■ 準決勝

アジアカップの準決勝。MF香川の2ゴールの活躍もあって開催国のカタールを3対2で下して4大会連続でベスト4に進出した日本代表と、イランを延長戦の末に1対0で下した韓国代表の対戦。日本と韓国は2007年大会の3位決定戦で対戦し、このときはPK戦で韓国が勝利している。

日本は<4-2-3-1>。GK川島。DF内田、岩政、今野、長友。MF遠藤、長谷部、岡崎、本田圭、香川。FW前田。カタール戦でレッドカードを受けたDF吉田が出場停止でDF岩政が初スタメン。カタール戦で出場停止だったDF内田が右サイドバックに復帰してきた。

対する韓国も<4-2-3-1>。GKチョン・ソンリョン。DFチャ・ドゥリ、ファン・ジェウォン、チョ・ヨンヒョン、イ・ヨンピョ。MFキ・ソンヨン、イ・ヨンレ、イ・チョンヨン、パク・チソン、ク・ジャチョル。FWチ・ドンウォン。DFイ・ジョンスは出場停止。MFク・ジャチョルはここまで4ゴールを挙げており得点ランキングトップタイと好調。控えのDFカク・テヒは京都サンガ、GKキム・ジンヒョンとMFキム・ボギョンはセレッソ大阪所属のJリーガーである。

■ 1対1で延長戦に

試合の立ち上がりは予想外に日本が攻め込む。サイドから攻めて立て続けにコーナーキックを獲得する。しかし前半10分を過ぎると韓国がいい形を作り始めると、前半22分にロングフィードからDF今野と競り合ったMFパク・チソンがPKを奪う。MFキ・ソンヨンが決めて韓国が先制する。

しかし、日本もあわてずに反撃。前半36分にMF本田圭から左サイドを駆け上がったDF長友に絶妙のスルーパスが通ると、DF長友がゴールに向かってドリブル。相手を引き付けて最後は中央のFW前田にラストパス。FW前田がうまく合わせて1対1の同点に追いつく。日本は前半終了間際にもMF本田圭のパスからFW前田がゴール前でフリーになってシュートを放つが、韓国のGKチョン・ソンリョンにセーブされてしまう(判定はゴールキック)。前半は1対1の同点で折り返す。

後半の立ち上がりは日本がMF香川が前を向いて仕掛けるシーンが出てきてチャンスを作るが、徐々に運動量が減ってきて韓国ペースとなる。レフェリーがファールを取りすぎるため、日本はリズムを作れずに流れを失ってしまう。後半42分にMF香川に代えてMF細貝を投入し、トリプルボランチ気味の布陣に変更。一方の韓国はゴール前で何度かフリーキックのチャンスを得るが決められず。結局、1対1のままで延長戦に入った。

■ 日本がPK戦を制す

延長前半7分に日本はMF本田圭のスルーパスからゴール前に飛び出したMF岡崎が倒されてPKを獲得。キッカーの
MF本田圭のキックはGKの正面に飛んで防がれるが、途中出場のMF細貝が押し込んで2対1と逆転に成功する。MF細貝はAマッチで初ゴール。

勝ち越した日本は守りを重視した布陣で逃げ切りを図るが、試合終了間際に右サイドからセットプレーを与えると、混戦からDFファン・ジェウォンが押し込んで、韓国が土壇場で同点に追いつく。試合は2対2でPK戦に突入する。そのPK戦は日本のGK川島が大活躍。韓国のキックを3連続でストップし、最後はDF今野が決めて3対0という珍しいスコアでPK戦を制して、日本は2000年大会以来の決勝進出を決定させた。

■ GK川島永嗣の活躍

試合終了間際に同点に追いつかれて嫌な流れでPK戦に突入した日本だったが、GK川島の活躍で勝利。オーストラリアとウズベキスタンの勝者と決勝で対戦することになった。

「あと少しで逃げ切り」というところで追いつかれたため、雰囲気は悪かったが、日本の最初のキッカーのMF本田圭が豪快に蹴りこんで勢いをつけると、韓国の最初のキッカーのMFク・ジャチョルのシュートをGK川島がビッグセーブ。さらにMF岡崎が決めた後、韓国の2番手のMFイ・ヨンレのキックをまたしてもGK川島がストップ。これで大勢は決まった。

