2019年2月8日、財務省が「性懲りもなく」、
「国の借金1100兆円=1人当たり885万円」
 という、「嘘」の財政破綻論を発表し、大手紙や地方紙、それにテレビなどが一斉に報じた。

 国の借金ではなく、政府の負債である。借り手は政府、貸し手は国内の金融機関(現在は、国債の45%を政府の「子会社」である日本銀行が保有している)。日本国民ではなく、あくまで政府が借りている負債だ。

 しかも、日銀が量的緩和政策を継続しており、政府の実質的な負債が減少している。金額でいえば、'12年度には約731兆円だった「日銀以外が保有する国債」が、'17年度末には約536兆円にまで激減した。もちろん、政府が借金を返済しているわけではなく、子会社の日銀が量的緩和により買い取ってしまったのだ。

 ちなみに、日銀以外が保有している国債についても、普通は「借り換え」される。そもそも、資本主義経済である以上、政府や民間の負債は「増え続ける」のが常態なのである。とはいえ、現在の日本はデフレだ。デフレで総需要が拡大しないため、民間企業は負債を増やしてまで投資を拡大しようとはしない。というわけで、政府以外に負債の引き受け手がいないというのが、デフレ日本の現実だ。

「政府がいつまでも負債を増やせるはずがない」
 と、思われた読者が多いかもしれないが、是非とも「過去のデータ」を知ってほしい。明治時代の1872年と比較し、日本政府の負債は'15年までの名目で3740万倍に増えた(3740倍、ではない)。インフレの影響を排除し、実質の負債で見ても、1885年の546倍だ。

 繰り返すが、資本主義とは誰かが負債を増やさなければ成長しようがない経済モデルなのである。日本が経済成長を続けてきた以上、政府の負債は増えて当たり前だ。

 などと説明しても、
「それでも借金が増えるのは…」
 と、反射的に思ってしまった読者が多いだろうから、本稿では「政府の国債発行が、家計の預金を増やしている」という事実について明らかにしたい。

 読者の銀行預金は、銀行が発行したおカネだ。銀行がいかなるプロセスでおカネ(預金)を発行するのかと言えば、貸し出しだ。厳密には、誰かがおカネを借りるとき、あるいは誰かの「借用証書」と引き換えに、銀行は預金を発行する。

 例えば、読者が銀行から3000万円を借りるとしよう。3000万円を現金紙幣で借りる人はまずいない。借りる「おカネの種類」が何かといえば、もちろん銀行預金だ。

 それでは、銀行側は読者に貸す3000万円を、どこから調達したのか。実は、どこからも調達していない。単に、読者が差し入れた借用証書と引き換えに、読者の銀行預金の通帳に「3000万円」と書き込むだけだ。
「書くだけで、おカネを発行できるのか!!」
 と、思われただろうが、事実なのだから仕方がない。

 あるいは、読者が10万円分の現金紙幣を「銀行に預けた(この「預ける」という表現はどうかと思うが)」ケースを考えてみよう。その場合、銀行は「現金紙幣という借用証書」と引き換えに、銀行預金というおカネ10万円を発行する。

 現金紙幣は、さすがにご存知の読者が増えているだろうが、日本銀行の借用証書である。銀行は、読者が持ち込んだ日銀の借用証書と引き換えに、銀行預金というおカネを発行する。これが「銀行におカネを預ける」プロセスの正体である。

 というわけで、政府の国債発行から「読者(家計)の銀行預金が増える」までの流れを見てみよう。
 まずは、日本政府が国債を発行し、銀行から「日銀当座預金」というおカネを借りる。この時点で勘違いしている人が多いのだが、政府が国債発行で借りるのは、銀行預金ではない。日銀当座預金である。我々、民間の企業や国民は「日銀当座預金口座」を持っていないため、このままでは政府は支払いができない。