『素晴らしき哉、先生!』©︎ABCテレビ

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 『素晴らしき哉、先生!』(ABCテレビ・テレビ朝日系/以下『すばかな先生』)は、観るたびに“好き”が更新されていくドラマだった。

参考:生田絵梨花、地上波連ドラ初主演で得た気づき 「いままで知らなかった自分に出会えている」

 生田絵梨花が演じたりおというキャラクターに「分かるわぁ」と共感して、「こんなふうに生きたいな」と憧れて。りおを取り巻く家族や同僚、生徒たちも素敵な人たちがそろっていたため、リアルが詰め込まれているなかでも、心にじんわりと温かいものが広がる瞬間が幾度となく訪れた。

「こんなに他人の幸せ願う仕事ってないよね、きっと」

 『すばかな先生』最終話。大隈(桐山漣)の言葉に、りおも山添(葉山奨之)も大きくうなずいた。この言葉を聞き、わたしたちはみんな、親に、教師に、地域に、“幸せになって”と願ってもらいながら、育ってきたことに気付かされた。だからこそ、絶対に幸せにならなきゃいけない。幸せになることを、諦めてはいけない。

 同クールに放送されていたドラマ『海のはじまり』(フジテレビ系)に登場した「他人に優しくなりすぎず、物分かりのいい人間を演じず、ちょっとズルをしてでも自分で決めてください」という台詞。

 『すばかな先生』のりおも、自分が幸せになるために、子どもを産み、教師を続ける選択をした。木元(浜谷健司)のように、「未婚の母はモラルがない」とか、「そんな人間に道徳を語れるのか?」と思う人もいるだろうし、受け入れられない保護者や、戸惑う生徒も出てくるだろう。

 しかし、たまには教師もちょっとズルをしてでも、自分の幸せを優先する瞬間があったっていい。

 山城(萬田久子)が担任を受け持っていた時代は、教師が離婚をすることさえ許されなかったらしい。それが、今ではシングルマザーで子育てをしている教師も存在していて、“多様性”が認められるようになってきている。時代を変えるためには、誰かが先駆者にならなければならないのだ。

 それにしても、最終話で武田鉄矢が出てきたのは激アツ展開すぎた。伝説の学園ドラマ『3年B組金八先生』(TBS系)で、熱血教師・坂本金八を演じた武田が、『すばかな先生』では学園の理事長に。

 未婚の母が教師を続けていいのか? という問題を型にはめるのではなく、りおという人間と向き合い、「生徒と保護者の判断に委ねましょう」と言ったとき、「金八先生でも同じことを言っていただろうな」と思った。

 りおのケースでは、受け入れられた問題も、また別の教師だと受け入れられないかもしれない。でも、そこは柔軟性を持って対応していけばいい。“こうあるべき”という固定観念を捨てることこそが、多様性を認めることにつながっていく。

 素敵な生徒たちがそろっていた3年C組。一般的な学園ドラマだと、教師と生徒は最初は仲が悪く、だんだんと打ち解けていく様子を感動的に描くことが多い。しかし、『すばかな先生』は、特殊詐欺事件の受け子や万引き、迷惑動画など、問題を起こす生徒はたくさんいたものの、りおと生徒たちの仲は最初から良好だったように思う。それでも、ここまで深い学園ドラマを作ることができるのだというのは、新たな発見だった。

「いつしか私は教師が素晴らしいって心底思ってる」

 そうつぶやいたりおのように、みんなが自分の職業を心底思えるようになれば、世界はもっと美しくなっていくのかもしれない。りおに育てられた3年C組の生徒たちも、そんなふうに思えるような大人になってほしい。そしていつか、彼らにまた会える日が来ることを願っている。

(文=菜本かな)