久保建英(22歳)がレアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)との契約を2年延長し、2029年6月末までに更新している。

「タケ(久保建英)はもうしばらくはチームに残るはずだ。クラブにとっても、彼にとっても、それがベストだから」

 昨年秋にサンセバスチャンで現地取材を行なった際、クラブ関係者たちはそう口をそろえていたし、レジェンドと言われるOBたちも同じ意見だった。

「ラ・レアルのプレースタイルとタケのプレーが合った」

 ラ・レアルのイマノル・アルグアシル監督もそう語っていたように、必然の契約更改と言えるだろう。

 今シーズン開幕以来、日本では絶えず「久保のビッグクラブ移籍」の噂が消えなかった。レアル・マドリードへの復帰説を筆頭に、バルセロナ、マンチェスター・シティ、マンチェスター・ユナイテッド、リバプール、ナポリなど"それっぽい"名前がいくつも移籍先候補に挙がっていた。「冬にも移籍か」というせっかちな話も出たほどだ。

 しかし、空騒ぎに過ぎない。冬の移籍マーケットで動く可能性などゼロだった。そもそも、冬の移籍は緊急案件のみ。シーズン中の移籍は活躍できる確率が低くなる。プレシーズンを過ごせないこともあるし、本来的にテコ入れが求められる不振のチームが動くもので、厳しい条件でのプレーになるからだ。

 チャンピオンズリーグ(CL)でグループリーグを勝ち上がっていた久保が、ラ・レアルを去る意味はなかった。

 もっとも、この契約更新で「ビッグクラブ移籍がなくなった」わけではない。その可能性は現状維持のままと言える。なぜなら、移籍違約金は6000万ユーロ(約95億円)のままで、ビッグクラブにとってはいつでも手が届く。つまり、ラ・レアルでのプレー結果次第では、ビッグクラブにジャンプアップすることになるのだ。

 では、久保はビッグクラブで通用するのか?


パリ・サンジェルマン戦にフル出場した久保建英(レアル・ソシエダ)photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 世界有数のアタッカー、キリアン・エムバペを筆頭にスーパースターを数多く擁するパリ・サンジェルマン(PSG)とのCLラウンド16のファーストレグは、ひとつの試金石になったと言えるかもしれない。

【PSG戦ではマークを外すミスもあったが...】

 敵地で2−0と敗れたPSG戦後、久保はよくも悪くも話題の中心になった。

「先制点は自分のせい」

 久保自身はひとつのプレーを自己批判した。後半、相手に与えたCKの際、SBのアマリ・トラオレがケガで一時的にピッチを出た間、久保はエムバペのマークにつくことになったのだが、味方がヘディングで競り勝ったと思ってセカンドボールへアクションを仕掛けたところ、ヘディングを流されて、結果的にマークを外したエムバペに先制ゴールを決められたのだ。

 確かに失点につながるミスだったが、現地ではほとんど批判を受けていない。なぜなら、久保はアタッカーとして確実にPSGを脅かしていたからだ。

 対面したブラジルU−20代表の左サイドバック、ルーカス・ベラルドをきりきり舞いさせた。自らから切り込んでの左足シュートも際どかった。縦の突破で抜き去って右足で折り返し、好機を演出。ダブルチームできたポルトガル代表ダニーロ・ペレイラのマークを外し、左足クロスをアンドレ・シルバの頭に合わせた。右で幅を取って敵を引きつけ、中に展開したボールをミケル・メリーノがミドルで狙う場面もあった。終了間際には、ポルトガル代表ヴィチーニャを股抜きするパスで完璧なお膳立てをしたが、ジョン・パチェコのシュートはバーの上を超えた。

「タケは、ベラルドを1対1で好きなように躍らせていた。ただ、そのアドバンテージのわりには(得点に)直結させられなかった」

 スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』の評価は公平なものだった。

「判断が悪く、ボールロストは24回と多かったし、パス成功率も64%と低い。しかし、(アンドレ・)シルバへのクロスはすばらしかったし、パチェコへのラストパスも同様で、脅威を与えていた。エムバペのゴールではマークを見失ってしまったし、(ダニーロに代わって)リュカ・エルナンデスが交代で出てからは抑えられた印象はある。ただ、カタールでのアジアカップから休まずにプレーしているわけで、仕方がない面はあるだろう。アンデル・バレネチェアの左サイドが機能していなかっただけに......」

【ビッグクラブでプレーする準備は整った】

 久保は、PSGを相手にしても優位に立っていた。今シーズン、対峙した多くのディフェンダーたちを血祭りにあげてきたが、今回もベラルド、ダニーロの先手を取っている。これまでレアル・マドリードのフラン・ガルシア(スペイン代表)、ベンフィカのダビド・ユラセク(チェコ代表))、インテルのフェデリコ・ディマルコ(イタリア代表)などを"ベンチ送り"にしており、「ビッグクラブでプレーする準備は整った」と太鼓判を押せるだろう。

 ただし、現時点ではラ・レアルで主力としてプレーし続けるほうがメリットは大きい。

 たとえばイタリア・セリエAのクラブではプレー強度が優先され、ボールプレーヤーとしての久保の持ち味は出にくいだろう。イタリア人監督が指揮をとるレアル・マドリードも、少なからずその傾向がある。イングランド・プレミアリーグもスピードを含めたフィジカルが求められ、監督次第では窮地に追い込まれる。

 そういう意味で、久保にとっての最適クラブはバルサなのだろう。幼少期にオートマチズムを身につけているし、今もそのプレーは「バルサ色」を濃厚に感じさせる。しかし、レアル・マドリードとの間に契約オプション(移籍金の50%をレアル・マドリードが取得)があるならネックになるし、そもそもバルサ自体がシャビ・エルナンデス監督の辞任が発表されるなど、今も混迷期から抜け出せておらず、移籍は現実的ではない。

 いずれにせよ、久保は正念場が続く。2月18日、23日には、ラ・リーガで古巣のマジョルカ戦、ビジャレアル戦を戦った後、27日にはスペイン国王杯準決勝セカンドレグ、マジョルカと戦う。スペインでの初の戴冠も見えてきた。とてもビッグクラブ移籍を云々している場合ではない。