中世英国の街並みに、英語が飛び交う邸宅やレストラン。ここは"パスポートのいらない英国"がコンセプトの「ブリティッシュヒルズ」だ。

しかも日本から飛行機で約14時間半かかるイギリスとは違い、東京から新幹線とシャトルバスを使い約2時間半でたどりつく。宿泊施設も備えた同施設で、英国文化を体験する一泊二日を過ごしてみた。

パスポートのいらない英国!? 福島の「ブリティッシュヒルズ」でプチ留学を体験

東京から2時間半で行ける! 中世英国の世界

東京駅から東北新幹線に乗り約80分、JR新白河駅からリムジンバスに乗り約40分の福島県・羽鳥湖高原に位置するブリティッシュヒルズ。海抜1,000メートルの高さにあるこの地は、スコットランドのハイランド地方に近い風土を持ち、夏は涼しく、冬は白銀の世界を楽しめる。



まるで衛兵が佇んでいそうなゲートをくぐり抜けると、イギリス国旗が並ぶアプローチが我々を出迎える。

衛兵が佇んでいそうなゲート

ブリティッシュヒルズは、1994年に神田外語大学・神田外語学院を運営する佐野学園の語学研修施設として設立された。当時の留学率は全学生の2割程度だったそうで「全ての学生に異国文化を体験させたい」という想いから、英語だけでなく英国文化を学べる施設として誕生した。

さらに、建築資材はすべて英国から取り寄せ、建築様式からインテリアに至るまで時代考証に基づき造られているというから驚きだ。

12〜18世紀にかけて建てられた英国の民家を思わせるゲストハウス

レセプションとなる「マナーハウス」までの道のりには、12〜18世紀にかけて建てられた英国の民家を思わせるゲストハウスが立ち並ぶ。

研修利用限定の宿泊施設「バラック」

そのほか、ウェールズにある中世の城「Caerphilly Castle(ケルフィリー城)」などをモデルにした研修利用限定の宿泊施設「バラック」を横目に、レセプションとなるマナーハウスへ。ここは中世の英国貴族が、荘園内に建てた邸宅をイメージして建てられており、フランス語の「マノワール(郊外、田舎という意味)」に由来するのだとか。

早速、送迎バスから降り立つと「Hello, welcome! Would you like to check in?(こんにちは、ようこそ! チェックインをされますか?)」と英語で出迎えられる。

マナーハウス内のエントラストホール

そのままベルスタッフに誘われ、石段造りの階段をのぼり重厚な黒い扉を抜けると……中央には階段、頭上にはフランスから取り寄せたシャンデリアが輝き、サイドにはオープン型暖炉が配されたエントランスホールに通される。

英国到着時のイミグレーション(出入国審査)をほうふつとさせる、ヴィクトリア時代の壮麗な空間が特徴的だ。

レセプションカウンター

サイドに設けられたレセプションカウンターで、宿泊客はチェックインを行うのだが、もちろんこちらも英語で案内される。ちなみに日本語でのコミュニケーションも可能なので、英語での会話に自信がない人も安心してほしい。

中世にタイムスリップ!? 英国貴族の建物を巡るガイドツアー

チェックイン後に、まずはマナーハウス内を巡る名物のアクティビティ「マナーハウスツアー」に参加した。

所要時間は約40分、ビジター利用は大人600円、小学生までの子どもは300円になるが、宿泊客は無料で参加可能。このマナーハウスツアーも日本語と英語バージョンがあるので、英語力を試したい方はぜひ英語の回に参加してみてほしい。

まずはエントランスホールの説明からスタート。ステンドグラスをあしらった大階段、カラフルな天井、布を織ったかのようなリネンフォールドの壁面など、細部まで技巧がこらされていることがわかる。

16世紀に制作されたエリザベス朝の刺しゅう作品の傑作『ブラッドフォード・テーブル・カーペット』を再現した作品が鎮座する

2階へとのぼると、16世紀に制作されたエリザベス朝の刺しゅう作品の傑作『ブラッドフォード・テーブル・カーペット』を再現した作品が鎮座する。

木彫りのレリーフの壁面やペルシャ絨毯(じゅうたん)、ウェディングケーキと呼ばれる天井がきらびやかな空間は、アッパーホールと呼ばれるエリアで、重要な賓客をここで迎えていたそうだ。

クイーンズルーム

奥に進むと館主夫人の居室であり、寝室をイメージした「クイーンズルーム」がある。中国の陶器や漆塗りなどアジアの調度品も多く用いられ、ヴィクトリア朝の英国を感じさせる。

