日本サッカーの黄金時代の始まりです!

延長後半、ペナルティエリアでポツンと立つ李忠成のもとへ、長友のクロスが飛んでいく間、時間が止まったかのような感じを覚えました。実際に時間的な余裕もありました。攻撃面で完全に左サイドを制圧した長友は切り返しで相手DFを置き去りにし、余裕を持ったクロス。中央のDFはことごとくニアに引きつけられ、何故か李を完全にフリーにしてしまうミス。ボールが描くゆるやかな軌道、見つめる李の視線、振り上げた左足、すべてがスローモーションで今もまだ甦ってきます。

流星が落ちるまでに3回願い事を言うと叶うなんて言いますが、この長い長い数秒間で、どれだけ多くの祈りが捧げられたことか。「李に届く」「フリーだ」「決めろ!」「勝て…!」「勝ってくれ…!」…耐えた時間のぶんだけ、凌いだ時間のぶんだけ募る想い。まるで日本中の想いが乗ったかのように、長友が送った流星は李の左足で跳ねてゴールネットへ。その刹那、頭の中で甲高い音が鳴り響いたような不思議な感覚。それは、逆境という壁を、強敵という壁を、何度も痛み何度も倒れながらついに打ち破った音だったのかもしれません。

カタール・ドーハは特別な想いがある場所。1994年アメリカワールドカップアジア最終予選。俗に言うドーハの悲劇。ロスタイムで手の中からすり抜けたワールドカップ。あの虚ろな時間を体験した者なら、特別な感慨を持たざるをえない舞台です。そして、決勝戦の相手がオーストラリアだったということも、ドーハと並んで深い痛みを残した2006年のワールドカップを思い出さずにはいられない相手。その地・その敵と相対し、日本代表がアジアカップ2011を制したことは、単なる偶然以上のもの。歴史の大きな節目と言ってもよいのではないでしょうか。

これから「ドーハ」と聞けば、この夜を思い出すはず。記憶の中で、ボールを呆然と見送るGKは松永成立ではなくシュワルツァーに置き換わります。オーストラリアとの対戦で甦るのは崩れ落ちる選手たちの姿ではなく、終わらない歓喜の輪です。「何故あのとき」と何度も悔やみ自問した出来事が、「ロスタイムで追いつかれた」「パワープレーで崩された」だけの過去になった。その思い出が占めていた部分が、何度も噛み締めたくなる栄光で満たされたのです。

過去を乗り越え、未来へ。

振り返る過去がなくなれば、未来を見つめるしかありません。アジア王者としてのぞむコンフェデレーションズカップ、そしてコパ・アメリカ。日本代表には次のステージでの戦いが待っています。そこでまた砂を噛むことになるかもしれません。しかし、壁を乗り越え、また次の壁にぶち当たり、そしてまたそれを乗り越えて行くのが人生。新章突入。そんな想いを胸に、日本代表の新たな冒険をこれからも見守っていきたいものです。また高い壁と出会い、それを乗り越える姿を思い描きながら…。

ということで、黄金の野に降り立った青き戦士たちの雄姿を、29日にテレビ朝日が中継した「アジアカップ決勝 日本VSオーストラリア戦」などからチェックしていきましょう。



◆その者、青き衣を身にまといて、金色の野に降り立つべし!

松井を欠き、香川が骨折で離脱した日本代表。スタメンに藤本を起用しますが、攻撃面でのオプションは極めて限定される陣容。120分戦うかもしれない、PKまでもつれるかもしれない試合は、スタート前から厳しい状況でした。しかし、こうした逆境を乗り越えてきたのが今大会の日本代表。離脱した選手のぶんまで、残った選手で戦うしかありません。

試合はゆっくりとした立ち上がり。日本代表は攻撃時に考え込むような場面が多く、ダイレクトパスで小気味よく崩す場面は見られません。初スタメンとなった藤本はいかにも周囲との連携が悪く、あらぬ方向で孤立する場面もチラホラ。右SB内田との謎ポジショニングコンビが、日本の右サイド・オーストラリアの左サイドを混乱に陥れます。

一方オーストラリアは徹底した放り込みサッカー。エリア内まで侵入したケーヒルが落として、それをキューウェルなどが狙うシンプルでつまらないやり方。同時に、2006年のワールドカップでは5分で3点を奪われた苦い思い出が甦るイヤなやり方。日本も吉田・今野が体をぶつけて必死に対抗しますが、空中戦ではやはり不利。たびたびいい落としからチャンスを作られることに。

そんな苦戦の影響か、テレビ朝日のテロップも大混乱。岡崎慎司は57歳、前田遼一は25歳など、選手プロフィールの表示がグチャグチャになる始末。解説をつとめるまつきやすたろうクンの「岡崎走ってる」「岡崎頑張ってる」「ナイス岡崎」などの過剰な岡崎推しと相まって、「57歳なのに力走を続ける岡崎」というカンチガイを世間に喚起。全国の高齢者に勇気を与えてしまいます。

↓57歳ってとんだジジイじゃねぇか…。


40すぎてこれだけ走れたら「キング」とか呼ばれるぞ…。


↓前半30分には57歳岡崎がエリア内でシュートを放つも、相手DFの手に当たって防がれる!



