オーガスタナショナルは初日から静かな牙をむいた。今年はコースの距離は伸びてはおらず、ラフが深くなったわけでもない。風は午前中は少しばかり吹いたが、正午を回ったころからほとんど止んだ。それなのに選手たちは軒並みスコアを落としていく。一体、何がそれほどオーガスタを難しくしているのか。半数ぐらいの選手たちがホールアウトしたころから、ようやく難しさの秘密が見えてきた。

まずは、ピン位置。初日からピンは前後左右にかなり振ってあった。エッジからほんの3ヤードか4ヤードのところにピンフラッグがはためき、しかもグリーン上の尾根の山側に立っていた。だから、ピンを狙ったショットが谷側へ流されたり、アップヒルのパットでも、ちょっと強ければカップを越えて逆側へとオーバーしていったり。おまけに、強い日差しを受けてグリーンは昨日までとは比べもにならないほど干上がり、固く早くなっていた。グリーンコンディションが突然変わり、スピードも変わったため、選手たちはなかなかアジャストできない。そんなグリーンの変化を考ええると、バーディチャンスにつけるための狙いどころはグリーン上の本当の狭いスポットに限定されてしまった。そして、そこを外してしまったらパーオンしていてもバーディは取れない。グリーンを外してしまったら、もはや論外。

優勝候補の筆頭タイガー・ウッズのラウンドは、まさに初日のコースコンディションを反映する展開だった。パーオン率77.8%。一見、バーディチャンスと思える位置につけることが多かったが、なかなか沈められない。それは、タイガーといえども、グリーンの変化や難しいピン位置に対して、即座の調整と対応ができなかった証拠だ。後半は2つのパー5でバーディを奪いながら、17番、18番でボギー。終盤を迎えるにつれてティショットは乱れ、今日のフェアウエイキープ率は50%。1オーバー73、15位タイ。しかし、ラウンド後の王者はコンディションの難しさを認めず、「ピン位置はフレンドリーだった」とコメント。そして、2連続ボギーのフィニッシュを「最後の最後に棒に振った」と悔しがった。初日のオーガスタが静かにむいた牙は、王者の目には大した牙とは映っていないようだ。

タイガーの対抗馬と目されていたフィル・ミケルソンは出入りの激しいゴルフの末、4オーバー76、43位タイでフィニッシュ。2本のドライバー作戦の効果が注目されていたが、「ドライバーショットは期待以下の出来栄えだった。でも、明日60台を出して上位へ返り咲くことを目指す」。まだまだ諦めてはいない。それどころか、ラウンド中の7番ホールで愛妻エイミーとハグを交わしたことを「とっても励みになった」とノロけるありさま。これぐらいノーカンな精神状態なら、確かに明日の巻き返しは可能かもしれない。

第1ラウンドを終え、首位に立ったのは3アンダー69をマークしたブレット・ウエタリックとジャスティン・ローズの2人。初日の勝負はグリーン上にかかっていたが、結果を見れば結局は飛ばし屋有利の感が強い。それは、昨年までの大改造を経て、オーガスタがパワーゲームの舞台となった証拠なのだろう。明日もリーダーボードの上位にはロングヒッターが並びそうな予感だ。(舩越園子/在米ゴルフジャーナリスト)