バランス型のファンドはNISAに不向き!?

スタートは来年1月で、正式な口座開設の申し込みは今年10月からであるにもかかわらず、すでに初夏を迎えたころから多くの金融機関が日本版ISAこと「NISA」の口座開設予約を受け付け始めた。このフライング的な動きは、「1つの金融機関でしか口座を開設できず、いったん選ぶと4年間は他の金融機関に移せない」との制約を意識したものであろう。結論から述べておくと、私たち投資家としては、口座開設を急ぐメリットは皆無で、むしろ性急に選ぶと後悔を招きかねない。今回は大手証券の取り組みにスポットを当てながら、NISAにおけるベストの選択とは何かについて探ってみたい。


コンテンツの拡充を図って、新商品を投入する動きも見られる。ほかの大手証券会社はリスク分散に注力する新型の投資信託を提供するようだ。

従来型の商品以上に分散投資を徹底し、価格下落リスクを極力抑えることをコンセプトとした商品だという。また、NISAでは商品のスイッチング(乗り換え)が認められていないことを踏まえ、リバランス(資産の配分調整)とともに組み入れ比率の変更も行う商品も投入される模様だ。

どうやら、こうした新型の商品の開発は投資経験・知識の浅い投資家を想定してのものらしい。預貯金などで保守的な運用に徹してきた人々が非課税に魅力を感じてNISA口座を開設したものの、いきなり出鼻を挫かれては元も子もないという発想である。

一理あるかもしれないが、投資における本来のリスクからは少し異なっている。もとをたどれば、投資とは相応のリスクがあるのを承知したうえで、リターンを求める行為だからだ。

実は、金融庁も監督指針を通じて、金融機関にNISA向け商品の拡充を求めている。某社の新商品は、まさに金融庁の意向を反映したものだろう。しかし、経済評論家の山崎元さんはこうした商品に否定的な見解を示す。

「確定拠出年金の場合も同様ですが、NISA口座での運用でバランス型ファンド(株式や債券などを幅広く組み入れる投信)は適切な選択肢ではありません。それに、マーケットの情勢に応じて配分を見直すというスキームもあまり好結果を残していません。要は余計な親切で、実質的に有効であるとは言いがたい」

では、山崎さんが考えるNISA口座でのベストの選択肢とは何なのだろうか?「運用益が非課税となる優遇措置だから、合理的に考えればNISA口座は最も高いリターンが見込まれる投資先に割り当てるべき。投信なら、バランス型ではなく株式100%のファンドです」

期待リターンが高い投資対象となれば、当然ながら個別株も選択肢のひとつとなるだろう。ところが、個別株はあまりNISAには適していないというのが山崎さんの判断である。

「大きく値上がりしたり、業績見通しを下方修正したりして、途中で売りたくなる可能性が高く、そうなると5年間の非課税期間をフル活用できません。NISA口座では、幅広く分散投資が図られた国内外のインデックスファンドやETF(上場投信)を組み合わせて長期保有するのが適切でしょう」

特にETFは信託報酬の安さが利点で、その分だけ投資効率も高まる。インデックスファンドを選ぶ場合も、信託報酬が極力安いものをよりすぐりたい。さらに、山崎さんは積立投資にも懐疑的だ。

「まとまった資金がない人が積立を習慣づけるという点では悪くないが、税制優遇の期間と金額をフル活用できないのも確か。積立投資は時間分散を図ってドル・コスト平均法の有利な効果が得られるという説も、ファイナンス的にはインチキです。手元に100万円があれば即刻投資すべきでしょう」

果たしてNISAで投資家の裾野は広がっていくのか?

さて、山崎さんは多くの金融機関が顧客に勧める投資に対して批判的だが、非常に筋が通った話ではある。しかし、それはあくまでひとつの見解。これまで取り上げてきた投信、証券業界以外に、ゆうちょ、メガバンクといった銀行という日本全体のマネーをつかさどる組織もある。次号以降もさまざまな立場の人から意見を聞き、さらに合理性以外の観点からも検証を進めていきたい。

一方で、NISA自体の収益性は低く、むしろ手間とコストばかりかかる。顧客獲得に注力してやっとの末に口座を開設してもらっても、投資という実際の行動に移らなければ維持費がかかるだけで、意味がなくなってしまう。

それでも金融機関が口座獲得に注力するのは、NISAを?入り口〞に、投資家層の裾野を大きく広げようとしているからだ。前出の山本さんは期待を込めて語る。「将来的にNISAは、金融機関の収益構造を大きく変える可能性を秘めています」

貯蓄から投資へ―。日本人のマネーへの価値観も変わる可能性が十分にある。

山崎元(HAJIME YAMAZAKI)
経済評論家


この記事は「WEBネットマネー2013年9月号」に掲載されたものです。