今季最終戦後、家族とともに写真に収まる南雄太 photo by J.LEAGUE/J.LEAGUE via Getty Images

南雄太インタビュー(前編)

 南雄太(44歳)は今年10月に現役引退を発表した。柏レイソル、ロアッソ熊本、横浜FC、そして大宮アルディージャに在籍し、現役生活26年という長い舞台の幕を閉じた。Jリーグ通算665試合、ルヴァン杯や天皇杯などを含めると、723試合に出場。Jリーグの生き字引のようなGKと言えるだろう。

「ピッチに立って何ができるか? 自分に価値はあるか? クオリティはあるか?」

 それを自らに厳しく問いかけ、質朴に生きてきた。四半世紀にわたってJリーグのゴールマウスを守り続けたGKの回顧は貴重だ。

――もし18歳のプロデビューした自分とタイムマシンで会えたら、なんと声をかける?

 そんな問いに、彼はこう答えている。

「『早く気づけよ、調子づいている場合じゃないぞ』ですかね? でも、18歳の俺は生意気なので、『うぜーな、やってるよ』って思っています(笑)。やっているレベル低いんですけど」

 そんな南がJリーグで見てきた風景とは?
 
――Jリーグ史上最高のGKは?

この問いに、南はほとんど即答している。

「やっぱり楢(楢崎正剛)さんじゃないですかね。もちろん、(川口)能活さんも、すごいGKだったですが、自分には真似できない芸当というか、身体能力の高さが半端なかったので。"目指す"というところでは、楢さんのほうでした」

 南より三つ年上の楢崎は、2002年日韓W杯で守護神ぶりを発揮するなど、日本代表で10年以上も川口とレギュラーの座を争った。総合的な能力が高い正統派GKと言える。Jリーグでは24年間にわたってプレーし、6度のベストイレブンを受賞。2010年には名古屋グランパスを優勝に導き、GKとして唯一、Jリーグ最優秀選手も受賞している。

「今のような時代だったら、楢さんは海外でプレーしていたはずなので、どれだけできるのか、一番、見たかったですね。存在感というか、セービングで安心感を与えられました。名古屋では『エリア外からは打たせていい』と言っていたそうで、おかげでディフェンスはペナ(ルティエリア内)での守りに集中でき、へたにミドルに対して飛び込まなくてよかった。信頼関係を高め、守っていたんです」

【激変したGKを巡る環境】

 南自身、駆け引きに"勝ち筋"を見出したGKだった。圧倒的な高さやスピードがあるわけではなかったからこそ、味方と連係しながら、総合的に守る術を追求した。

「楢さんと代表でやって、"うめーや、絶対に(追い抜くのは)無理"と思ってしまったほどです」

 南はそう言って、少しだけ唇をかんだ。

「でも、今なら思うんです。"絶対なんて絶対にない"というのがサッカーの世界だって。たとえ実力があっても外されてしまう選手がいるし、そんな力があるように見えなかったのに、ひとつのきっかけで信じられないほど伸びる選手もいる。そのことに、もっと早く気づくことができていればな、とも思いますね」

 南は少年時代を含めたら30年以上、GKというポジションで生きてきた。その概念も変わったと言う。そもそも少年時代は「GKへのバックパスあり(味方のバックパスを手で処理してよかった)」の時代に育った。また、育成年代にはほとんどGK コーチがいなかったという。今は環境も変わって芝生のグラウンドが増え、ハーフの選手が増えて体格も大型化し、優秀なGKの裾野が広がっているという。

「これから、日本人GKのレベルはどんどん上がっていくはずですよ。"止める・蹴る"のレベルも上がりました。昔はプロになっても明らかに厳しいGKがいましたが、最近はそういうのはなくなりましたね」

 南はそう言って、ひとつの提言をした。

「Jリーグには、若い日本人GKで素質のある選手が多くいます。ただ、試合に出られないと難しい。クラブが外国人GKを獲得するのは悪いとは言わないですが、若い日本人GKにしっかりとチャンスが与えられる環境は作っていくべきだと思いますね。試合に出ることで、想像以上に伸びるGKもいるはずだから」

 そこに日本人GKとしての矜持と後輩GKへの慈愛が滲んだ。
 
 それでは、誰よりも多くのシュートを浴びてきた男は、アタッカーで誰が一番印象に残っているのか。

「すばらしいアタッカーはたくさんいましたよ。柏では(バルセロナで欧州王者に輝いたフリスト・)ストイチコフのシュートがすごかったです。対戦相手ではエメ(エメルソン/浦和、札幌、フラメンゴなど)とか、フッキ(川崎、札幌、東京V、ポルトなど)とか」

【GKが嫌がるところを知っている選手】

 南はそう言って続けた。

「シュートはいろいろタイプがあると思うんです。パワー系で射抜くようなシュート、タイミングをずらしたシュート......。自分の場合は、"GKが嫌がるところを知っている選手"が一番、嫌でしたね。GKなら"このタイミングは嫌"というのがわかり合えると思うんですが、そういうのを知ってか知らずか、自然にやってくる選手はがいて、ウザいですね」

 そして彼が名前を挙げたふたりの選手は、意外にもストライカーではなかった。

「宇佐美(貴史)選手はGKの嫌なタイミングを知っているな、と思いました。何回も対戦したわけではないですが、強く印象に残っています。彼はシュートの時、ボールを少しだけ軸足より後ろに置くんですよ。それによって、シュートのタイミングが一個分、早くなって、合わせづらいんです。本人が意識しているか、わからないですが、それを駆け引きに使われると難しい。フォロースルーが短い選手は、(ボールの軌道が)読めないので嫌ですね」

 なぜ、この選手のシュートは入って、この選手のシュートは止められるのか。一見、同じに見えるシュートにも、実は差があるのだ。

「一番に"嫌だな、ウザ"って思ったのは、俊さん(中村俊輔)ですね」

 南はその理由を説明した。

「敵でも思いましたが、味方になって、なんで嫌だったのか、わかりました。とにかくGKのタイミングをずらしてくる。GKを動かしてから逆サイドに打つとか、いつも考えてやっている。FKを例にするのが一番わかりやすい。普通は壁のほうにボールを落として決めるところを、俊さんは年間のなかで必ず"捨てるFK"がある。あえてGKが立っているほうに蹴るんです。

 それがスカウティングで情報が入るじゃないですか? そうなるとGKは動けない。"自分が立っているほうに打たれる"ってなると、身動きができないんです。GKは先読みの駆け引きで勝つのが大事ですが、そこで主導権を奪われる。それで壁の裏へボールを入れると、面白いように入る(笑)」
(つづく)

Profile
南雄太(みなみ・ゆうた)
みなみ・ゆうた/1979年9月30日生まれ。神奈川県出身。GKとして若くして頭角を現し、静岡学園高校卒業後、柏レイソル、ロアッソ熊本、横浜FC、大宮アルディージャでプレー。1997年、1999年と2度のワールドユースに出場。2023年10月、現役引退を発表。