コンパクトなPCとして使おうとすると失敗する? 「iPadだけ」で仕事を成功させるための発想転換と活用術

一般的に仕事で使うデバイスといえば、PCが挙げられる。しかし、できることならより軽量で機動性の高い「タブレット」をメインに使いたいと思っている人も多いはずだ。そんななか、テックジャーナリストの弓月ひろみさんは、ほとんどの仕事をiPadだけでこなしているという。なぜPCではなく、iPadを選ぶのか。“iPad達人”に、そのメリットと活用術について聞いてみた。

“iPadだけ”で仕事は完結できる!?

--まず率直にお聞きしたいのですが、PCを使わず、iPadだけで仕事することは可能なのでしょうか?

はい、可能です!……といいたいところなのですが、職種や仕事内容によっては難しいこともあります。

たとえば、Excelでマクロを多用する人は、iPadだけでは仕事できないでしょう。iPad版Excelは、残念ながらマクロ機能に現状対応していないんです。

あと、アプリを複数起ち上げて作業するような場合も、iPadはあまり向いていません。iPadには「マルチタスク機能」が備わっていて、アプリをいくつか並べて作業することはできます。でも、もともとiPadはシングルタスク向けに設計されているデバイスだと、私は考えています。

逆にいえば、それ以外の仕事なら、ほぼiPadで完結できるのではないでしょうか。職種でいえば営業職や企画職、または経営層など、コミュニケーションや意思決定が主なタスクになる人たちは、iPadだけで十分仕事できると思います。

--PCにはない、iPadならではのメリットとは何でしょう?

まずは、Apple Pencilが使えることですね。それから、SIMを入れてモバイル通信ができること。あとは持ち運びやすく、取り出しやすいこと。これらはPCにはない、iPadならではの強みです。

--たしかに機動性の高さは、タブレットならではの魅力です。

ノートPCの場合、使おうと思ったら、鞄から取り出して、開いてログインして、外出時であればテザリングでネットに接続して、マウスやトラックパッドを操作して、ソフトを起動して……と、作業を開始するまでに手間と時間がかかります。

でもiPadなら、ロック解除して使いたいアプリをタップすればいいだけ。圧倒的にスピーディに作業に入れます。

あと、iPadはコンパクトなので取り回しに優れています。たとえば、打ち合わせの席でちょっとした提案をするような場合、さっと取り出してクラウドから資料をダウンロードして見せられるのは、タブレットならではのアドバンテージでしょう。

弓月さんが使用している11インチiPad Pro(第3世代)

--PCで同じことをやろうとすると、もたつきますし、場所も取るので大げさになってしまいますよね。

先ほどマクロやマルチタスクを例に挙げましたが、もちろんPCのほうが優れていることもあります。負荷のかかる作業はPCのほうが向いていることも多いですし、ファイルを管理するにも、やっぱりPCのほうがやりやすい。

そもそも、iPadとPCは設計思想が異なるデバイスなんです。iPadはどちらかといえばiPhoneに近いデバイスなので、普段iPhoneでも行えるような作業がメインの人は、iPadで仕事が完結できる可能性が高いです。

日常のほとんどの作業をiPadだけでこなしているテックジャーナリスト・弓月ひろみさん

「iPad=コンパクトなPC」ではない!

--キーボードを接続できるからといって、iPadとPCが同じになるわけではないということですね。

iPadは“コンパクトなPC”ではありません。iPadを仕事に活用する場合に、PCと同じように使おうとすると、大抵の場合使いづらくて失敗すると思います。そういう人は、やっぱりPCが必要なんです。

ただ、iPadで文章を書くこともあると思うので、外付けキーボードは持っておくと便利ですよ。私は、Apple純正の「Magic Keyboard」を愛用しています。

Apple純正の「Magic Keyboard」

--ちなみに、キーボード以外に持っておくと便利なiPad周辺機器はありますか。

iPadを仕事に使うなら、保護ケースはつけたほうがいいかもしれませんね。私が使っているのは「PITAKA」というブランドのケースです。このケースはマグネットがついているので、装着したまま「Magic Keyboard」などを使うことができます。また、Apple Pencilを充電したり、本体を充電したりも可能です。

