「真田丸」42話。哀川翔、阿南健治、岡本健一…豊臣軍のクセが凄い、そして大泉洋の信之が深い

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NHK 大河ドラマ「真田丸」(作:三谷幸喜/毎週日曜 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時)
10月23日放送 第42回「味方」 演出:木村隆文


あの者たちはいまの境遇からはいあがろうとしてここに集った
むりやり駆り出された徳川の兵たちとはそこが違う

この戦十分勝てる
(幸村・堺雅人)

ドラマでは希望の船出が目前。
撮影自体はついにクランクアップ。放送は、最終回の12月18日まで(42回も入れて)残り9回! 本日放送の43回からだと8回!
全編のクライマックスにわくわくしながら、でも来るべき丸ロスの恐怖に怯えながら、42回を振り返ろう。

来るべき大坂の陣に向けて徳川勢と豊臣勢の状況をいまいちどていねいに紹介してみた回という感じでややまったり。裏で白熱野球も行われていたため視聴率もちょっと低かったが、なかなか味わい深いエピソードが満載だった。
茶々(淀・竹内結子)と幸村(堺雅人)が14年ぶりの再会。幸村の相部屋問題。からの、誰が豊臣の総大将になるか問題。五人衆誕生。徳川家康(内野聖陽)の老い。次世代の若者たち。信之(大泉洋)と作兵衛(藤本隆宏)・・・などをときにシリアスにときにコミカルに描きながら、今後活躍する顔ぶれをもれなく魅力的に紹介していた。


演出はメインディレクターの木村隆史。重要な回をほぼ担当してきた木村によって、各々の思惑や関係性がじわじわと出ていた。
例えば、新キャラのひとり、幸村と相部屋になった長宗我部元親の息子・盛親(阿南健治)が強面に見えて、実は・・・というエピソード。

最初は気難しそうに見えたが、あとあとになって、「戦が嫌い」「相部屋になってほっとした」などと言い、幸村は「そうは見えません」「まったくそうは見えませんでした」と呆然とする。“顔で誤解されるが気の小さい男“だという盛親。父親が偉大なことも誤解される所以だろう。これ、幸村の立場と同じなのだ。たまたま相部屋になったふたりが同じような運命をたどっている奇縁がおかしい。

そんな盛親のカミングアウトが行われる前に、盛親が庭の花に水をやっている場面が描かれている。本筋は手前で幸村と内記(中原丈雄)会話が交わされていて、遠くに映ったあのひとは何をしてるんだ? と思わせる程度だが、あとで納得する仕掛け。


阿南健治は三谷作品には欠かせない俳優で、映画「清須会議」で演じていた、話と話の間、走りまくる滝川一益のように場を和ませる。「新撰組!」では近藤勇の兄役だった。東京サンシャインボーイズのメンバーだが、それ以前は蜷川幸雄のニナガワ・カンパニーに所属し、先ごろ亡くなった平幹二朗の主演舞台などにも参加していた。当時のニナガワ・カンパニーの俳優たちは皆、平幹二朗の芝居を手本にしていたそうで、ちょっとスケール大きく見えるのはその頃の鍛錬の成果なのかもしれない。

この盛親をはじめとして、豊臣軍に集った者たちは個性的。まさに、「軍勢をひとつの塊と思うな。ひとりひとりが生きておる。ひとりひとりが想いをもっておる。それをゆめゆめ忘れるな」 と昌幸(草刈正雄)の遺言のようだ。

頭良さそうだけどやや頼りそうな大野修理(今井朋彦 文学座)、アクの強い後藤又兵衛(哀川翔)と毛利勝永(岡本健一)、ギャップをもった長宗我部盛親、お祈りばかりしている明石全登(小林顕作)、名刺みたいな木札を配る塙団右衛門(小手伸也)・・・。じつに面白い顔ぶれが集まっている。

小手伸也は堺雅人と同じ早稲田大学出身。お互い73年生まれなので、同じ頃キャンパスで演劇活動をしていたのだが、堺は演劇研究会。小手は演劇倶楽部出身。演劇研究会よりも演劇倶楽部のほうが厳しくなかったらしい。
小手は自身の劇団innerchildで作、演出、出演などもやりながら、他劇団にもたくさん客演してきた。確たる軸をもちながら、いろいろな場との交流を盛んにしている点においては、小林顕作のスタンスに近いものがある。
岡本健一もジャニーズ事務所に所属しながらアイドルのイメージとは一線を画すような文学性の高い演劇活動をしてきた先駆者だ。
こういう俳優たちをいまの豊臣軍として配することで、集団に埋没せず個々の力で勝負しようというアグレッシブな感じが出る。「真田丸」には優秀で熱意あるキャスティングスタッフがいるそうだ。


42回の見どころとしては、信之と作兵衛の戦いも欠かせない。

「わしが捨てた幸の字を拾いおった。
やつは本気じゃ
この戦長引くぞ」

とつぶやく信之。
作兵衛が幸村に呼ばれたことを知り、止めようとする。
「作兵衛 わしに切らせるな」「わしに切らせるな」
大泉洋は体が大きいので、アクションをやらせても勢いが良くかっこいい。
「源次郎のようにはなれんのじゃ覚悟!」
と苦悩しながら斬りかかるも、右手がうずいて・・・
作兵衛「ありがとうございます」
信之「いや違う いや違う 待て 違う 作兵衛待て 作兵衛〜」

これは、面白い行き違いなのか、信之の芝居なのか。
「真田丸」の初期の頃は、信之の本心はあまり描かなかった。ここへ来て、やっぱり信之のことはぼかして効果的になっている。
木村隆史演出は、たいていおちゃらけ部分は尾を引かずにさくっと次の場面に切り替える。42回でも、幸村と後藤又兵衛と毛利勝永のドタバタはさくっと切っていた。だが、件の信之のシーンは、信之の表情をかなり長く映して余韻を残している。音楽もわざとらしいくらいに悲しげな曲。信之が一番名優なんじゃないだろうか。
(木俣冬)