「この50cmが世界だ。こういった細かいところを意識しないと」

風間八宏氏の指導で印象に残っている言葉である。要は、シュート練習の際に出すボールも、意識して世界でも通用するスピードと正確性を持たせ、さらにフィニッシュまで徹底しようということだ。

当たり前に思えるだろうが、それが浸透していないのが現状ではないか。たとえば、JFA公認C級コーチの更新講義の中にあった技術習得の指導実践、トラップで相手を抜きゴールを目指すというもの。相手DFの体の向きや、間合いを把握して、ファーストタッチをどこに置くか判断する。バルセロナの選手たちの得意な部分だ。

これをどう選手に習得させるかという練習ではあるのだが、最終的な目的は“ゴールを奪うため”のはず。 にもかかわらず、これから指導を行う参加者自体が、ファーストタッチが上手くいくと、その後はボーナスのようなプレーになることがほとんどだった。シュートを打って、GKに弾かれても、それを詰めるような姿勢はない。コーチに「最後まで」と声かけされても、スイッチが入らない。もちろん、トレーニングだからというのもあるのだろうが、我々の根底に、ゴールに対する渇きや喜びが欠けている気がする。

そんな風潮だからこそ、風間氏は「意識を変えろ」と指導するし、中田英寿氏や本田圭佑が海外移籍後に「一番変わったのはゴールへの意識」と語るのかもしれない。それは、ボールに対する執着心にも繋がり、藤田俊哉が感じた「日本だと、相手に対して、まずディレイ(遅れ)させる。けど、海外だと奪いにいくんだよね」というアプローチの違いとしても現れる。

そういった個々の意識がベースとなり、海外ではハイプレッシャーで試合が行われている。逆にハイプレッシャーの少ない日本は、「世界のプレッシャーと比べた時に、各年代の守備意識は低い」(JFAテクニカルニュースより)。 海外トップリーグで活躍するためには、そういった日本にはない環境を克服しなければいけない。ゆえに、それを乗り越えた本田はワンランク上の選手になった。

とはいえ、だから「海外移籍すべきだ」と安直には言えない。 試合に出られなくても、海外での生活は勉強になるとは思う。メディアへの対応が、海外から戻ってきてかなり変わる選手も多い。ただ、それは選手としての才能を育んだかどうかとは別問題である。

Jリーグに復帰した伊藤翔や梅崎司、水野晃樹にしろ、「海外に行って伸びたな」と感じるシーンはほとんどない。ほとんどというのは、成長はしているのだろうが、それは海外だからこその成長には見えない。試合に出られていないのだから当然だと思う。他にも海外からJに戻ってきた選手は多くいるが、遠藤保仁のように日本で試合に出続けていれば、もっと伸びたのではないかと感じてしまうことがある。

海外に移籍することに意味はある。しかし、行くだけでは、たとえば有名大学に入っただけのようなものだ。決してそこはゴールではない。試合に出場することこそ先決で、かつ自身の能力を見極め、見合った環境に身を置いて邁進しなければ意義が薄れる。『50cmの世界』で戦う場は、あくまでも試合のなかにあるのだから。