未来都市にクルマはいらない、とマンハッタンは言う

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今年8月、ニューヨークのロウワー・マンハッタンで、街からクルマを追い出すための実験が行われた。ニューヨークに限らず、パリやロンドン、上海といった世界中の都市で、健康のため、環境のために、同様の実験が行われている。未来都市にクルマはいらないのか? そしてクルマをなくすためには何が必要なのか?

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『WIRED』日本版、最新号VOL.24は「NEW CITY 新しい都市」 特集!

8月9日(火)発売の最新号『WIRED』VOL.24は「新しい都市」特集。ライゾマティクス齋藤精一と歩く、史上最大の都市改造中のニューヨーク。noiz豊田啓介がレポートするチューリヒ建築とデジタルの最前衛。ヴァンクーヴァー、ニューヨーク、東京で見つけた不動産の新しいデザイン。未来の建築はいま、社会に何を問い、どんな答えを探していくのか。第2特集は「宇宙で暮らそう」。宇宙でちゃんと生きるために必要な13のこと、そして人類移住のカギを握るバイオテクノロジーの可能性を探る。漫画『テラフォーマーズ』原作者が選ぶ「テラフォーミング後の人類が生き残るための10冊」も紹介する。そのほか、NASAが支援する「シンギュラリティ大学」のカリキュラム、米ミシガン州フリントの水汚染公害を追ったルポルタージュ、小島秀夫+tofubeatsの「未来への提言」を掲載!

今日の午後、歩行者とサイクリストが、マンハッタン中心部の60ブロックを乗っ取ることになる[原文記事の掲載は8月13日]。通常はクルマに支配される騒々しい交差点で、ストリートミュージシャンたちが演奏するはずだ。自転車の駐車係は無料でサーヴィスを提供し、アートスタジオがボウリング・グリーン(ロウワー・マンハッタンの小さな公園)に出現する。そしてクルマはおそらく、革命のさなかの貴族のように逃亡するだろう。不便になるようにと意図的に設定された、時速5マイルという速度制限におびえて逃げ出すのだ。

「ザ・グレート・ロウアー・マンハッタン自動車実験」が行われるのは、ブロードウェイの東部、市役所とバッテリー公園の間だ。時間はたった5時間だが、道路を歩行者専用にする実験としてはこの10年でニューヨーク最大のものとなり、これは世界的なトレンドの一環でもある。

マドリードパリロンドン上海のような大都市は、ますますクルマよりも歩くことを促進するようになっている。その理由を理解するのはたやすい。科学者たちが、歩くことは、よりよい健康状態、自然に発生する(もしかすると楽しい?)社会的交流、大気汚染の減少につながることを証明しているからだ。

ニューヨークは慎重にこのゲームに参加しつつある。この街の運輸局が密かに「シェアストリート政策」と呼んでいるものを通じて、ロウアー・マンハッタンでのクルマの地位を下げようとしているのだ。市の職員はこのエリアのあちこちで、人々とクルマの動きを調べる。特に迷惑を被りそうな地元の会社と話をする。そうした会社は、大半の配達をクルマとトラックに頼っているため、影響を受けるのだ。

そして職員たちは、このエリアからクルマを追い払えるかどうかを見極めようとしている。それは永遠に、という意味かもしれないし、あるいは少なくとももっと頻繁に、ということかもしれない。「わたしたちが調査しているのは、間違いなく重要な問題です」。ニューヨーク市運輸局のパブリックスペース部長、エミリー・ヴァイデンホーフは言う。

都市はもっと歩いてほしがっている

ニューヨークは、これまでに道路を歩行者専用にしたことがまったくないわけではない。

2008年、当時の市長マイケル・ブルームバーグと、野心家の運輸局長ジャネット・サディック-カーンは「サマーストリート」を開始した。これはいまでは年1回のイヴェントになっており、週末に、パークアベニューやブロードウェイなど、クルマが多数を占める大通りで活気あふれるストリートフェアを行うというものだ。昨年は、30万人がクルマのいない空間を利用した。ニューヨーク市はまた、永続的なアクションも行ってきた。タイムズ・スクエアのようなエリアから、無期限でクルマを締め出したのだ。

ほかの都市では、大規模な歩行者専用道路化が実施されてきた。マドリードは、最も交通量の多い通りのいくつかを歩行者が使いやすいように再設計し、住民以外が中心地区でクルマを運転しているところを捕まえると罰金を課している。

60年代以降、コペンハーゲンはゆっくりとその都心を、歩行者とサイクリストに明け渡してきた。サンフランシスコは、地下鉄の建設に配慮し、中心街のショッピングエリアの一部で一時的にクルマを禁止したが、それを続けてほしいと思っている企業もある(絶対にやめてほしいと思っている企業もある)。

未来の都市にクルマは走っているのか?

だから、ロウアー・マンハッタンでクルマを減らす計画がうまくいくと考えるだけの根拠はある。だが、街の通りすべてを歩行者専用にできるわけではない。実際、都会の商業地区を「歩行者用ショッピングモール」に変えようとした計画の圧倒的多数が、完全に失敗に終わっている。

1970年代、シカゴは中心部の一部を屋外ショッピングモールに変えようとした。だが、幅が広く、クルマが使いやすい通りで突然クルマがいなくなったとき、買い物客は落ち着かなくなったという。

1971年、ニューヨークはクルマのいない「レッドゾーン」を始めた。といっても、政治が邪魔するまでのことだったが。(歩行者専用にしたことでその地域の)犯罪率は高まるばかりで、ニューヨーク市民は外で時間(やお金)を費やしたいとは思わなかった。

だがそれから数十年が経ち、犯罪率は急降下している。人口密度の高いアメリカの都市は、再び人に歩いてもらう準備ができているようだ。では、街に歩行者専用の道路をつくるためには何が重要なのだろうか?

カリフォルニア州フレズノの2013年の調査によれば、大学やビーチのようなコミュニティの要となる主な場所に近いこと、クルマの代わりとなる交通手段を提供すること、力を注ぐ場所を数ブロックに限定すること、といった要因が成功するために最も重要だという。なぜなら、主な交通手段であるクルマが使えない場所が多数あっても、それに対処できない街がほとんどだからだ。そして街のサイズは非常に小さい(10万人かそれ以下)か、あるいはニューヨークのようにとても大きくなければならない。

未来の都市にも、クルマはあるだろう。だが、そうでない都市もあるはずだ。それは、どちらが機能的なのかを知るためのデータをもつ、街を設計する人々にかかっている。

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