キングスルーム

隣接する「キングスルーム」は館主の居室兼寝室をイメージしており、当時はゲストを招いたり、仕事や食事をしたりと多目的に使われていたそうだ。特に商談が行われることも多かったらしく、執務テーブルの引き出しには、向かい合う二人が物品を受け渡しできる仕掛けがある。

これは賄賂の受け渡しに用いられた細工のようで、英語で賄賂を渡すことを意味する「Under the table」の表現もここからきているそうだ。ちなみに2部屋とも宿泊可能だが、料金は応相談とのことなので気になる方は問い合わせてみてほしい。

ライブラリー

アッパーホールの横には「ライブラリー」もある。17世紀後半頃、貴族たちの間では文化度を競うようになり、専門の司書を雇い、書籍を選定させ、保管するライブラリーが設けられるようになった。そのライブラリーを含めマナーハウスでは、19世紀の書物を中心に約1,600点の書籍をそろえる。

スヌーカー・ルーム

ライブラリーの隣には、夕食後にお酒や葉巻をたしなみながらゲストとゲームに興じたという「スヌーカー・ルーム」がある。スヌーカーとはビリヤードよりも盤面が広く、球数が多い19世紀に考案されたゲーム。ちなみに、アクティビティでは、スヌーカー体験もできるので気になる人はぜひ参加してみてほしい。

リフェクトリー

続いては、メインダイニングとなる「リフェクトリー」へ。リフェクトリーとは、修道院や大学に寄宿する人たちが利用する食堂を指す。バルコニーに学長やゲスト、手前の一段高い場所に先生たちが座り、中央で学生たちが食事をするそうだ。高い吹き抜け、むき出しのはりと三角屋根、英国各州の旗が並び、映画の世界をほうふつとさせる。

ビクトリアンアレー

ツアーでは巡らなかったが、マナーハウス内にはお土産ショップ「ビクトリアンアレー」も備わっている。オリジナルグッズをはじめ、英国雑貨やお菓子、紅茶などを取りそろえる。ちなみに同施設では、価格がすべて1£=100円換算の£(ポンド)表記となっているのも面白い。

エグゼクティブラウンジ

また、18歳以上の宿泊客限定で利用できるのが「エグゼクティブラウンジ」だ。貴族の邸宅でいうところのドローイング・ルーム(応接室)にあたる部屋で、日中はコーヒーや紅茶を、夕食後はシングルモルトウイスキーやカクテル(ともに別途料金)を楽しめる。



正しいスコーンの食べ方は2通り!? 本場のアフタヌーンティーを体験

アスコットティールーム

英国文化を体感する上で欠かせないものといえば、やはりアフタヌーンティーであろう。「アスコットティールーム」では、約20種類の紅茶を取りそろえ、本場英国のアフタヌーンティーと家庭料理を味わえる。



1階にはティールームとテラス席があり、2階にはクラフトルームがある。同店でも「Hello, how many?(何名様ですか?)」と英語で尋ねられるので「Just one.(私一人です)」「Table for 2, please.(2人席をお願いします)」などと返すといいだろう。

アフタヌーンティー

「アフタヌーンティー」(2,800円/人)は、自家製のスコーン(プレーン、レーズン、チーズの中から2種類選べる)をはじめ、サンドウィッチやキャロットケーキ、季節のタルトがスタンドに盛られて登場するほか、好みの紅茶を1種類選ぶことができる。

加えて、アフタヌーンティーの内容に温かいお肉や魚料理をプラスした「ハイティー」(4,000円)も提供している。ハイティーはもともと、19世紀後半に夕食として労働者に振る舞われていた食事だという。

左が「デヴォンシャー式」、右が「コーンウォール式」

ここでいくつかのティーマナーを教えてもらった。はじめに、ティーフードは手を使って食べて問題ないとこのこと。食べる順番は自由だが、同店ではスコーンとキッシュが温かい状態で提供されるため、迷ったら温かいものから食べるのがおすすめだという。

スコーンは、手を使って横半分に割り、割ったところにナイフでクロテッドクリームとジャムを塗っていただく。実はこの塗り方、本場の英国では2通りあることをご存じだろうか。

クロテッドクリームを先に塗りジャムをのせるクリームファーストな塗り方を「デヴォンシャー式」、ジャムを先に塗り、クロテッドクリームで覆うジャムファーストな塗り方を「コーンウォール式」と呼ぶ。同名の2つの地方から始まった食べ方のため、この名がつけられたそう。塗り方の順番で味わいが変わるため、好みの食べ方を探るのもこれまた一興。

