習慣を身につけ、モチベーションを高くするにはどうすればいいのか。心理学者の内藤誼人さんは「自分の行動を記録につけるといい。その際、累積グラフにすれば右肩上がりになる。また、自宅玄関や社内のあちこちに置いておくとモチベーションが高まる小物もある」という――。

※本稿は、内藤誼人『科学的に「続ける」方法 「習慣化」できる人だけがうまくいく。』(総合法令出版)の一部を再編集したものです。

■自分の行動を記録につけてみる

自分の行動や努力の結果をきちんと記録として残しておくことは大切です。なぜなら、その記録を見れば、「ずいぶん、自分も頑張っているのだな」ということが実感でき、さらに頑張ろうというやる気が出るからです。

アメリカにあるハーバード大学のテレサ・アマビルは、作業員の日記を分析し、「毎日、ほんの少しでも進歩している」という気持ちが、人を意欲的にさせることを突き止めました。

自分の成果を目に見える形にしておくことは、習慣を身につけるときにものすごく役に立つ方法です。

ただし、記録をつけるときにはちょっとしたコツもあります。それは、累積のグラフをつけることです。累積のグラフというのは、前の記録に、新しい記録をどんどん積み重ねていくグラフのことです。累積のグラフは、横ばいということはあっても、下がることは絶対にありません。いつでも右肩上がりになっていくグラフなのです。

そして右肩上がりのグラフを見ていると、何となく自分も頑張っているように感じられますので、モチベーションを高めるのに都合がいいグラフなのです。

たとえば、営業の仕事をしていて、1週間のお客さまへの訪問回数の記録をつけたとしましょう。普通の人は、図表1のような感じで記録をつけるのではないかと思います。

出典=『科学的に「続ける」方法 「習慣化」できる人だけがうまくいく。』

正確な記録ではあるものの、やる気もあまり出ません。そこで、前日の数値に、次の日の数値をどんどん累積させていくデータにすると、図表2のようになります。

どうでしょうか。「いやあ、今週は頑張ったなあ」ということが実感できます。累積合計のグラフのほうが、見ていて楽しくなるはずです。ほんのちょっとしたコツですので、覚えておくと習慣を身につけたいときにとても役立つと思います。

■たくさん鏡を置いておく

自宅のあちこちに鏡を置いておくといいです。

なぜかというと、私たちは、鏡で自分の姿を見ると、自己意識が強化されるからです。オランダにあるラドバウド大学のアプ・ディクステルホイスは、多くのスポーツジムにおいて、鏡張りのところが多いのは、利用者が鏡で自分の姿を見ることで自己意識を強化し、「もっと頑張ろう」という気持ちを高める効果を狙っているからだと指摘しています。たとえ手を抜きたい気持ちになっても、鏡に映った自分の姿を見ると、「もう少しだけ、やってみるか」というモチベーションが高まるのです。

そういうわけで、新しい習慣を身につけようとするときには、ちょこちょこと鏡で自分の姿を見たほうがいいのです。「今日はちょっとサボっちゃおうかな」という気持ちになっても、鏡を見れば、何となくサボりにくい気持ちになります。自分が悪いことをしているような気分になってしまうのです。

デパートや高級店では、お店のあちこちに鏡が設置されています。どうして鏡を置いているのかというと、万引き防止のためです。自分の姿を鏡で見ていると、お客さまも万引きをしようという気持ちにならないのです。自己意識が強化され、悪いことを抑制できるのです。

普段、あまり自分の外見を気にしない人でも、トイレの洗面台で鏡に映った自分を見ると、髪型を直そうとしたり、ネクタイをきちんと締め直したりするのではないでしょうか。鏡を見ると、だれでも自然と「きちんとしなければ」という気持ちになるのです。

内藤誼人『科学的に「続ける」方法 「習慣化」できる人だけがうまくいく。』(総合法令出版)

