先週の11日、金曜日のことだ。ミランのガリアーニ副会長は、リグーリア海に停泊中だった巨大クルーザー「ペロールス」の主から丁重な招待状を受け取っていた。ロナウジーニョ移籍交渉で多忙を極めていた副会長だったが、招待を断ることはできなかった。送り主の名が、ロマン・アブラモビッチだったからだ。

 アブラモビッチの狙いはずばり、ガリアーニ副会長にカカを譲ってくれるよう直談判することだった。テーブルに置かれたカードの値は、1億ユーロ(約165億円)。それだけで中堅以上のチームがゼロから作れる額だ。

 ガリアーニの答えは「ノー」。

 この会談より以前、ガリアーニは、FWアンドリー・シェフチェンコを1500万ユーロで譲ってほしいとチェルシー側に頼んでいたが、ロシアの大富豪は「彼はロンドンから動かさない」と応えていた経緯があった。

 物別れか。しかし、このトップ会談は翌週に控えていたバルセロナでの獲得最終交渉への重要なアシストとなった。チェルシー新監督であるスコラーリがロナウジーニョ獲得を要請したと報じられ、その真意を質したガリアーニにアブラモビッチは「ロナウジーニョは私の計画に入っていない」と答え、安堵させた。これによってガリアーニは、バルセロナのラポルタ会長との交渉の際、同席していなかった競争相手マンチェスター・シティとの勝負に集中することができた。

 クルーザーを離れる際、ガリアーニはアーセナルとのアデバヨール獲得交渉を打ち切ることをアブラモビッチに約束して去った。

 地中海に浮かぶ豪華クルーザーで、一流FWたちをカードにしたかけ引き。現実は、ときどき陳腐な映画を凌駕する。是非ともその場のやり取りを見たかった、と思うのは筆者だけではないだろう。