「マックの倒し方、知ってる?」バーガーキングの売上絶好調…「大量閉店」から5年、大躍進のウラにあった《異端の戦略》

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ハンバーガー業界の“異端児”、「バーガーキング」が絶好調だ。同チェーンを展開するビーケージャパンホールディングスは8月9日、2024年7月の業績を発表した。

それによれば、7月の全店売上高は前年同月比42%増、既存店売上高は同20%増を記録。これにより全店売上高は、同社が新体制を敷いた2019年7月以降、61ヵ月連続増収を達成したという。

かつては日本市場で迷走していたバーガーキング。それがどのように復活を遂げ、今、好調を維持し続けているのだろうか。その「戦略」を紐解いていく。

マック、モスを脅かす存在に

そもそも昨今のファーストフード市場は活況を見せている。富士経済によれば、'24年の市場規模は4兆765億円と、4兆円の大台を突破するとしている。なかでもハンバーガー市場は前年比6.2%増の1兆418億円と、業態別は最多だ。

各チェーンのシェア(販売高、'23年)はどうだろうか。

2位に圧倒的大差をつけ、不動の1位はマクドナルド(日本マクドナルド)で79.2%。続く2位には12.2%でモスバーガー(モスフードサービス)がつけている。

そして3位に位置するのがバーガーキングで3.0%。以下、4位ロッテリア(ロッテリア)2.6%、5位ウェンディーズ・ファーストキッチン(ファーストキッチン)0.9%と続く形だ。

こうして比較すると、まだまだマクドナルドモスバーガーの《二大巨頭》とは大きな差があるようにも思える。だが、フードビジネスコンサルタントの永田雅乙氏はこう指摘する。

「シェアだけ見れば、まだ業界3位に甘んじているバーガーキングですが、低迷していた頃からの成長力と、その経営戦略を考えれば、今後の伸び代はマックとモス以上。両社ともにバーガーキングを“脅威”とみなしているはずです」

バーキンが犯した「過去の過ち」

永田氏の言う通り、バーガーキングはかつて日本市場でその存在感を示すことができていなかった。

すでに世界的にはマクドナルドに次ぐ規模を誇っていたバーガーキングが日本初上陸を果たしたのは1993年のこと。最初の運営主体は西武グループの西部商事(当時)で、その後、'96年にJT(日本たばこ産業)が引き継ぐも経営は軌道に乗らず、'01年に日本撤退を余儀なくされてしまう。

なんとか'07年に、ロッテと経営支援会社リヴァンプの共同出資会社によって日本再上陸を果たすも、'10年には韓国ロッテリアが運営会社を買収。ここまで4度も運営主体が変わっているが、それでも今の状況とは程遠い低調ぶりだった。

なぜ、過去のバーガーキングは《失敗》に終わったのか。永田氏は「かつてのメニュー戦略に原因がある」と明かす。

バーガーキングの主力商品といえば『ワッパー』。その特徴といえば、何と言ってもそのサイズ感で、日本国内で販売されている一般的なハンバーガーと比べて、およそ1.5倍くらいあります。

したがってボリュームこそがバーガーキングの『強み』なわけですが、かつての運営会社たちはそれを理解していなかった。日本人が食べるには大きすぎる。そう考えて、一般的なハンバーガーと大きさが変わらない『ワッパージュニア』を前面に打ち出していたのです。

結果、バーガーキングは、メニューにおいてマックやモスといった他チェーンとの差別化が上手くいかず、長きにわたり低迷し続けてしまったわけです」

意図的な「大量閉店」の先に

そんな低迷続きのバーガーキングに《転機》が訪れたのは'19年のことだ。

その2年前、香港の投資ファンド、アフィニティ・エクイティ・パートナーズが運営権を獲得すると、現在の運営元であるビーケージャパンホールディングスを設立。そして'19年に「新体制」を発足したのだ。

同社がまず取り組んだのは、根本的な「出店戦略」の見直しだ。

「'19年にバーガーキングの大量閉店が取り沙汰されましたが、これは既存の不採算店舗を整理する目的で行われたものでした。そして同チェーンは『ドミナント戦略』に舵を切ります。たとえば鉄道各社の乗降者数の多い駅周辺に、集中的に出店を開始しました」(永田氏)

