ONE OK ROCK(撮影=橋本塁 [SOUND SHOOTER])

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 9月14日、15日の東京・味の素スタジアムからスタートしたONE OK ROCKのワールドツアー『ONE OK ROCK 2024 PREMONITION WORLD TOUR』が、9月21日に台湾・高雄で初の海外公演を迎えた。会場は高雄国家体育場、台湾で最大のキャパシティを誇る陸上競技場である。

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 バンドにとって海外で初めてのスタジアムライブという金字塔を打ち立てた一夜を、筆者は幸運にも現地で目撃することができた。ONE OK ROCKは今自分たちが放ちたいメッセージをスタジアムを埋めた4万5000人のオーディエンスを前にひたすらまっすぐに届け、そのまっすぐさと音に込めた熱によって、言葉や文化の壁を思いっきりぶち破ってみせた。ここまで10年以上続けてきた海外での挑戦が新たなフェーズに突入したことをまざまざと見せつける、すさまじいライブだった。

 振り返れば、ONE OK ROCKが初めて海外で単独ライブを行った地は台北だった。2012年、ツアー『ONE OK ROCK 2012 "Start Walking The World" TOUR』の一環として、台北のライブハウス・Legacy Taipeiで公演を行ったのだ。会場のキャパシティは約1000人。当時結成7年目、日本国内ではすでにアリーナツアーを行っている彼らだったが、そのキャリアも実績もある意味では投げ打って、再び小さなライブハウスから新たな一歩を踏み出したのだ。

 高雄国家体育場のステージで、Taka(Vo)はこれまでの海外挑戦を振り返って「挫折もあった」と率直な言葉を口にしていた。当時、事務所からは反対されるなかメンバーと話し合い、自らの意思で切り開いてきた道。日本で見ているともちろん揺るぎないビッグバンドなわけで、これはなかなかわかりづらいところかもしれないが、一見華やかに見える“海外進出”のなかにも多くの辛苦があったのだろうし、ONE OK ROCKはそのすべてを一身に引き受けながら、少しずつ、しかし着実に歩を進めてきたのだろう。

 実際、2012年の初海外公演から、彼らは文字通り一歩ずつ、海外でのライブの実績を積み重ねてきた。同年秋に開催されたツアー『ONE OK ROCK 2012 "The Beginning" TOUR』では、ツアーファイナルとして同じくLegacy Taipeiで2DAYS公演を行い、翌2013年にはヨーロッパとアジアを舞台にした初の海外ツアー『ONE OK ROCK 2013 "Who are you?? Who are we??" TOUR』を敢行。香港や韓国、東南アジアをまわったアジアシリーズのファイナルは2013年12月7日、やはり台湾・新北の新荘体育館。前年から大きなジャンプアップとなる、6000人クラスの会場となった。その後も彼らは台北で3度ライブを行っているが、それらはいずれもアリーナクラスでの開催。彼らは、まさに日本でそうしてきたように、ひとつずつ会場のキャパシティを上げ、現地での認知と観客動員を高めてきたのだ。

 並行して2017年頃にはTakaがロサンゼルスに拠点を移し、ワールドワイドな活動も本格化していったわけだが、もちろんヨーロッパでもアメリカでも、彼らは同じように地道に、あるいは愚直に、ライブハウスのステージに立ち続けてきた。日本では万単位のオーディエンスに歓迎される一方、海外ではヘッドライナーのサポートを務めながら爪痕を残し続ける。もちろんこれまでも海外での活動に力を入れてきたバンドやアーティストは数多くいるし、なかには日本以上の知名度を海外で獲得したものもいる。ただ、ONE OK ROCKのように、日本でのプレゼンスをキープするどころかますます高めながら、同時に泥臭く、海外での活動を継続して行っていくというスタンスの持ち主は決して多くはないように思う。何ひとつ諦めず、時に苦渋を味わいながら、明確なビジョンとプランをもって邁進し続ける。言葉にすれば簡単だが、それを実行するのはいうまでもなく難しい。Takaの意思に全力でついてきたメンバー、そしてスタッフチーム、バンドにかかわるすべての人が一丸となって、彼らは世界を相手に戦うロックバンドへと成長を遂げてきたのだと言えるだろう。

 その成果というか帰結が、今回、過去最大規模で開催されている『PREMONITION WORLD TOUR』である。ここ数年、かつあくまで個人的な観測範囲内での話だが、少なくとも一定以上の音楽好きであれば、ドイツやフランス、カナダの人でも、ONE OK ROCKの名を知っているという印象がある。ヨーロッパや北アメリカでも、ONE OK ROCKという名前は「日本のロックバンド」の代名詞となりつつあるのだ。アジアではその勢いはさらに強い。今回、初めての海外スタジアムライブの開催地が台湾、そして日本人アーティストとしては未踏の会場である高雄国家体育場となったのも必然だったと言っていいだろう。