W杯のパラグアイ戦では5本連続で止められず悔しい思いをしたGK川島であるが、その次の機会で見事にリベンジを果たしたことになる。準々決勝のカタール戦はミスから失点したことで評価を落としており、スタメン落ちの可能性も報じられていたが、不安感を払しょくする活躍だった。

■ 前半はグッドゲーム

微妙な判定で先制点を奪われた日本であったが、前半の出来は素晴らしく、特に攻撃陣はサイドをうまく作ってチャンスを作った。

FW前田の同点ゴール以外にも、MF岡崎のヘディングシュートがポストを叩くシーンや、右サイドを崩してファーサイドのMF本田圭が合わせるシーンなど、流れるようなパスワークからサイドを崩す「日本らしい攻め」が何度も見られた。これまでの試合で問題視されていた前線の4人の関係もスムーズで、MF本田圭が右・左とサイドに流れることで中央にスペースを作って、そのスペースをMF香川らが生かして韓国守備陣を崩していった。

一方の韓国は、前半の攻撃はほとんどロングボール。FWチ・ドンウォンがまずまずの確率で競り勝っていたので、戦法としては間違いではないと思うが、エレガントさに欠けるものであり、グループリーグのオーストラリア戦ではもっと中盤からパスをつなげていたので、意外な戦い方であった。

■ 後半はバッドゲーム

前半は1対1とはいえ、日本が優勢。このままのペースでいければ、逆転ゴールは時間の問題であり、「素晴らしい内容の勝利」となったはずであるが、思うようにはいかなかった。想定外だったのは、日本の足が先に止まってきたことであり、次第に韓国のロングボールのこぼれ球を拾えなくなった。日程的には日本が有利なはずだったので、意外な展開だった。

この時間帯で、韓国がもっと圧力を加えてくれば日本にとっては危険だったが、センターフォワードのFWチ・ドンウォンを下げて、MFホン・ジョンホを投入するという交代に出て、助かった部分はある。FWチ・ドンウォンは前線でうまく競って起点になっていたので、FWチ・ドンウォンが下がったことは日本にとっては大きかった。もちろん、日本もバイタルエリアでボールを持てる回数が増えてきていたので、そこにアンカーを置きたいという韓国の考えもよく分かるが、センターフォワードがいなくなってありがたかった。

■ 韓国の執念

2対1で逃げ切れるかと思ったが、最後の最後で追いつかれてしまった。さすがに韓国の粘りは脅威であり、試合を通してラフプレーも少なくて、敗れたとはいえ韓国代表の戦い方も素晴らしいものがあった。正直、試合前は、韓国代表の力を過小評価していた部分もあって、後半はもっと日本ペースになると思ったが、彼らの動きは落ちなかった。

韓国にとって気の毒だったのは延長戦のPKの判定。前半のPKのお返しのような形になったが、リプレーを見る限り、あのプレーはファールではなかったと思う。試合の行方を大きく左右するものであり、猛抗議したくなるような判定であるが、韓国チームも過度に抗議することなく、その後もフェアに戦ったことについては、称賛したいところである。

プレーヤーではMFク・ジャチョルが危険だった。大会で4ゴールを挙げており「乗っている選手」という認識はしていたが、実際に日本と戦ってみて、フィジカルも強くて、技術もある好プレーヤーだった。後半途中にいったんMFク・ジャチョルを下げようとしたが、韓国としては下げずに正解だった。

他にはハンブルガーSVのFWソン・フンミンが目についた。2対2に追いつかれたシーンで、ペナルティエリア内でシュートチャンスを迎えたがあわてずに時間を作ってからシュートを放った。日本のDFが飛び込んできたのをうまく外してシュートを放ったことが、同点ゴールにつながった。

