10月8日アジアカップ予選、香港戦に出場した選手が回避された10月10日スコットランド戦。ピッチに立つ多くの選手が、普段出場機会に恵まれない選手や新顔たちだった。そんなメンバーの中で稲本に次ぎ、試合出場機会が多いのが中村憲剛だ。

 オシム、岡田と続いた2006年夏以降の出場数では稲本を上回っている。数少ない出場チャンスで自身の力をアピールしたいと願う選手が個人プレーに走ってしまえば、それは岡田ジャパンが目指すサッカーのスタイルを壊しかねない。チーム戦術を体現する上で、中村(憲)の舵取りはいつも以上に重要だったに違いない。

「試合前から、チームのやり方というのもイメージしながら、それプラス自分の良さというのを出そうという話はしていた。新しい選手が多いぶん、いつもの試合よりも話しながらプレーする回数が多かった。僕自身もナオ(石川)のスピードだとか、いいところを活かすプレーを考えていた。ナオ(石川)もそうだけど、お互いにわかりあい、初めてにしてはスムーズにプレーできた部分もあると思う」

 65分からはそれまでプレーしていた攻撃ミッドフィルダーから、ボランチへとポジションを移す。

「前半(攻撃ミッドフィルダーの)圭祐(本田)や俺が落ちてしまい(ポジションが下がってしまい)、前にボールが入ったとき(前の選手)を孤立させる場面も多かった。だから、ボランチの位置で起点となって前の選手へパスをさばこうと考えていた」

 そして、82分の相手オウンゴールで先制した日本は90分本田のゴールで追加点をあげ2−0で勝利を飾った。どちらの得点シーンも駒野からの速いクロスボールに中央の選手がゴール前まで攻め入ったことで、生まれたゴールだった。

「今回の合宿では、ああいう形を意識してやっている。クロスが上がってくるというイメージさえあれば、中(の選手も)も飛び込むし、そうすることによって、いろんなところが空く。(ゴールにはならなかったけど)ナオが左から抜けて、(前田)遼一がニアでつぶれてくれたから俺がマイナスでボールを受け、シュートを打つ場面もあった。あそこ(ペナルティエリア付近)に人数かけて入っていくことが大事。相手(ディフェンダー)が大きくてもシュートが打てる。あそこでゴチャゴチャってなったら、こぼれてくるボールもあるだろうから、そこにいることが重要。」

「今までやってきたサイドにボールが入ったときに人数をかけてサイドで崩していくパターンと今回のように速いクロスにいきなり突っ込んでいくという形の比率がだいぶ変わってきた。そこは選手みんなの意識が変わってきたと思う。サイドで人数をかけて作るときもあるけれど、勝負という場面では、3人、4人がゴール前へ入ってくる。そこがすごく大事だと思う」

 ゲームの舵取りだけでなく、プレスキックも担当。稲本が交代したのちはキャプテンマークもまいていた。まさにチームの軸という大きな存在感を見せいた中村憲。

 最終予選前から7試合連続でスタメン出場しているが、岡田ジャパンの中盤のレギュラー争いは過酷だ。欧州で結果を残し頭角を現す本田の存在、そして1トップではなく、2トップと布陣の変更もその争いをより厳しいものにしている。

「周囲の選手に点を取らせようという意識が感じられたが…」という記者の質問にも「良い動き出しをしている選手には(パスを)出したいという出し手の感情もあるけれど、そんなお人よしでもないですよ」と笑ったが、何度かあった決定的なシュートシーンでゴールを決められなかったことへの悔しさは大きかったに違いない。

「いろんな選手が入ってくることによって、新しい反応もあるので、それは大事にしたい。でも、競争もあるので、悠長なことも言ってられないから」と話す中村憲。チーム内の変化を肌で感じているからこそ、彼の心の内にある秘められた危機感もさらに大きくなっている。その思いがあるからこそ、彼は成長を続けるし、強いては日本代表の進化となるのだ。

文=寺野典子