W杯一次リーグの第2戦、メキシコ戦(6月17日)のハーフタイムに控え室でドメネク監督を罵倒したとされるフランス代表のニコラ・アネルカ(チェルシー)が、ついに沈黙を破った。現在、南イタリアのバーリでバカンスを過ごしているアネルカのインタビューが、15日付のフランス・ソワール紙に掲載された。

 W杯でのフランス代表の“空中分解”について、アネルカのコメントはいたって単純だ。「自分が事を起こしたのでなかったとしても、ほかの誰かが起こしていただろう。いずれは爆発する運命にあった」。自分が怒りをぶつけた相手であるドメネク監督の名前は出さなかったが、チームメイトも同じ気持ちを抱いていたことを暗に示している。

 監督に対するアネルカの“暴言”は、2日後のレキップ紙で大々的に報じられ、その日のうちにフランスサッカー連盟(FFF)がアネルカの追放を決めた。何も知らされなかった選手たちは翌日(6月20日)、練習をボイコットする形で処分に対する抗議に打って出た。自分たちの気持ちを代弁したアネルカに連帯を示したということになろう。

 このとき、練習ボイコットの首謀者が誰であるのかが話題になった。報道によれば、主将のエヴラ、アンリ、ギャラス、アビダルらの“幹部”が中心となってボイコットの必要を主張し、グルキュフ、ロリス、サニャらはしぶしぶ追従したということになっている。ところが帰国後、やや意外な選手が自ら“首謀者”のひとりだったことを名乗り出た。ジェレミー・トゥララン(リヨン)である(11日付ジュルナル・ド・ディマンシュ紙)。

 「ジェレミーがこのことを認めるには、勇気と強い精神力が必要だったろう。彼といっしょにプレーできたことを誇りに思う」と語るアネルカ。今回インタビューに応じたのも、このトゥラランの「勇気」に心を動かされたためだった。

 トゥラランはW杯の3ヶ月前にも、調子の上がらないフランス代表に苦言を呈する98年W杯優勝メンバーに食ってかかったことがある(3月19日付ル・プログレ紙)。これを忘れていなかったビシェンテ・リザラズ氏(現解説者)からは、トゥラランが今回の練習ボイコットの首謀者のひとりであったことを知るや「大きな失望を感じた」(TF1局「テレフット」7月11日放送)とさっそく反撃を受けた。

 そしてトゥラランの援護射撃に出たのが今回のアネルカだ。その結果、インタビューも、監督と対立した真相には触れず、リザラズへの激しい批判が中心となっている。「かつて選手だったのなら、現役の選手に対する何らかの敬意があって然るべきだろう。いったいリザラズが何者だというんだ? 彼の発言を聞くと、まるで“生きる伝説”がしゃべっているようじゃないか。ところが実際は、受けのよくない元選手というだけだ。ジダンやデュガリといったボルドーの元チームメイトが引退後の転身に成功しているので、不満がたまっているんだ」と堰を切ったように怒りをあらわにした。

 アネルカのリザラズ批判はさらにつづく。「彼が解説者としてやっていることは、ただの陰湿な攻撃。自分が2002年W杯(フランスは一次リーグ敗退)に出ていたことを忘れてしまったのか? 僕はこのとき代表に選ばれなかったが、(フランスの不振に関する)いっさいのコメントを慎んできた。彼の口から“敬意”なんて言葉は聞きたくないね。彼が(現役当時)練習中にバイエルンの主将(ローター・マテウス)に平手打ちしたことは、誰もが記憶しているんだ」と攻撃をゆるめない。

 これがW杯終了後のアネルカの“第一声”のほぼすべてだ。誰もがドメネク批判を予期していた中、リザラズという“部外者”への反撃に終始する思わぬ展開となり、フランスの読者が拍子抜けした感は否めない。