見事「アジア王者に返り咲いた」日本。…というか、追い込まれながらも勝利するというストーリーで「やっぱり日本は強かった」と思わせるに十分な大会であったことから、「アジア王座を防衛した」という表現が近いのかもしれませんね。当たり前だけどアジアカップの立ち位置はユーロだしコパアメリカなんですよね。改めて、これってスゴイこと。


さて、今大会にも多くの収穫がありました。

中でも大きな果実は「アジアサッカーへの見方と意識が変わった」ということでしょうか。それは、日本人のサッカーの関わり方が変わるエポックメイキング的な出来事だった、と言っても大袈裟ではないと思います。

そもそもサッカーに限らずアジアを軽視しがちな日本。アジアサッカーに関しても「たいしたレベルではない」、「日本がトップで当然」、「他のアジアの国とは(いくつかの国を除いて)圧倒的な実力の違いがある」などと思っていた傾向が強いと思うんですね。しかし実際には1998年から4大会連続でW杯に出場した程度の実績しかない(これを否定するつもりではありませんが)わけで、それまではアジア予選すら突破できなかった。世界で観れば新興国の一つにしか過ぎません。

けれど何故か、アジアを軽視する。大衆の意識に大きな影響を与える「報道」の中でもアジアサッカーの特集はほとんどありません。それは情報がないのではなく、情報を収集しようと思っていないから。現地の新聞などでは毎日、自国リーグや代表チームの情報が踊っているのに。(そもそもアジアカップもアジア大会もその違いがよく分からなかった日本人も多かったのではないでしょうか。サッカーファンを自認している方も含めて。)

アジアのそれと比較すれば遥かに厳しい欧州予選をくぐり抜け、ほぼ全ての大会に出場している、例えばドイツ、イタリア、スペインなどの欧州列強とは、実績も、もちろん実力もまだまだ差があります。

もちろん、TV放映の関係で欧州リーグをよく目にする多くの日本人にとっては、欧州のレベルがスタンダードであり、憧れであり、目指す最終的なゴール。翻ってアジア程度のレベルは二の次であり、予選など当然突破するものであり、単なる踏み台に過ぎない、と。そんな意識も、アジア軽視のイメージを無意識のうちに植え付けてしまった可能性が高いと思ってます。

これが、今大会で変わった。
少なくとも、変化の兆しをコレナガは感じています。

アジアカップの蓋を開けてみれば苦戦の連続。レバノンやシリアといった強豪国とは認識していなかった国々に対してもギリギリの勝利が続き、結果だけを観ている人は「おや?日本代表は弱いのかな?」と思った人も多かったかもしれません。韓国、オーストラリアには一方的に攻められる時間があったにも関わらず、何とか勝利することができた。とりわけ両国には選手の個人能力で「もしかしたら日本が劣ってるかもしれないな」という瞬間がいくつもありました。けれど、チーム一丸となって「絶対勝つんだ!」という意志を全面に出して勝利したことに、日本中が心を揺さぶられたわけです。

また、南アワールドカップでの善戦で久しぶりに世間一般からの注目が集まったことで、アジアカップの視聴率もかなり良かったと聞いています。これは、サッカーファン以外も含めた多くの日本人たちが心を揺さぶられたということです。そういった多くの皆さんに対して、かえって苦戦することによって日本代表はドラマを見せてくれた。それこそが、意識の変革を促すのです。

この大衆の皆さんのアジアに対する意識の変化が、日本代表を強くする(=W杯で勝利する)ことに大きな影響を与えるのです。ドラマはドリームとなって、ビジネスへとつながります。ビジネスとなることでそこにおカネが集まり、競技レベルが上がっていくのです。
(コレナガ提唱「DDBDサイクル(Drama→Dream→Business→Development」)

そしてここで言うビジネスの対象は「アジアサッカー」です。つまり、今大会の劇的な勝利がアジアへと目を向けることになり、クラブレベルに落とし込んだACLにつながり、ひいてはJリーグのさらなる発展、そして日本代表の強化へと開けてくるのです。

簡単に言えば、
アジアで勝つのはラクじゃない→アジアも意外とレベルが高いんだな→アジアも面白そうだな→あの選手良い選手だったな→どこのクラブに所属してるんだ?→ACLに出てるチームなのか!→ACLを見てみよう→Jリーグで出てるチームは…→Jクラブはやっぱりスゴイな→Jの試合を観に行こう→W杯のアジア予選も楽しみだ→もっと応援しよう→TVを見よう(視聴率向上)→スポンサーになってみようかな→競技環境の整備→競技力向上
(並べると長い道のり 笑)
という発想につながってくるかもしれません。

一つだけ言えることは「少子化=内需減少」の日本国内だけでは経済は停滞、つまりこれ以上のおカネをサッカーへと持ってくることは、非常に大きな労力が必要となります(不可能ではないと思いますが)。現実的にもかなり苦労しているクラブが多くあります。だからこそ、もっと強くなるために一つ大きなステップを踏んで、外国からおカネを集めなければならないのです。

先ほどのストーリーの途中段階でACLに目が向く流れになってくることは、日本国内だけでなく「アジア諸国からの見え方も大いに変わってくる」でしょう。そしてこれこそがJリーグが停滞を抜け出す大きなきっかけになると思っています。例えば、Jリーグ外国資本の禁止というルールを変革させる後押しになるでしょう。タイの乳飲料メーカーやインドの自動車メーカーがどこかのクラブのスポンサーになるかもしれない。そこに端を発してしてどこかのクラブが買収されるかもしれない(事の善し悪しは別の議論として)。

コレナガは欧州からおカネを持ってくるのは難しいけれど、アジアからは可能性があると思っていますし、実際にそういう感触を得ています。なぜなら、アジアにおけるプレミアリーグはJリーグだから。

欧州の企業たちは当たり前のように欧州のクラブに目が行くでしょう。注目度や歴史を鑑みても、どうせおカネを出すならば価値が高い(=価値を企業にもたらす)自国のリーグ、あるいは近隣諸国のリーグでしょうから。

けれども、その第一段階としてアジア諸国の目は向けることができるかもしれない。確かにアジアでは欧州リーグ、とりわけ囲い込みを戦略的に行ってきたプレミアリーグの人気は高い。一流クラブのオーナーがアジア出身というクラブもありますね。けれど、どのアジアの国に行っても「Jリーグがアジアで最も素晴らしいリーグだ」と賞賛されます。つまりそこに「憧れ(=ドリーム)」が生まれる可能性は非常に高い。そしてドリームが生まれれば、さらなるビジネスも生まれてくるのです。潜在的なこの層を、是非、実利として持ってきたい、と、いち日本サッカーファンとして願うのです。


巡り巡った話でしたが、だからやっぱり勝負には勝たないといけないし、勝つことで大きく広がる世界が間違いなくあったと思うのです。そういう面でも今大会の勝利は、日本サッカーの歴史から考えても非常に大きいし「ありがとう、日本代表」なのです。


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