またポッドの紅茶がなくなったり、渋くなったりしたら「差し湯」をお願いすることもできるので覚えておこう。

伝統文化体験がかなう「英語カルチャーレッスン」

ブリティッシュヒルズ、英国の伝統文化を体験できる「英語カルチャーレッスン」が日替わりで開催されている。クッキングやカリグラフィー、スヌーカーなどさまざまあるが、今回は「ティーブレンディング」を受講してみた。

英語カルチャーレッスンの様子

このレッスンでは、カリブ海の島・バルバドス出身の先生が担当してくれた。実は、本施設の教師陣はコモンウェルス(英連邦王国)出身者のみのネイティブスピーカーで構成されている。

レッスンでは紅茶にまつわるクイズにはじまり、紅茶のタイプやグレードを学ぶ。その後フレーバー・香りの英語表現や各紅茶の特性を学び、実際に各々ティーブレンディングを行う。ワークシートを使い紅茶の味わいを表現する英語を学んだり、参加者同士で好きな紅茶について英語で語り合ったりするシーンもあった。



教科書を使いながら机に向かって勉強をするよりも、アクティビティの一環で英語を用いることで、実用的な英語力が身についたように感じた。

パブでオリジナルビールやディナーを満喫

今回、夕食は伝統的なブリティッシュパブを再現した「フォルスタッフパブ」でいただいた。ディナータイムにはシーズナルコースメニューやフィッシュ&チップスを、19時半以降のカクテルタイムにはスナックやビール、カクテルなどをキャッシュオンデリバリーで楽しめる。

フォルスタッフパブ

はじめに、予約している場合は「I have a reservation under the name of Tanaka for 6PM.(6時に予約している田中です)」などとスタッフに伝えるといいだろう。



着席したら「Can I have a beer, please?(ビールを1杯ください)」などのように好みのドリンクをオーダーしてみよう。同店ではオリジナルビールの「ブリティッシュヒルズ プライド ブロンドエール」や、創立30周年を記念した「イングリッシュエール」のほか、英国で定番の「ギネスビール」も味わえる。

ラムモモ肉のロースト

訪れた日のシーズナルディナーでは自家製スモークサーモンを使った前菜にはじまり、春ゴボウのクリームスープ、ラムモモ肉のロースト、パン、チェリーパイのアングレーズソースなどが振る舞われた。

ちなみにラムモモ肉のローストには皮付きのベイクドポテトが添えられていたのだが、皮がついたジャガイモがジャケットを着ているように見えることから、イギリスでは「Jacket Potato」と呼ぶことがあるそうだ。

猫足バスタブを完備したクラシカルな客室に宿泊

ターナー

この日は、中世英国の雰囲気を再現した一般棟に宿泊。宿泊棟は学生など団体客が利用しているというドミトリー棟が5つ、一般棟が3つあり、それぞれ英国偉人の名前がつけられている。今回私はターナーという一般棟に宿泊した。

ゲスト共用のラウンジ

各宿泊棟にはゲスト共用のラウンジが設けられており、コーヒーや紅茶を自由に味わえる。ターナーをはじめとする約35平方メートルのスタンダードツインルームは、ベッドエリアに書斎、テレビと椅子が設けられたリビングエリアに分かれている。



棚に収められたテレビは、電源を入れるとイギリスのBBC放送が流れるようになっており、さながら英国に滞在しているよう。

クラシックな猫足バスタブ

さらにバスルームは英国伝統様式で、クラシックな猫足バスタブもある。凝った装飾やタイル張りがなんとも愛らしい。

クラシカルな部屋で熟睡した翌日の朝食はビュッフェスタイルで、「レフェクトリー」にていただく。パンや卵料理、ソーセージ、ベーコン、ワッフル、パンケーキなど英国らしいメニューがそろう。もちろん、朝食の案内も英語で行われ、最後までどっぷり英国気分に浸かることがかなった。

日本にいながら英国さながらの体験ができるブリティッシュヒルズ。英語でのコミュニケーションが基本だが、日本人スタッフもいるため困ったときも安心。標高も高く冷涼な気候なので、夏の避暑地として、週末のプチトリップ先として、また短期留学先として重宝するだろう。

■Information

「ブリティッシュヒルズ」

【住所】福島県岩瀬郡天栄村大字田良尾字芝草1-8

【受付時間】9:30〜18:00(年中無休)

中森りほ 中森りほ グルメ系Webメディアの編集を経て2017年よりフリーライターに。毎月各地を訪れ、ホテルや飲食店を中心に取材、撮影、執筆。フードアナリストの資格も持つ。 仕事実績:https://nakamoririho.com/portfolio/ この著者の記事一覧はこちら