【村上 茂久】”5700万票”が集まる「サンリオキャラクター大賞」の衝撃…!「キティちゃん」の順位が”下がる”とサンリオが儲かる「驚きのカラクリ」

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ハローキティでお馴染みのサンリオの業績が絶好調です。2024年3月期の売上高は前年同期比37.7%増の999億円、営業利益は同103.5%増の269億円と、いずれも過去最高を記録。営業利益率も27%とかなりの高水準です。

前編記事『“7期連続減収減益”だった「サンリオ」がまさかの大復活…!ディズニーランドを運営する最強「オリエンタルランド」を圧倒的に凌ぐ「意外な数字」』では、そんなサンリオの特徴的なビジネスモデルを解説しました。

後編では、サンリオが推し進める強力なキャラクタービジネスに迫ります。

この10年でサンリオは変わった

サンリオと聞いて、ハローキティをイメージする人はいまだに多いのではないでしょうか。ただ実のところ、同社がハローキティを前面に押し出していたのは、10年前の話。いまやハローキティ「一強」ではありません。

図表9は2014年3月期と2024年3月期におけるサンリオキャラクターの構成比で、国内外の物販事業およびライセンス事業の売上総利益をもとに算出されています。

2014年3月期の構成比を見てみると、ハローキティが75.5%と圧倒的でした。しかし現在の構成比は30.4%と、10年前の半分以下になっています。代わりに大きく比率を伸ばしたのはハローキティ以外のキャラクターです。2014年3月期に合計で24.3%に過ぎなかった「ミックスキャラクター」と「その他(のキャラクター)」は、2024年3月期で69.6%と約3倍に増えています。

この大きな変化にこそサンリオの戦略が表れています。2019年3月期の有価証券報告書から一部引用して、順に解説していきましょう。

“冬の時代”が到来

”『ハローキティ』をはじめとしたキャラクターをブランドとして育て、他社にライセンスすることで事業を拡大してまいりました。その主たる収益要因は商品化権ビジネス、いわゆるプロダクトライセンスであり、キャラクターは『ハローキティ』が中心でした。2015年3月期以降、5期連続で営業減益となったのは、欧州、米州での、プロダクトライセンス中心、『ハローキティ』中心のビジネスに偏ったことが大きな要因と考えています”

2024年3月期を除けば、2014年3月期の売上高770億円がサンリオのこの10年での最高記録でした。この時期、同社の売上が好調だった理由は、ハローキティを中心に、プロダクトライセンス事業をヨーロッパなどで多く展開していたからです。当時ハローキティのコラボをたくさん見たという読者も多いのではないでしょうか。

しかし、この稼ぎ頭のライセンスが切れ始めたことで、2014年3月期をピークにサンリオは7年連続減収減益という憂き目に遭います。その要因は図表10にあるように、主に欧州、北米、南米での売上の激減です。

2014年3月期にこれら3地域で235億円だった売上は、20年3月期の時点で46億円まで減っています。新型コロナウイルスが蔓延する前の段階で、すでに売上の8割が失われてしまったのです。

ちなみにこの時期、国内やアジアの売上高は、そこまで大きく落ちていません。日本とアジアの合計を14年3月期と20年3月期で比べると、減少率は5%ほど。この事実からも、売上激減の主要因が前述の3地域でのライセンス契約終了にあることが分かります。

さらにその後、世界はコロナ禍に突入。まさに泣きっ面に蜂の状態で、サンリオは7年連続減収減益となってしまいました。

しかし、サンリオはここから這い上がります。

強力なキャラクターを次々育成

コロナ禍前後において、同社は社内改革を行うとともに、ハローキティ一辺倒の状況から、複数キャラクター戦略へと転換を進めたのです。事実、サンリオは2019年3月期〜2021年3月期における3カ年計画で、ハローキティだけに頼らないセカンドキャラクター育成のためのマーケティング戦略を発表しています。

そしてその結果は、人気キャラクター総選挙とも言える「サンリオキャラクター大賞」に表れています。2024年のトップに輝いたのはシナモロールで、ポチャッコ、クロミ、ポムポムプリンと続き、ハローキティは5位にランクイン。サンリオはセカンドキャラクターの育成に見事成功したと言えるでしょう。

