ゼリコ・ペトロヴィッチが浦和を率いて約5カ月が経過した。現在、チームは思うような結果を出すことができず、開幕から下位に低迷し続けている。なかなかJリーグの中で結果が伴わない現状だが、指揮官は自らの掲げるサッカー・スタイルに対し大きな自信を持ち、日々前進し続けている。浦和レッズマガジンはそんな熱き指揮官にインタビューを実施。彼が掲げるオランダ式サッカーとJリーグのサッカー、そして彼が言い放つ“楽しいサッカー”とは。


ペトロヴィッチ監督の言葉には、サッカーやサポーターへの想いが込められている [写真]=足立雅史


――選手に言及するのではなく、監督が目指すオランダのサッカースタイルは、今のJリーグの中ではあまり成功した例がありません。他チームの戦い方を含めて、ご自身が志向するサッカースタイルをJリーグの中で機能させる難しさは感じていませんか。

ペトロヴィッチ「Jリーグの主流は、カウンターフットボールですよね。ほとんどのチームがラインを下げてカウンターを狙っている。それは非常に危険な兆候です。すごく引いてカウンターをするサッカーで結果が出る、もしくは上位に行けるようでは日本のサッカーは成長できません。結果が出ているんだから良いサッカーという考え方もありますが、そう思うこと自体が大きな間違いです。日本のためにはもっと違ったサッカーを追い求めなければなりません。長い時間を掛けて、日本のサッカーは成長を果たしているのです。というのも、今は若い選手が育っているし、海外からも注目を浴びている。その中でJリーグのほとんどのチームがカウンターを志向してしまうと、海外が日本のサッカースタイルに対してとてもネガティブな印象を抱いてしまいます。日本に行ってもカウンターしかしないのならば、日本に行きたいという指導者や選手がいなくなってしまうのではないでしょうか。魅せることをしないと大きなスタジアムにわずかな観客しか集まらなくなる。観衆を魅せて、たくさんゴールを生む。11人が自陣に引きこもってカウンターを狙い、相手のミスから3、4回のチャンスをモノにし、少ない点数で勝利を目指すのでは、誰もサッカーを楽しむことなんてできません。たくさんゴールを奪うために攻撃的なスタイルを志向してるのです」

「そのために選手のスカウティングを行い、セレクションをする。攻撃的なサッカーを実践するためにはどういった選手が必要なのか。例えば前からプレスを掛けるためにはディフェンスラインの後ろに大きなスペースを与えるので、そのスペースをケアできるスピードのあるDFを起用しなければなりません。FWであれば、ほとんどのチームはカウンターを志向するので、そのカウンターに適した選手をセレクトするだろうが、逆に言えば、前からプレスを掛ける攻撃的なサッカーに、そのようなFWは合っていないかもしれない。ではどういったFWが必要なのか。そういった理念、志向を確立させるためにも、このクラブ内で私の考えを投影させていきたいと思っています。オランダは人口が1600万人しかいませんが、志向するサッカーは常に攻撃的で、たとえトゥベンテがACミランと対戦しても、PSVがアーセナルと戦うとしても常に攻撃的に立ち向かいます。守備的に引いて負けることもある。それならば、自分たちは常に攻撃的に戦う。その方が選手たちのメンタルも高まります。ひとりかふたりの限られた選手の能力だけに頼って、カウンターに期待し続けるなんて、プレーしていても楽しくないはずです。それは観ている側も同様でしょう。これは私の意見ですが、常に自らが主導権を握って組み立てを行い、どこで数的優位をつくれるのかを考え、大きなサイドチェンジから1対1の局面を生みだし、一気にシフトアップして相手に襲い掛かる。それが楽しいサッカーで、サポーターも熱狂するはずだと信じています」

「プロのサッカーチームはサポーターを楽しませ、喜ばせるために存在している。ただし今の日本は、ほとんどそのようなサッカーを志向していません。特にビッグクラブという称号を得ているチームが消極的な戦い方をしています。それは残念で馬鹿馬鹿しいことです。日本の中だけで完結して世界を見ない。それでは前に進めないでしょう? オランダは小さな国なのに、ほとんどのヨーロッパの国が選手を成長させるために最も適した環境が整っていると評価する。その理由を日本もしっかりと探ってもらいたいのです。本田圭佑はオランダのVVVで攻撃的なスタイルを志向したことで飛躍的に成長しました。もしJリーグに残ってプレーしていたら、今の彼がありましたか? 宮市亮はオランダで驚異的な成長を果たしている。香川真司はドイツのドルトムントですが、ドルトムントも攻撃的な志向を持つチームだからこそ成長している。彼らを見れば、日本がどんなサッカーを志向すべきか、自ずと分かるはずです。これまで日本を支えてきたビッグプレーヤーも海外でその経験を積み、それを日本に還元してきました。中村俊輔も小野伸二も三浦知良もそうです」

「ただ、今の段階でレッズは勝ち点8しか積み上げていない。首位とは勝ち点14差ある。そういったチームの監督が何を言っているんだと思われるかもしれません。しかし、そのように勝ち点だけを見ているようでは長期的な成功は果たせないのです。攻撃的な志向を追い求め、それを貫きさえすれば、必ず自分たちが彼らの上を行くことになります。今のレッズの不甲斐なさは認めます。しかし、未来にはレッズが頂点にいることを確信しています。今、私たちは勝ち点を得られてはいないが、サッカーを楽しんでいる。勝ち点がたくさんあっても『カウンターしかやらないのかよ』などと思って練習していては、いつまで経っても幸せなんてつかめるはずはないのです」


 揺るがぬ信念と、サッカーに対する情熱。彼の想いをすべての選手が理解し、ピッチで完璧に表現出来たその時。浦和レッズは新たな時代を築き上げ、Jリーグに旋風を起こしてくれるかもしれない。

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不甲斐なきレッズ

【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING(twitterアカウントはSoccerKingJP)』の編集長に就任。