■成績低迷、入場者数は右肩下がり

J2第17節熊本戦。熱戦のさなかに入場者数がアナウンスされると、スタジアムはざわめいた。6,637人。日曜夜の開催であることや折からの大雨が祟ったとはいえ、九州ダービーにも関わらず今季最低の記録だ。しかもゲームは土壇場で追いつかれてのドロー。順位も18位まで後退し、これでは集客は厳しくなる一方ではないか。「7.9大分総力戦」と銘打ち3万人の観客動員を目指す第20節FC東京戦まであと20日−。

それでも「現状から見ればの話ですが、現時点で手応えがなくはない」と、チケット担当の水島伸吾チーフマネージャーは言った。8日には県内の主要駅および大分空港の計13箇所でチラシを配布。選手たちも練習の合間を縫って商店街を回りポスター掲示を依頼した。県内各地の幼稚園や学校でのプロモーションに、メディアを通じた告知も進行中。関係者の誰もが何らかのミッションを遂行中で、事務所には明るい緊張感が漲っている。

各方面でのチケット1次集計が24日。その時点で公式サイトに途中経過を発表するという。数字の推移を見守ってもらうことで人々の関心を集める算段だ。26日の鳥取戦、29日の横浜FC戦とホームゲームが続き、7月2日はアウェイだが隣県の北九州戦。この連戦で気運を高め7.9への勢いとしたいところだが、果たして最初の発表は、どうか。

■ライト層に「おらが街のチーム」を印象づけよ

通常であれば観客の割合は、ライト層のファンを底辺に、シーズンパス購入者などのサポーターを頂点にしたピラミッド型を描く。ところが現在の大分ではそれが逆三角形になっているのだという。コアなサポーターたちは成績に関係なくスタジアムに足を運ぶが、J2降格や経営危機のごたごたなどによりライト層が急激に離れていったことが原因だ。「今回の3万人動員を契機に、せめてこの逆三角形を台形くらいにまで広げたい」と水島氏は語る。ライト層の心を掴むために手っ取り早いのは戦績を残すことだが、現状、即効性は望めない。となると、「おらが街のチーム」を印象づける必要がある。

しかし告知や宣伝にはじまり会場設営や警備員の配置、シャトルバス運行など運営全般にわたって経費が嵩むことは免れない。資金難のクラブにとっては大きな賭けだ。集客は可能な限り効率的に行わなくてはならない。招待券の配布対象を明確にすることでその後のフォローを継続できる態勢を整え、イベント別に入場者の属性を把握、データ化して次の集客に繋げる仕掛けも設けた。コストを抑えた参加型の企画で観客を巻き込み、ブログや口コミによる情報拡散にはサポーターにも協力してもらえるよう呼びかけている。

■歯車が噛みあって組織が機能しはじめる

こういった細やかな活動を実現したのがクラブ内の組織改革だ。今シーズンのチームスローガン「総力戦」の名の通り、部門ごとにスペシャリストを置くのではなく、全員が全体像を把握して動くかたちになった。今回のプロジェクトもトップダウン形式の指示ではなく、若手社員の提案が発端。社長を含めた社員同士が闊達に意見交換する場が、社内のあちこちで意図的に作られている。

組織編成には社員のパーソナリティが生かされる。たとえばかつて溝畑宏・前社長の社長室長を務めていた白岩昌平氏は現在、営業部所属。近隣の小口スポンサー約150社を担当し、日々足繁く通っている。強引と誹られもしたが営業においては辣腕を誇った溝畑氏の捨て身の仕事ぶりを、最も近くで見てきた。当時の経験から学んだ営業の極意を、現在の持ち場で生かす。

キーマンは経営企画室室長の青影宜典氏だ。財務・経営のコンサルタントとしての経験が買われて青野社長にスカウトされ、「大分の財産であるトリニータをなくしてはならない」と大分FCに入社。当然家族は大反対し、「あの会社は大丈夫なのか」と懸念されたところを「大丈夫じゃないから俺が行くんだ」と押し切っての決断だった。「現場の経験豊富な仲間たちがいなければ私の理論は机上の空論でしかない」と言うが、彼こそが今までの大分に欠けていた歯車だったと言える。