うクラブでありながら、結果的に23歳以上の選手を成長させる「育成機関」として役割を担ってきたアルテ高崎。

そして後藤アルテから巣立っていった選手たちが、それぞれの居場所で活躍している現実があるのだが、これから先、選手達がどのように活躍し、更なる成長を見せるかにも注目していきたいし、東京国際大学のコーチに転身した後藤義一氏の新しいチャレンジも見守っていきたいところだ。