また、オンライン会議などをする場合、iPadは角度調整が難しいのでどうしても下から顔が映ってしまいがちです。そこでiPadの角度調整をするために、私は「MOFT」のタブレットスタンドを使っています。普段は折り畳めるので、邪魔にならず便利です。

マグネットを搭載したPITAKAのiPadケース「MagEZ Case Pro」

あと外で使うことが多いなら、反射を抑えられるアンチグレアフィルムを貼ってもいいかもしれません。iPadの画面がさらっとした手触りになるので、そのほうが好きという人もいると思います。

--そう考えると、iPadだからといって劇的に軽量化されるわけでもないんですね。

私のiPadなんて、たぶん普通のノートPCよりも全然重いですよ(笑)。もちろん周辺機器に関してはすべて用意しなくてもいいので、使い方次第では、軽量・コンパクトに運用できますが。

--Apple Pencilは、やはりマストで持っておいたほうがいいですか?

Apple PencilはiPadを使う理由のひとつなので、私としては、一緒に使うことをおすすめします。企画書にラフなイラストを添えたり、写真に注釈を書き込んだりと、持っておくとさまざまな用途で便利に使えますよ。

世界最薄クラスのモバイルスタンドとして人気の「MOFT」のスタンド

「マルチタスクに向いていない」=「目の前の作業に集中できる」

--弓月さんは実際にiPadをどのようなシーンで活用されているのでしょうか。

まず、簡単な動画編集です。これは、今年6月にiPad版「Final Cut Pro」が使えるようになったのが大きいですね。長尺の動画だったり、テロップをしっかり入力する必要がある場合はPCのほうが編集しやすいですが、ある程度のものならiPadだけで制作できます。

ほかには、イベント制作の仕事でもiPadを多用しています。たとえば会場を下見に行ったときは、まずiPadのカメラで会場の写真を撮り、それをノートアプリ「Goodnotes 6」に読み込んで、Apple Pencilで写真にメモを書き込んでいきます。

弓月さんの愛用するデジタルノートアプリ「Goodnotes 6」

--同じことをPCでやろうとすると、なかなか大変ですよね。iPadなら、現場で立ったままでも作業できそうです。

はい。それにiPadなら、メモやラフを共有するのも簡単です。

たとえば、デザインのラフをスタッフに共有する場合、以前なら紙に書いてデスクに置き、メンバーで覗き込みながら、話し合うことができました。でも、PCだとそれが難しい。メールにデータを添付してメンバーに送って、それぞれのPCで開いて……と、コミュニケーションを取りながら仕事を進めるのに、ちょっとハードルが高いんです。

昔のように紙を全員で囲むような打ち合わせがデジタルでもできたらなと思っていたので、iPadが出てきたときは「これだ!」と確信して、初期の頃から仕事に取り入れていました。

iPadなら、さっと画面を相手に見せて、その場でアイデアを共有することが可能

--アイデアをまとめるために、弓月さんはどんなアプリを使っているんですか?

私が愛用しているのは「IdeaGrid for iPad」です。テキストや画像、手書きのイラストなどさまざまな形式で自由にアイデアを書き込んだメモを、ホワイトボードのようなスペースに付箋のように配置していく、というアプリです。

似たアイデアのメモを重ねて階層化したり、メモの大きさを変えて重要度を表現したり、メモを並べて一覧することで新たな気づきを得られたりと、アイデアをまとめるのにとても優れていますよ。

アイデアをビジュアライズして整理整頓できるメモアプリ「IdeaGrid for iPad」

--弓月さんが、iPadを仕事道具に選ぶ理由は何なのでしょうか?

いろいろありますが、ひとつは「スピード感」だと思います。アイデアを思いついたときにすぐ作業できて、それを素早く相手と共有できるのは、PCでは実現できないiPadのアドバンテージです。

あと「マルチタスクに向いていない」ということは、逆にいえば「1つのタスクに集中できる」ということです。企画立案、イラスト制作、動画編集……何でもそうですが、目の前のタスクにじっくり向き合ってクリエイティビティをカタチにしていくには、iPadが最適なデバイスだと思います。

取材・文/山田井ユウキ