'24年5月にはこんな《奇策》にも打って出る。「バーガーキングを増やそう」キャンペーンだ。

「店舗を増やしたいのですが、物件探しに困っています。バーガーキングにぴったりの空き物件をぜひ紹介してください」。バーガーキングのX公式アカウントでの投稿だ。客自身が出店先になり得る物件を見つけて応募。成約した暁には10万円がもらえるという、実に斬新なキャンペーンを実行したのである。

結果、東京ほか首都圏、大阪、名古屋など都市部を中心に約7万8000件の応募が殺到。消費者が出店を待ち望む場所の膨大なデータが集まり、同社によれば今年秋以降、成約実現に向けて本格的に動き出すという。

現在約230店舗を有するバーガーキングだが、目標に掲げている「'28年末までに全国600店」も、けっして夢物語ではないだろう。

「ワッパー」がすべてを解決する

とはいえ、出店戦略はあくまで、消費者を店舗に誘導するための施策の一つに過ぎない。バーガーキングが大きく変わった最大のポイントは、前述した「過去の過ち」、つまり「メニュー戦略」の転換にある。前出の永田氏が語る。

「これまでの運営元とは違い、ビーケージャパンホールディングスは、主力商品はあくまで『ワッパー』であると再定義したことが功を奏したんでしょう。口に入れれば肉汁があふれ出し、スモーキーな香りが鼻を抜ける。そんな直火焼きの100%のビーフパティの美味しさを前面に打ち出したわけです」

ワッパーを一口でも食べてもらえば、バーガーキングのファンになる。そんな美味しさへの自信は、「広告戦略」からも伺える。

前述の「バーガーキングを増やそう」キャンペーン然り、同社はSNSマーケティングを中心に展開。マクドナルドモスバーガーのような、有名タレントなどを起用したテレビCMなどのイメージ広告には一切手を出すことはないという。

ビーケージャパンホールディングス代表取締役社長の野村一裕氏も、広告に対する考えをこう述べている。

〈どこまでいっても所詮はハンバーガー、広告を使って背伸びした姿を見せる必要はない。ただ、そう思いつつも一方で、当社は直火焼きの100%ビーフパティのおいしさに自信を持っている〉(『日経クロストレンド』'24年4月11日)

野村氏は同社に参加する前は、長きにわたりキリンビールでマーケティングを担当してきた人物。そんなマーケティングのエキスパートだからこそ、競合より優れた魅力的な商品があれば、自然とファンは増える、という飲食店の原理原則を理解しているのだろう。

「ラーメン二郎」と同じ戦略?

さらに、バーガーキングの広告を注視すると、ある戦略が見えてくると、永田氏は言う。

「新商品の広告を見てもらえれば明確なんですが、その大部分が『パティが4枚のハンバーガー』を写真に採用しているんです。これはメディア映えもそうなんですが、わかりやすく、『老若男女問わずターゲットにしている他社と違い、うちは大食いの人が満足できるボリュームがある』と伝えています。

例えるなら、大きな丼に山盛りにされた麺と野菜が特徴的なラーメン二郎と同じです。そのボリュームから、人を選ぶわけですが、強烈な信者とアンチを生んでいる。この賛否両論感こそ、『ランチェスター戦略』、いわば《弱者の戦略》として理にかなっているのです」

ハンバーガーチェーン市場において、マクドナルドモスバーガーは、戦力に勝る「強者」。そしてバーガーキングは、戦力の劣る「弱者」だ。当然、真正面から戦っては勝ち目がない。

だからこそバーガーキングは弱者なりの戦略、すなわちマクドナルドモスバーガーにはない「武器」を駆使して〈ゲリラ戦〉を仕掛けていく。

「たとえば、'20年に東京・秋葉原の店頭に掲げたポスターです。2軒隣にあったマクドナルドが閉店するのに合わせて掲示したもので、一見すると『22年間たくさんのハッピーをありがとう」という文言が見て取れますが、書かれた文章の左端を縦読みすると『私たちの勝ち』という文が現れるという仕掛けで、話題を呼びました。こうしたPR手法も、バーガーキングの巧妙なランチェスター戦略を象徴しています」

着実に成長し続ける業界の異端児は、すでに王者の背中を捉えているかもしれない。

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