後半立ち上がりに中村俊輔の追加点で勝負は完全に決した<br>【photo by Kiminori SAWADA】

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 3−0という結果以上に、試合の主導権を握り、面白いようにパスを繋いだ日本代表の面々は、だれもが手放しに喜ぶというような楽観ムードがまるでなかった。

 「今日くらいの戦いだと厳しさはそんなに感じてないですが、アウェーではまた厳しい戦いになると思います」と長友が語るとおり、“今日の相手なら”あれくらいは、やれて当然という印象があるのかもしれない。そして同時に、「アウェーは違う」という危機感を誰もが抱き、気を引き締めていた。

 開始10分に得点を決めたことで、ゲームの流れが決定づいた。「僕は適当に蹴っただけで、ボンバー(中澤)が上手く合わせてくれた。ボンバーの前でつぶれてくれた選手もいたしね。僕の力じゃないでしょ」と先制点のコーナーキックを蹴った遠藤保仁は語った。

 この日は「いつ以来かもわからない」というボランチで出場した遠藤。中盤の底に立ち、長短のパスで日本攻撃陣を動かす姿は、遠藤らしいプレーだった。「ボールもたくさん触れたし、楽しかったね。攻撃面でもある程度の手ごたえは得られた試合だったけど、まだまだ進化の余地はある。もっとサイドを使ったプレーだとか、そういうことがやれるはず。今日最もよかったのは、試合に勝ったこと」と笑顔を見せることなく、淡々と話した。

 負ければ崖っぷちと世間の心配を他所に、力の差を見せつけることができた試合だった。歴然とある力の差を余裕にすることが出来ず、苦しむことの多いアジア予選だが、今日は違った。先制点を上げられたことで、優位に試合が運べたことも確かだが、「こんなところで苦労している場合じゃないだろ」というような、選手の自信がピッチから伝わってきた。自信や余裕があるから、楽をするわけじゃない。そういう気持ちを持ちながらも懸命に走り、ファイトする姿勢があったからこそ、「自分たちのサッカー」が出来たのだ。

 「オシムさんのころからやってきたことだけど、いかに連動したプレーが出来るかというのが大事になってくる」と試合前日に話していたのは今野泰幸だ。“連動”は日本代表にとって重要なキーワードであり、近代サッカーには欠かせないことでもある。オシム前監督はその意識を植え付けるために時間を割いた。

 「練習時間がそう長くあったわけじゃないけれど、練習中も試合中でも声を出し合い、話し合って、コミュニケーションをとれた」と遠藤。

 そのコミュニケーションの中心にいたのが、中村俊輔であり、松井大輔の海外組だった。言葉の壁がある欧州での戦いの中で、彼らは決して完璧ではない語学力で、チームメイトとの関係を深める日々を送っている。言葉に頼らずともプレーで味方に伝える力を術を見につけてきたに違いない。彼らの経験が、日本代表の連動性を高めたように思う。

 中村俊は「アウェーに行ってもボールを回せるとか、そういう意識でやっていると痛い目にあう。また今日みたいにファイトして、ハードワークしてというのを最初にやらないといけないというのが、試合が終わってすぐに思い浮かんだ」と気を緩めない。厳しかったドイツ大会のアジア予選を経験している選手が大勢試合に出場したこともまた、今夜の試合運びに落ち着きを生み出したのかもしれない。最終予選進出へ一歩前進した日本。アウェー2連戦で、どんなサッカーを見せるのか非常に楽しみだ。

text by 寺野典子