「SFでしか描けない「ファシズムの魅惑」:作家ブルース・スターリングが語る」の写真・リンク付きの記事はこちら

ブルース・スターリングは、その未来的なSF小説で有名な作家だ。しかし彼は、過去について書くことも同じくらい好んでいる。新しい短編小説『Pirate Utopia』は第一次世界大戦直後を描いた歴史改変SFであり、芸術家と革命家が統治した独立国家として短期間存在した実在の都市「フィウーメ」(イタリア語で「川」を意味する。クロアチア語で「リエカ」とも呼ばれる)を舞台にしている。

「フィウーメで起きたことは、本当に20世紀最大の不思議な出来事のひとつでした」とスターリングは『WIRED』US版のポッドキャスト「Geek’s Guide to the Galaxy」のエピソード238で述べている。

フィウーメは、社会主義から無政府組合主義、そしてファシズムまで、ラディカルな考えが生まれる土壌となっていた。多くの人にファシズムの魅惑を理解してもらうのは難しい、とスターリングは言う。しかし、それは圧倒的な特殊効果で脳みそを打ちのめすようなSF大作映画を観る気分に似ているのだ、と。

「SFに、そしてファシズムにもレトリックとしての仕掛けがあり、それによって『これはあなたのすぐそばの現実で起こっていることではないので心配しないでください』と言うことができます」とスターリングは言う。「ただただ、その幻想性に夢中になれるでしょう」

スターリングは一例として、スタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』のエンディングを挙げる。宇宙飛行士デヴィッド・ボーマンは、人間を超越した存在であるスターチャイルドに進化する。このシーンは非常に印象的で、神々しさすらあり、スターチャイルドに隠された負の側面についてじっくり考える人はほとんどいないだろう、とスターリングは言う。

「誰かがスペースベイビーについて採決を取ったわけではありません」と彼は言う。「スペースベイビーについて、倫理委員会が文書を発表したわけでもありません。『もし、このスペースベイビーが特定のマイノリティの民族に残虐なことをするようになったらどうなるでしょうか』と誰も言わないのです」

スターリングは、感動したり、感銘を受けたりする力も重要だが、同じようにほしいイメージやアイデアについて選択する力をもつことも重要だと考える。

「不思議に思う感覚がなければ、心は死んでいるようなものです」とスターリングは言う。「しかし、その不思議に思う感覚を使って、人を騙すこともできます。それは手品師のトリック、詐欺やぼったくりなどで利用されるものです」

以下、ブルース・スターリングが「Geek’s Guide to the Galaxy」で語った内容のハイライトである。

ファシズムの魅惑について:

もしファシズムのなかにいたら、愛国心、自己犠牲の魅力、そして、どのように自分たちの教えをほかの人々に広めるかがすべてになります。偉大なる指導者のもとで結束することで、自分たちの社会が抱える長年の紛争を解決していると信じきってしまうのです。それは非常にエキサイティングで、スリルに満ちた体験です。広場に行くと、10万人の人々が同じことを叫び、同じジェスチャーをしている。途方もないほどの照明が輝き、異様な音楽が流れている。5歳の子どもですらそれが素晴らしいと思ってしまうでしょう。そのなかにいたら、自分たちの文明が立ち上がり、何か素晴らしいことを成し遂げているのだと感じることでしょう。

ディストピアについて:

ディストピアにお金を払うことは、1960〜70年代の商業SFを読んで育った人には信じられないかもしれません。その当時ディストピアを書くことは、バッドエンディングの本を出版して、エース・ブックスやバランタイン・ブックス、その他主要な出版社の怒りを買うことを意味したからです。しかしいま、そんな心配はまったくなくなりました。近所のどこでも売っているほどです。反対に、楽観主義的な作品の売上が下がっている点に関する、米SF作家クリス・ブラウンの意見は正しいと思います。「少年よ、2017年は素晴らしいことばかりだ。さぁ前を向こう」というようなことを書いても、明らかに嘘くさすぎて誰も信じないのです。

サイバーパンクについて:

批判的に言えば、人々はサイバーパンク作家に非常に親切でした。わたしたちは、1960年代のニューウェーヴ時代の作家が経験したような地獄に比べて、常に批評家に愛されていました。ニューウェーヴの作家は、ありのままを書くと激しい批判を受けました。対して1970年代後半〜80年代の人々は非常に幸運で、コンピューターの話を好んだSF作家が現れる時代を喜んで迎え入れてくれました。わたしたちに酷いことをする人は誰もいませんでした。不思議なことに、わたしはTwitterで炎上したこともありません。SF界で、ウィリアム・ギブスンを称賛しない人を見つけることは難しいでしょう。彼のことが好きか、すごく好きかのどちらかしかいないくらいです。

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