さらに得票率に注目してみると、育成の成功具合がはっきり見えてきます。

総得票数5,707万票に対して、トップ5の得票率はシナモロールが9.9%、ポチャッコが8.0%、クロミとポムポムプリンが7.2%、そしてハローキティが6.2%です(図表11)

2020年以降5年連続のトップのシナモロールはいまやサンリオのエースですが、他のキャラクターと比較してダントツで得票率が高いというわけではありません。むしろ競争は厳しいと言えます。

例えば、2020年から2023年まで2位をキープし続け、シナモロールと並ぶツートップだったポムポムプリンでさえも、2024年では4位となっています。それだけ上位陣の人気は拮抗しているのです。いまはトップに君臨するシナモロールといえど、今後も1位を維持するのは容易ではないでしょう。

裏を返せば、50周年を迎えたレジェンド・ハローキティに加え、同程度の人気を持った強力なキャラクターたちがしっかり育ったことを意味します。そしてこの戦略が功を奏し、サンリオは2020年3月期を底に売上高が上昇。2024年3月期で過去最高の売上高、営業利益を達成したのです。

さらなる成長を目指すサンリオの戦略

ここまでの内容を端的にまとめると次のことが言えます。

・売上高の8割は商品販売ライセンスで、原価率が30%以下と低く、売上が伸びれば営業利益が出やすいビジネスモデルになっている

・かつてはハローキティ一強で売上を伸ばしたが、それが裏目に出て海外で大きく売上を落とした。その対応策としてセカンドキャラクターの育成を強化。この戦略は見事にはまり、売上高が大きく躍進する

こうして見事なV字回復を達成したサンリオですが、今後はどのような見通しなのでしょうか。

決算短信によれば、25年3月期の売上高は、24年3月期対10.3%増で1,103億円、営業利益は同11.3%増の300億円と予想されています。ここから計算される営業利益率は27%と引き続き高い状況です。

昨今、エンタメ企業のあいだでは「顧客の時間の確保」が最も大きな論点になっており、ユーザーの時間を多く獲得できた企業ほど業績が伸びています。

そこでサンリオが重視しているのが、「サンリオ時間」という興味深い指標です(図表12)。

サンリオ時間は、「夢中時間」と「寄り添い時間」から構成されています。

夢中時間とは「検索時間や主要リアル接点滞在時間、主要デジタル接点滞在時間を総計」した数値で、寄り添い時間は「年間販売個数にカテゴリごとの単位時間を乗じて算出」した数値を指します。

ざっくり説明すると、夢中時間はWebやリアル店舗でのサンリオキャラクターとの接点の時間、寄り添い時間は実際に販売されたサンリオの商品の個数と、それら商品に接している時間を掛け合わせた総時間をいいます。

一見つかみどころのないこのサンリオ時間ですが、実は目に見えて増えていると分かる指標があります。

うなぎ登りの総得票数

それが、先述したサンリオキャラクター大賞の得票数です。図表13は、過去5年間のキャラクター大賞の総得票数の推移を表しています。

1383万票だった2020年に比べて、2024年は4倍以上の5707万票まで伸長。2020年に1位になったシナモロールの得票数は138万票でしたが、直近の2024年には566万票に増えています。

ちなみに、2020年の1位が獲得した138万票という数字は、2024年では14位あたりの水準。キャラクターで言えば、「はなまるおばけ」です。正直私はこのキャラクターを知りませんでしたが、得票数だけ見れば、すでに2020年のトップだったシナモロールと同じぐらいの人気があると言えるでしょう。

もちろん、一人が複数回投票していると考えられるので、いわゆるユニークユーザーでの投票数ではない可能性があります。とはいえ、この短期間で得票数が大きく伸びたのは事実。サンリオ時間を過ごす人は着実に増えています。

コロナ禍を乗り越えV字回復を達成したサンリオは、サンリオ時間の最大化を通じて今後どれほど業績を向上させていくのか。日常にあふれるサンリオキャラクターを見ながら、ぜひ確認してみてください。

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