 さて、その高雄公演。筆者は高雄の市街地からメトロを使って会場に向かったのだが、開演数時間前にもかかわらず、街中や駅でONE OK ROCKのTシャツを着たファンに遭遇した。最新のグッズ/マーチャンダイズを身につけている人もいるが、『35xxxv』や『Ambitions』のツアーTシャツを着た人もいる。なかにはジャパンツアーのTシャツもあったりして、バンドがこの地で積み重ねてきたものを見る思いがした。

 市内のバス停にはライブの開催を告げる巨大な広告看板が設置され、その看板と記念撮影をしている人の姿も。もちろんなかには日本からやってきたファンもいたはずだが、少なくとも最寄駅から会場に向かう道すがらで聞こえてきたのは中国語ばかり。高雄は台北から高速鉄道(新幹線)で90分あまり、日本でいえば東京・名古屋間くらいの距離になるのだが、おそらく台湾中から観客が集まっているのだろう、会場近くでは路肩に連なるシャトルバスを見ることができたし、ファン同士がコミュニケーションを取ってテンションを上げ合うような光景もあった。

 つまり、筆者が見る限り、会場周辺に漂う空気は、たとえば日本でアメリカやイギリスのビッグバンドが来日公演を行う時とまったく同じだったのだ。実際、高雄国家体育場はこれまでBruno MarsやMaroon 5、Coldplayといった世界的アーティストがライブを行ってきた場所。筆者はこの記事の冒頭で「海外での挑戦が新たなフェーズに突入した」と書いたが、もっと正確に言えば、少なくとも現地でのONE OK ROCKを取り巻くムードは「挑戦」という言葉がもはや似つかわしくないものだったのだ。

 ただ、この日のライブはすべてが順風満帆というわけではなかった。開場中から降り出した雨は開演に向けてどんどん強まり、ライブ中はほぼずっと土砂降り状態。ステージの映像装置にも影響が出るような天候で、観客はもちろんメンバーもずぶ濡れになりながらライブに臨むことになったのだ。Takaは英語で「シャワーを浴びながら歌を歌うのが好きなんだけど、そんな気分で楽しいよ」とジョークを放っていたが、本当にシャワーのような雨が降り続くなかでの野外ライブは相当タフなものだったと思う。だが、そんなコンディションでも、そこは百戦錬磨のロックバンド。彼らは堂々とパフォーマンスし、オーディエンスを鼓舞し続けた。

 ライブの詳しい内容については書いていくとキリがないのだが、ここ高雄でも何度も巨大なシンガロングが生まれ、「じぶんROCK」や「キミシダイ列車」のような過去の楽曲から「Wonder」や「Delusion:All」のような最新の楽曲まで、どの曲でも会場は揺れ続けた。滝のような雨も、逆にオーディエンスとバンドのユニティを強めるきっかけのひとつになったようで、開演から終演まで、凄まじい一体感と高揚感がスタジアムを覆い尽くしていたのである。

 とりわけ筆者にとって感動的だったのは、この日のライブが、先日観た東京公演とまったく同じコンセプトやテーマ、そしてメッセージをしっかりと届け切っていたことだ。詳しくは本サイトでアップしている東京公演のレポート(※1)を見てもらえればと思うが、それをそのまま持ち出す形でこの台湾公演も行われていた。ワールドツアーなのだから当たり前といえば当たり前なのだが、安易に“国内仕様”や“海外仕様”と切り分けないところに、バンドのブレない芯のようなものをあらためて感じたのだ。

 それと通じるものとして、TakaのMCもこの日は日本語の割合が多かった。もちろん英語で話す場面もたくさんあったし、Toru(Gt)、Ryota(Ba)、Tomoya(Dr)は中国語での挨拶も披露していたのだが、天候トラブルもあって「パニックなので」と前置きをしつつ、Takaは慣れ親しんだ日本語でオーディエンスに思いを伝えることを選んだのである。そして、その言葉は間違いなく台湾のファンにも届いていた。

 ライブの終盤にも彼はここから続いていくワールドツアーで“平和”を伝えていく、と宣言した。あらゆるボーダーは越えることができる。つながり、文字通りひとつになることができる。「今、高雄のスタジアムで、土砂降りにもかかわらず、みなさんと向き合っている。それがどういうことか」――。Takaのそんな言葉を借りるまでもなく、その姿は、そしてこの日高雄国家体育場を包み込んだ空気は、彼らが目指す世界のありかたを示していた。なぜTakaは日本語で語りかけ続けたのか、そしてキャリアを網羅するような選曲を貫いたのか。そこに、ONE OK ROCKがこの『ONE OK ROCK 2024 PREMONITION WORLD TOUR』で届けようとするものがはっきりと見えた気がした。

※1:https://realsound.jp/2024/09/post-1782739.html

(文=小川智宏)