妻が夫に不信感を持った理由とは?(漫画:umitabe)

結婚生活を続けるうちについ不満がたまります。そんなときにどうすべきなのか。長年夫婦で「夫婦のカウンセリング」を行い、2000組を超える夫婦の話を聞いてきた夫婦カウンセラーの安東秀海氏が、代表的なカウンセリング事例から、解決策を紹介します。今回は妻が夫に不信感を持ったケースです。

※本稿は『夫は、妻は、わかってない。 夫婦リカバリーの作法』から一部抜粋・再構成したものです。

ローン会社からやってきた郵便

●相談内容
夫には、結婚前からの親の借金があることが発覚。それを後から知らされたことで、夫に不信感を抱く妻。それからは、なんとなくモヤモヤした不安な気持ちになり、夫を全般的に信じられなくなってしまった。第三者を踏まえて話をしたほうがいいと考え、ご夫婦でカウンセリングにいらした。

・相談者
阿部一真さん・由佳さん(仮名)ご夫婦
夫は29歳で高校の教師。妻は26歳で塾の講師。
1歳の息子がいる3人家族。夫婦関係は良好。



(漫画:umitabe)

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安東:ご主人が借金をされていたということですが、その内容と発覚した経緯を詳しくお聞きできますか?

阿部由佳さん(以下、敬称略):夫に結婚前からずっと支払いをしているカードローンの借金があったんです。お義父さんのギャンブルの借金を肩代わりしたものなので、彼の問題じゃないのはわかっていますが、金額は、私たちにとっては少なくはない額です。

安東:発覚したのは何がきっかけだったんですか?

阿部一真さん(以下、敬称略):たまたま引き落としに使っていた口座に残高が足りなかったようで……。

由佳:ビックリしました。ローン会社から郵便がくるなんて……。

一真:結婚前からずっと払っているものだから、わざわざ言う必要はないって思っていて……。黙っていたのを怒っているんだと思うんですけど別に隠していたわけじゃないし、なんでそんなに怒るのかなって正直思っています。

由佳:そう、ずっとこんな感じなんです! わざわざ言う必要ないってそれおかしくないですか? こっちが気づかなかったら、ずっと黙っていたんだろうなと思うと、なんだかイラッとしちゃって。モヤモヤがずっと消えないんです。

一真:借金だけじゃなくて、浮気とかしているんじゃないかって言うんですよ。それって飛躍していませんか? こちらは聞かれたから正直に答えただけなのに。なんか疑われているみたいで僕もイラッとしちゃいますよね。

妻「漠然とした不安な気持ちを理解してもらえない」

由佳:ここに来る前にも話し合ったんですけど、私はこの漠然とした不安な気持ちを理解してもらえないし、日に日に不安が大きくなる一方なんです。それは彼も同じなのかもしれません。そもそも親の借金を子どもが肩代わりしなきゃいけないのもおかしいなと思うんです。

一真:息子としての責任があるから肩代わりしただけだって。それってそんなにおかしいですか? しかも結婚前のことなんですよ。こんなに怒る妻のほうがおかしいと思いますね。

安東:なるほど。客観的に見て、親の負債を子どもが返済するというのはそこまで不自然ではないのかもしれません。でもそれを夫婦間で共有していなかった、というのは2人の関係性としてはよくなかったのかも。一真さんはどうして由佳さんに言わなかったんでしょうね?

一真:言う必要がないと思っていましたから。

安東:なぜ言う必要がないと思ったんでしょうか?

一真:僕の責任ですから。

由佳:そう、いつもこうなんです。「俺の責任だ、俺が決めたことだ」って。確かに結婚前のことだから、肩代わりしたことに文句を言っているわけではないんです。それを言ってくれなかったことにイラッとしているんです。

安東:そうですよね。一真さんは確かに、ご自身の責任でお父さんを助けたんですよね。それはなかなかできないことだし、すごいことだなと思います。でも、由佳さんからすると「どうして『自分の責任』だって1人で背負っちゃうの?」と感じているのかな?と思います。

由佳:そう、それなんです!

一真:でもね、こんなの妻に背負わせたくないじゃないですか。僕と親父の問題だし、夫婦間の問題じゃないから。だからわざわざ言わないし、できれば言いたくなかったですよ。

由佳:え、そんなふうに思っていたの? 子どもが生まれるってなったときに、「これからは、お財布は1つにして一緒に頑張ろうね」って言ったじゃない。だから私が聞かないと教えてくれないなんて、何かやましいことでもあるんじゃないかって思ったんだよ。

妻に負担をかけたくなかった夫

安東:ご主人が奥様に借金のことを言わなかったのは、由佳さんに負担をかけたくなかったということなんですよね。きっとここでの負担は、経済的な負担というより、精神的な負担ではないでしょうか。

一真:はい、そうかもしれません。

由佳:なるほど。そうだったんですね、少し納得できました。

安東:ここまでお話を伺ってきて気になっているんですが、一真さんはやや責任感を持ちすぎるというか、1人で背負いすぎる傾向があるのかなと思います。それはもちろん悪いことではありませんが、行きすぎると由佳さんが孤独になってしまわないか心配になります。

由佳:実際、今回のことでずっとモヤモヤしていたんですが、今お話を聞いてわかりました。私、ずっとなんか寂しいなって感じていたんだと思います。

一真:え、どうして僕が借金のことを言わなかったからって君が寂しくなるの?

