土屋雅史(J SPORTS「Foot!」


【清水エスパルス、ホームでヴィッセル神戸に1-5と大敗】
5月14日。J1第11節。清水エスパルスはホームのアウトソーシングスタジアム日本平でヴィッセル神戸に1-5と大敗。これで4試合連続勝利なしの13位と、苦しい序盤戦を強いられています。そんな中、神戸戦で個人的に気になった点が2つあったので、他のクラブとの比較でご紹介したいと思います。

前半18分、右SBに入った辻尾真二の雑なバックパスを、GKの山本海人がクリアミス。大久保嘉人に無人のゴールへ流し込まれ、嫌な形で先制を許した清水。34分には都倉賢にも追加点を奪われ、2点のビハインドを負って前半が終了します。

ハーフタイムを挟み、アフシン・ゴトビ監督が決断したのはシステムの変更。辻尾に替えて、小野伸二を投入。最終ラインを右から岡根直哉、ボスナー、太田宏介の3バックにシフトし、3-4-3での反攻を選択します。しかし、結果は散々。57分、マークがルーズになった所を大久保に突かれて3失点目。75分、中央をシンプルな形で簡単に崩され、都倉のゴールで4失点目。直後、途中出場の高原直泰が1点を返しましたが、90+1分にはボッティに独力で切り込まれて5失点目。1-5というスコアで敗れました。

【3バックが機能せず、失点を重ねる】
実際の所は決定機がクロスバーやポストに阻まれるなど、運に見放された部分もあり、当然後半はビハインドを跳ね返すために前掛かりとなった面は考慮すべき余地もありますが、やはり一度も練習していないという3バックが機能せず、失点を重ねた面は否定できません。

清水の3バックを務めていたのはこれがJリーグデビュー戦となるルーキーの岡根、外国籍選手のボスナー、近年はほとんどCBをこなしていない太田。もちろんこの並びでのコンビネーションを経験しているはずもなく、岡根と太田は3バック自体もほとんど初体験に近かったかもしれません。これで大久保や都倉といった実績もあり、波に乗ってしまった選手を擁する神戸攻撃陣に対峙しろというのは、やや酷だったのではないでしょうか。

【ルーキーのCB岡根直哉にとっては厳しいデビュー戦に】
もう1つ気になったのは、前述したようにこれがJリーグデビュー戦となった岡根です。4バックの右CBとして、未体験のピッチへ送り出された彼は前半で2失点を喫し、後半はいきなり3バックの一角に据えられた上、3点目を許した直後の61分に、永井雄一郎との交替でベンチへ。何とも苦いデビュー戦となってしまいました。

ただ、個人的には岡根にとってかなりかわいそうな面の多いゲームだったと思います。まず、CBのパートナーがボスナーだったこと。取材不足で岡根とボスナーの語学力まではわかりませんが、来日4年目のボスナーとはいえ、咄嗟の場面でのコミュニケーションや、試合中に短い時間で修正を図らなくてはいけない場面においても、言語が違うというのはかなりのディスアドバンテージ。実際、岡根に替わってボランチから右CBへ移った岩下をスタートからCBに置き、ベンチにいた村松大輔や山本真希、小野伸二のいずれかを中盤に置くこともできたはず。ディテールではありますが、デビュー戦のルーキーにはそういう配慮があってもよかったかもしれません。

また、途中交替させられてしまったことも残念な部分でした。私は初芝橋本高校時代、早稲田大学時代と彼のプレーを取材する機会に恵まれましたが、189センチという高さ以上に、フィードを含めた足元のスキルの高さに特徴のある選手で、あまり日本には多くないタイプのCB。サイズやプレースタイルを考えても、プロの環境で揉まれれば十分代表も狙える選手という印象を持っています。

さらに、彼の経歴で目を引くのは、公式戦の出場機会こそなかったものの、大学2年時から3年連続で清水の特別指定選手に承認されていたこと。3年間と言えば、ユースに所属する選手が過ごす期間と一緒であり、いかに彼がクラブから大きな期待を受けて入団したかを、よく表すエピソードだと思います。そんな選手のJリーグデビュー戦としては、パフォーマンスや出場時間を考えても最悪に近いゲーム。彼がこれをバネに素晴らしい選手になってくれることを信じたいと思いますが、チームメイトやサポーターから失ってしまった信頼を取り戻すのには、時間が掛かるかもしれません。

【若い選手に対する起用法や交替のタイミングが持つ難しさ】
これを見て、思い出したのは今シーズンの第7節。4月23日にNACK5スタジアム大宮で行われた、大宮アルディージャと柏レイソルのゲームでした。東日本大震災の影響から、1ヶ月以上の中断を経て再開を迎えたこの日、柏の右SBにはJ1デビューとなる酒井宏樹が立っていました。ところが、チームメイトも口を揃えて、「緊張しやすいタイプ」と語る酒井は、開始からイージーなミスを連発。チームも劣勢を強いられる厳しい45分間となってしまいます。

正直、私は後半から酒井が交替でベンチへ下がるのではないかと思っていました。しかし、ネルシーニョ監督はそのまま酒井を起用し続け、代わりにシステムを4-2-2-2から4-2-3-1へ変更します。これで、自分の前に「ユースから一緒にやっているので、酒井君の特徴はわかっている」と話した茨田陽生が明確にポジションを取ったことで、本来の積極性を取り戻した酒井は、先制点であり決勝点となったゴールの起点となるパスを出し、チームの勝利に貢献しました。

以降、酒井は5試合続けてスタメンを確保。8節の甲府戦、10節の浦和戦、11節の新潟戦と現在リーグトップタイとなる3アシストを記録するなど、好調を維持。6月にロンドン五輪のアジア2次予選を控えるU-22日本代表にも選出され、充実の時を過ごしています。ただ、もしあの大宮戦のハーフタイムでネルシーニョ監督が交替を命じていたら、今の活躍はなかったかもしれないと考えると、若い選手に対する起用法や交替のタイミングが持つ難しさをひしひしと感じてしまいます。

特に最終ラインを持ち場とする若い選手は、ミスがそのまま失点に直結してしまうポジションの特性上、攻撃的な選手に比べても出場するチャンスが限られる傾向があり、Jリーグのクラブに加入してもなかなか出場機会を得られないまま、他のクラブへの期限付き移籍や、あるいは戦力外を通告されることも少なくありません。

仮にあのまま岡根がピッチに立ち続け、さらに失点を浴びることで受け続けたであろうダメージと、CBとして出場しながら61分で交替させられたことに対するダメージと、どちらがよりダメージが大きく、尾を引くことになるかは比べることができないものの、少なくとも彼の人生でたった1回であるJリーグデビュー戦の記憶が、なんとも払拭し難いものとなったのは間違いないと思います。

2002年にワールドカップでベスト4へ躍進した韓国代表をスカウティングで支えていたという眼力や、母国でもあるイラン代表を率いていた手腕は周囲の認める所。今後の清水、そしてゴトビ監督の采配では、次に岡根を起用するタイミング、また前半でビハインドを負った時の対処法に注目してみるのも面白いかもしれません。

なお、今週のFoot!は先週に引き続いて亘崇詞さんをお迎えして、“亘さんのアミーゴを訪ねて〜エルクレス編・トレゼゲインタビュー〜”をお送りしますのでお楽しみに!
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