■ レフェリーのレベル

結果的にPK戦で勝利したが、レフェリーの質という意味ではアジアカップの5試合の中でももっとも低いものであった。日本は延長戦でPKをもらったが、それ以外では日本にとっては不利な判定が多く、アジアの盟主の座をかけて戦う試合は、両チームの選手たちの頑張りで素晴らしいものになったが、一歩、間違えると「レフェリーが試合を壊した」といわれても仕方のないゲームであった。

立ち上がりから日本が押し気味で、韓国が少し盛り返してきたところでPKの判定が下った。ボールに向かっていたのが、MFパク・チソンで、ハイボールの処理がうまいわけではないので、そこまで強くアタックする必要はなかったかもしれないが、DF今野がショルダーチャージをしてPKを取られてしまった。

リプレーで見る限りは正当なチャージに見えたが、レフェリーがPKと判断したのであるから仕方がないとはいえ、せっかく、日本と韓国というライバル国がしっかりと組んで攻め合っていただけに、0対0の状況で、両チームがどのように相手を崩していくという「せめぎあい」を見てみたかった。レフェリーに対して「空気を読んでほしかった」という気持ちは否定できない。いい試合になりかけていたところで、水を差された感じは残った。

また、PKシーン以外にも、接触プレーですぐにファールを取ってしまうので、プレーが流れないのでリズムが出なかった。「韓国びいきの笛」ではなかったが、結果、フィジカルに優る韓国有利になることが多かった。「いいディフェンス」と「ファール」は紙一重であり、手を使ったからファールという訳ではない。うまいフェリーであったならば、もっとエキサイティングな試合になったはずであり、その点では残念だった。

■ 追いつかれたこと

勝ったとはいえ、やはり1点リードで延長戦の終盤を迎えており、2対1で逃げ切らないといけない試合ではあった。韓国は延長戦の前半13分に196?のFWシンウクを投入。この時点で、すでに韓国の「高さのある攻撃」に戸惑っていた日本はさらにピンチに陥った。日本はMF伊野波、MF本田拓という守備的なポジションの選手を投入し、守備を固める作戦に出たが、うまく守備が機能しなかった。

この試合は、DF吉田が出場停止のためDF岩政が先発したが、韓国のロングボールに試合を通して苦しめられる結果になってしまった。韓国の攻撃はほとんどがロングボールがスタートになっており、1点目のPKを与えたシーンもロングボールが起点だった。DF岩政は良く頑張っていたが、ディフェンスラインには不満の残る試合であった。

■ 前田の同点ゴール

微妙な判定で先制ゴールを許した日本だったが、前半36分に見事な連携から同点ゴールを奪った。それまでの時間でも、いい連携で両サイドを崩せていたが、サイド攻撃が実った美しいゴールだったといえる。DF長友のスピードとドリブルのコース取りも、FW前田の飛び込みも見事で、文句のつけようのないゴールだった。

FW前田は今大会は3ゴール目。サウジアラビア戦に2ゴールを挙げたが、韓国戦のゴールで本人も自信がついたことだろう。この試合は序盤からうまく前線でタメを作っており、得意のターンで相手を外して前を向くシーンも多く、自身の代表キャリアのなかでは「ベストゲーム」といえる出来だった。  

決勝がオーストラリアになるか、ウズベキスタンになるかはわからないが、エースストライカーのゴールでカップを勝ち取ることが出来たら最高の結果となる。

■ あと1つ

大会前から「3位以内に入る」ということが最低限の目標であったので、これでクリアしたことになる。内容についてはまだまだ課題も多いとはいえ、勝ち進むことで解決した課題もいくつもあって、実りある大会になっている。W杯から続くいい流れを継続できていることも大きい。

残りは1試合。オーストラリアが決勝に進んで来たら、また「ロングボール」を警戒しなければならないが、せっかく、ここまで頑張ってきたのであるから、是非ともタイトルを勝ち取って、コンフェデの出場権を勝ち取りたいところである。苦しい試合が続いているが、流れは非常にいいので、どちらが相手になろうと、タイトル獲得の可能性は十分にあるといえる。

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