右サイドからディフェダーを振り切りクロスボールをあげる内田<br>【photo by Kiminori SAWADA】

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「なんか試合ばっかりやっているよね。試合が自分にとって大事な経験になるのはわかっているけれど、しっかりと練習をやっていないとやっぱり不安になるよね。下手になっちゃうんじゃないかって」

 10月のウズベキスタン戦前、内田篤人は少し遠くを見ながら、そう話した。試合が続けば、コンディション調整重視のトレーニングとなり、負荷の掛かったハードなトレーニング時間を割くことができない。そのことが少し内田を不安にさせていた。

 4月に負傷で1カ月近く戦列を離れたが、その後は国内リーグ戦に加え、アジアチャンピオンズリーグ、日本代表、五輪代表とフル回転で出場を続けている。「若いからそんなに疲れないよ」と笑ってみせてもやはり拭えない疲労感が、シーズン終盤になり彼を襲っていても不思議ではない。だがそんな不安材料も「もう少しで今シーズンも終わるから」と話す姿は頼もしい限りだ。

 19日に行われたワールドカップアジア最終予選対カタール戦。田中達也の先制点のアシストをマークした内田。6月のバーレーン戦で代表初ゴールを決めた時は「ゴールよりもアシストのほうが嬉しい」と話したが、ドーハでの試合後「あのタイミングでパスを出せば誰かしら走ってくれるとは思っていた。相手の真ん中がルーズだったから、そこが狙い目だとは思っていた。でも僕はディフェンスなんでアシストよりも無失点に抑えたことのほうが嬉しい。3点取れたことよりも」と語った。

「(9月の)バーレーン戦では、3点差から2点奪われたから、(今回は)そういうことは絶対にしたくなかったので、無理して上がらずなるべくパスをつなぎたいと思っていた。相手のフォワードが大きな選手だったので、球際とカバーリングはしっかりやろうと思っていた」

 この試合ではレギューの中澤佑ニが欠場し、代わって寺田周平が出場。「寺田さんは僕よりも経験があるし、僕はノビノビやらせてもらった」と、最終ラインの変化には戸惑うことなくプレー出来たと振り返った。

 また日本に対し激しいファウルで襲い掛かったカタール選手については、「ユースから中東と戦ってきたけれど、相手のファウルで簡単に倒れてしまうのが日本人なんだよね。ああいうところで、向こうを倒すくらいじゃないとダメだと、ユースの時から少しずつ思っていた」と、これまで培った経験を活かし対応できたと話す。

 確かにA代表としての経験はわずかだが、20歳の内田なりの経験を駆使して戦っている。もちろんその経験だけでは足りないこともある。きっとそれは多くの先輩の姿を見ながら学んでいる。

 「今日は何もやってないから。フォワードや中盤の選手が本当によく走ってくれたし、頑張ってくれた」と前線からのプレスが無失点の要因になったと語った。

 内田にとってワールドカップのアジア最終予選は当然、未知なる戦いである。

「どんな試合でもそうなんだけど、緊張することがあまりない。『最終予選』ということでの高ぶる思いはあるのかもしれないけどね。でも普通にやりたいな」

 カタール戦前に、言った彼の言葉が印象的だった。普通にやれることこそが、意外と難しいことなのかもしれない。そのことを彼は連戦の中で体験したのだろう。

 時差ボケのまま臨んだ大分トリニータ戦では、決勝点となるゴールを決めた内田。この日は「ゴールよりも無失点だったことのほうが嬉しい」と1対0での勝利を喜んだ。リーグ戦は残り2試合。鹿島はすでに天皇杯に敗れているため、2008年は残り2試合で終わる。2連覇という栄光に包まれたエンディングを迎えるため、内田は今日もまた平常心で試合に挑む。

text by 寺野典子