由佳:だって、夫婦なんだよ。あなたの借金は私にだって関わってくるし、結果的に子どもにだって迷惑がかかっちゃうことだってあるかもしれない。

一真:でも、もう残りわずかだし、実際に家計には影響しないようにしているでしょ?

由佳:「財布を1つにして頑張ろうね」って話し合っているんだから、家計に影響しないっていうのはそもそも変じゃない?

安東:はい、ちょっとひと息入れますね。子どもにだって迷惑がかかるというのはちょっと感情的な反応かなと思いますが、由佳さんの「寂しい」という気持ちはよくわかります。

それはきっと「あなたは私を人生のパートナーだと思ってくれていないんじゃない」という寂しさなんじゃないでしょうか。

由佳:……なんか、泣きそうです。

一真:……。

お財布を1つにした意味

安東:お財布を1つにしようというのは、実はご夫婦にとってはとても大切な取り組みだと思うんです。それは、これまで別々に生きてきた2人が、これから一緒に人生を歩んでいくことを決めたからこその取り組みだからです。

由佳:はい、私はそんな気持ちでした。

安東:それは単にそれぞれの銀行口座を1つにまとめて管理するという事務的な話だけではなく、お互いを人生のパートナーとして認めるという意味もあったんだと思うんです。それなのに、あまりオープンじゃない部分があったから、寂しく感じたのかもしれませんね。

一真:そうだったの? 全然、そんなふうに考えたことなかった。

由佳:言ったじゃない、これからは子どものために一緒に頑張ろうね!って。

一真:いや、それじゃわからないよ。

安東:そうですね。それだけだと確かにちょっとわからないかもしれませんね。でも、今なら理解できますよね?

一真:はい、それはよくわかりました。

お金の話を夫婦間ですることが苦手な男性は多い

安東:じゃあ次は、一真さんは由佳さんに甘える練習が必要ですね。

一真:甘える、ですか?

安東:はい、お父さんの借金を由佳さんにも負担してもらうんです。実際、家計が1つということはそうなっているんだと思いますが、ここは儀式的にでもいいので、言葉にして、由佳さんにお願いしましょう。

一真:今、ですか?

安東:はい、今です。言えますか?

一真:え……ちょっと嫌だなぁ。

由佳:なんで嫌なのよ。

安東:男性はですね、そもそもお金の話を夫婦間ですることが、苦手な人が多いんです。それは、お金というのは「力とか権力」を象徴するところがあって、お金のことで妻にお願いをするというのは、心理的には自分の弱さを突きつけられているようで抵抗感があるのかもしれません。

一真:確かに、それちょっとわかる気がします。そもそも親父が借金しているのも結構格好悪いというか。それもあって言えなかったのかもしれません。

安東:はい、じゃあお願いしてみましょうか。

一真:わかりました。

由佳:えー、なんか私が緊張しちゃう。

一真:由佳さん、親父の肩代わりした借金、家計から出させてください。お願いします。

由佳:はい、わかりました、大丈夫。

「夫婦なんだから」の言葉に込められた思い

安東:言ってみてどんな感じがしますか?

一真:あれ、言えた、って感じですかね。言ったらなんか少し楽になりました。

由佳:私は、主人が難しそうな顔をしているのがおかしくて。申し訳なさそうにしているなと感じたんですけど、夫婦なんだからそんなふうに思わなくていいからと言いたいですね。


一真:そっか、「夫婦なんだから」って妻がよく言うんですけど、そんな感じなんだ。

今までは夫婦だからってなんか堅苦しいなと思っていたんですが、今日のはなんか気分が軽くなった気がしました。

安東:そうですね、夫婦だから、夫だから、妻だから、って言葉を使われると、どこか相手の価値観に縛りつけられてしまうようで抵抗感を覚えることもあると思いますが、今の由佳さんの「夫婦なんだから」にはよいものもそうでないものも、分かち合っていこうねという気持ちが含まれていたように思いますね。

一真:なるほど。僕はどこかで夫婦だからってあんまり頼ったりしたらいけないと思っていたのかもしれません。でも、それが妻を寂しく感じさせていたんだったら、悪かったなと思いました。

由佳:私もすっきりしました。よかったです。

(安東 秀海 : 夫婦カウンセラー)