まつきクン:「あぁハンド!ハンドないか!」
まつきクン:「これはもうオグネノブスキ、ハンドですよねぇ!コレ!」
まつきクン:「あぁ悔しいねぇ!ウーン」


GK川島の好セーブなどで、前半は辛くも0-0で折り返した日本代表でしたが、後半に入ってからも続く苦戦。とにかく中盤を飛ばしてロングボール一発でピンチになるため、精神的にも肉体的にも厳しい戦いが続きます。こんなサッカーには負けたくないが、このままではいつかやられる…日本のファンも冷や汗の連続でした。

↓後半3分にはライン上でボールがバウンドする危険な場面も!


まつきクン:「あー!危ない危ない!危なーい!」
まつきクン:「入ってない入ってない!入ってない!入ってない!」
まつきクン:「入ってないです」
まつきクン:「(スローを見て)あーおぉー入ってない入ってないって、絶対入ってない」
まつきクン:「(スローを見て)入ってないね、入ってない」
まつきクン:「(スローを見て)いや入ってない入ってない全然入ってない」
まつきクン:「(スローを見て)ラインにもかかってないでしょコレ、ね。うん」
まつきクン:「(スローを見て)全然OKです」
まつきクン:「(リプレイを見て)入ってないシーンですね」

入ってないだけで14回、全部合わせて16回「入ってない」宣言www

コッチだって見りゃわかるってーのwwwwwwwww

徐々に落ち着いた口調を演出してるあたりに地味にカチンとくるwww



しかし、この苦しい戦いを指揮官の采配と、ピッチ上の選手たちの知恵が一変させます。後半11分、周囲と上手く連携できずにいた藤本を下げ岩政を投入。普通なら今野をあまらせてカバーリングさせる采配なのでしょうが、今野を左SBに動かし、長友を左ハーフに上げるという奇策に打って出たのです。練習でこの形を想定していたかは疑問ですが、オーストラリアのケーヒル・キューウェルに吉田・岩政がそれぞれつくことでオーストラリアのゴリ押しを封殺。さらに、長友が攻撃面に比重を移したことで、日本は左サイドからいいクロスを連発。後半21分には岡崎が惜しいヘッドを放つなど、守備の安定だけでなく攻撃の活性化までも一挙に達成。試合の中で状況に対応していく力は、かつての日本代表では考えられないもの。「ポリバレント」なんてキーワードも胸をよぎります。

そして試合は延長戦に突入。日本代表は激闘の疲れ、屈強なオーストラリア人のラグビー式タックルでヘロヘロ。足も止まりがちになり、キレも失われている状態。そんな状況を打破するため、指揮官は前田遼一を下げ、ヨルダン戦以降出番のなかった李忠成を投入。「確かにほかに選手はいないけど」「李で大丈夫か?」「ヨルダン戦はアレだったが…」など期待と不安が交錯する交代。

しかし指揮官は、ヨルダン戦では完全に存在を消していた李の「消える」能力すら計算に入れていたのかもしれません。中途半端に消える前田ではなく、完全に消える「李NINJA忠成」は決勝の大舞台でその特殊能力を発揮。延長後半4分、無尽蔵のスタミナでピッチを走り回り、僕の中のクライフが「長友を動かせ。長友は疲れない」と絶賛する長友が左サイドを切り崩すと、オーストラリアDFは誰ひとり李を見ていないという大失態。忍者のように忽然とゴールど真ん前に現れた李のもとへ、この日一番のクロスが飛んできたのです!

↓延長後半4分、日本サポーター全員の祈りを乗せて、李忠成の左足から決勝ボレー炸裂!