私が会社の経営者なら、職場のいろいろなところに鏡を置いておくでしょう。そうすれば、社員たちは手を抜いたり、会社の備品を盗んだりしなくなると予想できるからです。

自宅の玄関のそばには、鏡を置いておきましょう。出かけるたびに、自分の姿を見て、「ようし、頑張るぞ」という気持ちになることができます。最近では、化粧をする男性も増えておりますが、それでも多くの男性は、コンパクトミラーを携帯することはないと思います。

ですが、鏡は自分のモチベーションを高めるのにとても効果的な小道具ですから、ぜひ利用してみてください。仕事用のカバンの中にコンパクトミラーをひとつ入れておくと、いつでも好きなときに自分の顔を見ることができますし、気分がだらけてしまいそうなときに利用することができます。

■身だしなみの習慣をつけるには

帝国ホテルの職場には、フロントの裏でも、レストランと調理場の入り口にも、鏡が置いてあるそうです(『帝国ホテルのおもてなしの心』)。ホテルマンは、必ず鏡で自分自身をチェックしてから、仕事に入るのです。

鏡で自分の姿を見ることはよいことです。髪型の乱れや服装の乱れをすぐに直すことができますし、背筋を伸ばして歩くこともできます。鏡を見ると、私たちは、まるでプロのパフォーマーが舞台に上がったときのように、「オンステージ」の状態になるのです。靴のかかとの部分を踏みつけたままの状態にしたり、だらだら歩こうとしたりすることもしなくなります。

上司が、社員の身だしなみについて口うるさく指導している会社があります。毎日のように身だしなみについて声を荒らげて指導をしているわけですが、私が経営者なら、職場に大きな鏡を設置するでしょう。なぜなら、職場に大きな鏡を置いておけば、社員は否応なく自分の姿をチェックするようになりますし、わざわざ上司が指導する必要もなくなるからです。

鏡を置いておけば、社員は勝手に服装チェックの習慣を身につけてくれます。

東京・四谷にある学習院の初等科は、校内に鏡がたくさんあることで有名です。だいたい小学生は、身だしなみなど気にせずだらしない恰好(かっこう)をしているものですが、学習院に通う子どもがきちんとしていられるのは、校内の鏡のおかげであろうと心理学的には分析できます。鏡があると、身だしなみもそうですが、心理的にもきちんとすることが知られています。

写真=時事通信フォト
愛子さまが学習院初等科を卒業し、天皇、皇后両陛下へのあいさつのため御所に向かわれる皇太子ご一家=2014年3月18日午後、皇居・半蔵門[代表撮影] - 写真=時事通信フォト

アメリカにあるモンタナ大学のアーサー・ビーマンは、ハロウィンのときに、キャンディの入ったボウルを置いておき、「一人一個まで」と書いておきました。なお、ボウルは2カ所に用意されていて、ひとつのボウルの後ろには大きな鏡を置いておき、自分の姿が映るようにしておきました。それから、お菓子をもらいにきた363名の子どもをこっそりと観察してみると、鏡の置かれたボウルのところでは、子どもたちも「一人一個まで」という指示にきちんとしたがったのに、鏡のないボウルのところでは、2つ、3つのお菓子をとっていってしまうことが判明したのです。鏡があると、心まできちんとするのです。

職場の社員の身だしなみ、あるいはエチケットやマナー意識を高めたいのであれば、鏡を設置してみましょう。そうすれば、上司がガミガミ指導をしなくても、社員自身で気をつけるようになります。

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内藤 誼人(ないとう・よしひと)
心理学者、立正大学客員教授、有限会社アンギルド代表取締役社長
慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ心理学系アクティビスト。趣味は釣りとガーデニング。著書に『いちいち気にしない心が手に入る本:何があっても「受け流せる」心理学』(三笠書房)、『「人たらし」のブラック心理術』(大和書房)、『世界最先端の研究が教える新事実心理学BEST100』(総合法令出版)、『気にしない習慣 よけいな気疲れが消えていく61のヒント』(明日香出版社)、『羨んだり、妬んだりしなくてよくなる アドラー心理の言葉』(ぱる出版)など多数。その数は250冊を超える。
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(心理学者、立正大学客員教授、有限会社アンギルド代表取締役社長 内藤 誼人)