ポーランド、YES。ウクライナ、NO。

 スイス・オーストリア共同開催のユーロが終わったばかりだが、UEFAは次回2012年大会開催国について難しい決断を迫られている。9月25日、仏ボルドーでのトップ会合で、準備の遅れが叫ばれ続けているポーランド・ウクライナ開催の是非を問う最終審議がなされることになっている。

 UEFAのミシェル・プラティニ会長は、ワルシャワとキエフへの視察訪問を終えたばかり。ポルトガルとドイツの資本が参入したことによって加速度的に進行しているポーランドのインフラ整備に安堵したプラティニだったが、ウクライナ入りして愕然とするしかなかった。これまでにくり返されてきた話し合いや約束はすべて反故にされ、目に見える成果は実質ゼロ。現在も同国内の整備状況は“カオス”としかいえない状況で、9月末のボルドー会議までに劇的に改善する兆候はまったくなかったのだ。

 先日、ポーランド・ウクライナ両国政府首脳はそろって「ユーロ開催という機会をともに協力して成功に導く」と声明を出したが、プラティニの現地視察の後ではその言葉も空しく響く。「開催権剥奪」という最悪のシナリオが現実味を帯びてきた。

 ウクライナ一国のせいでポーランドまで開催権剥奪となれば、招致国決定の際、純粋な開催能力ではなくEU加盟問題や移民問題、そして欧州エネルギー政策に配慮した“政治的決定”だと揶揄されたUEFAの面目丸つぶれである。

 今のところ公式な代替国案は存在していないとされるが、9月末の審議次第では非常事態に備えた「プランB」が一気に浮上する。すでに水面下では、カーディフでの招致決選投票で敗れたイタリア単独開催案、イタリア・フランス共同開催案の他に、可能性は低いもののスコットランド単独開催案があるとされる。さらに驚くべきことにイングランド、ポルトガル、ドイツ、スペインのいずれかがポーランドと共同開催するという破天荒なプランすら取沙汰されているという。

 筆者は昨年CLのために、ユーロ開催予定地であるドネツク(ウクライナ)を訪れたが、滞在期間中まるで1960年代の共産主義国を追ったドキュメンタリーをリアルタイムで見ている思いにかられた。建設中だった地元金満クラブの新スタジアムこそ最新基準だったが、庶民が使う地元バスセンターに並ぶ錆びたボロボロの車両や窓ガラスが割れたまま走る市電の尋常ではない汚れ具合に西欧との格差をまざまざと見た。闇市場では身の危険を感じ、シャッターを押すことすらためらわれた。

 スタジアムは綺麗でも、道路網や空港といったインフラが国家レベルで整っていなければ、ユーロのような一大国際イベントでは混乱必至で、4年後でも事態が好転するとは考えにくい。多少落ち着きすぎている向きはあったが、すべてが理路整然としスムーズそのものだったスイス・オーストリア大会を取材後、なおさらその思いは強くなっている。