まつきクン:「よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉし!」
まつきクン:「やぁぁぁぁっっっっっっっったぁぁ!」
えちごクン:「やぁったぁぁぁぁ!おぉぉしへっへぇぇほらほら!」
まつきクン:「ゲホッン!やったやったやったwwww」
まつきクン:「ハハハハハハハハ!」
えちごクン:「ほらいぇぇぇぇい!いぇぇぇいやったぁ!」
えちごクン:「ほーら李だよ!」
まつきクン:「やった!よっしゃ!アハハハやったやった!」

オッサンたち落ち着けwwwいや落ち着かなくていいwwww

遠い遠い空の上で見守る槙野智章さんに捧げる、李の弓矢パフォも決まったぜぇい!



ここからはもう歓喜と混乱の宴。お茶の間の視聴者も、放送席のVIP観客も、誰もが日本の勝利へただの応援団と化していきます。まつきクンも「岡崎もういっちょぉ!」「じっくりね、じっくり!」「声を掛け合って…オッケー!」「戻って!」「おぉしオシオシおぉし!」「今のイエローだ完全に!」「うん!」「おおぃ!ファウルじゃないのか!」「寄せろ!寄せろ!」「大したもんだ!」などと全力で応援を続けます。

ただ選手たちはこの混乱に飲まれることなく落ち着いていました。体を張ってオーストラリアの攻撃を跳ね返し、時間を消費していきます。延長後半14分に内田に替えて伊野波を投入した場面では、内田が遠いサイドからゆっくり歩いてくるなど、中東戦法も越える日本式牛歩戦術を実践。

そしてラストプレー。ゴール正面、ペナルティエリアすぐそばで相手に与えたFK。まつきクンが「うあっ!?」「ふあっ!?」「あーっ!」などの奇声をあげると、隣のえちごクンも「みんなで守ろう…みんなで守ろう…」「ナナミ、ナナミさん!気持ちだけで壁に入って…」「頼むぞ!」とセンチメンタルおやじに変身。そして最後の攻撃を凌いだその瞬間!

↓ついにタイムアップ、日本が2大会ぶり4度目のアジア制覇!


えちごクン:「よぉぉっしゃぁ!やったーーーーーーーーー!」
まつきクン:「やったーーーーーーーーーーーーーー!」
えちごクン:「いぇぇぇぇい勝ったーーー!やったーーー!」
まつきクン:「やったよ…やった…やったやった…ナイスだ!」


飛び出す選手たち。広がる歓喜の輪。誰ともなく抱き合う日本人。苦しかった。何度も逆境が訪れた。肉体では負けていたかもしれない、重要な選手を次々に欠き技術・戦術も万全ではなかった。しかし、人間の本当の強さは知恵と勇気です。それを証明する日本代表の戦い。

長い歴史の積み重ね。ロスタイムまで試合は終わらないというドーハの教え。肉体に屈し、勝利を取り逃がした2006年ワールドカップの痛み。いくつものポジションをこなし、考えるプレーを意識した2007年大会。全員で献身的に走り、諦めない強さ、逆境を跳ね返す勇気を身につけた2010年。日本サッカーの経験が血となり肉となり、すべての困難を乗り越える原動力となったような大会。アジアカップ4度の優勝はすべて思い出深いものでしたが、今大会こそがベストワン。最高の優勝、最高のジャパンでした!

勝利の余韻に浸る代表の面々。松井のユニフォーム、香川のユニフォーム、離脱した選手たちのユニフォームもともに歓喜の場にありました。このときのために用意した優勝記念シャツの胸には輝く4つの星。日の丸の赤。優勝カップに口づけする李。MVPを「チーム全員に捧げる」と言い放った本田△。長谷部が高々と掲げた優勝カップ。打ち上がる大輪の花火と舞い上がる金色の紙吹雪。東洋の胴上げなる風習に戸惑うザック。黄金色に変わったピッチを踏みしめる青き戦士たち。誇らしい代表の姿は、僕らの胸に永遠に残る記憶となりました。

↓表彰式で黄金の大地に立つ、誇らしき日本代表たち!


日本代表の黄金時代の幕開けを示す黄金のピッチ!

涙で代表が見えないおばばの代わりに、黄金の野に立つ青き衣の戦士たちをしっかり見ておくれ!



この栄光に沸きつつも、キャプテン長谷部は「これは所詮アジアレベルなんで、世界と戦うには個々の能力を上げていかないといけない」とさらなる飛躍を誓いました。大きな成功を受けての努力ほど、楽しく、やり甲斐のあるものはないでしょう。まだまだ成長できる、まだまだ強くなる日本サッカー。日本サッカーの素晴らしい時代をともにすごせるかと思うと、今この時代に生きていることが本当に嬉しくなってきますね。ありがとう、お疲れ様、サムライブルー!



次はコパ・アメリカで強く逞しく誇らしい日本代表を見せてくれ!ありがとう!