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自分がやってきたことが、自分に幸せを運んでくる!

涙、涙、涙のお別れ公演となりました。神戸ワールド記念ホールで行なわれたファンタジー・オン・アイス2023の神戸公演最終日に行ってまいりました。何もなくてもツアーの千秋楽ということで寂しさ募る日になるはずが、この日はプロスケーター引退を表明しているジョニー・ウィアーさんとのお別れ公演となったことで、例年以上に寂しさ募り、涙あふれるメモリアルな日となりました。

↓やってきました神戸ワールド記念ホール!


↓現地は多くのお仲間で人・人・人です!


↓輝く照明と美しいリンクと満場の大観衆!


リセールからの逆転チケット購入を果たしたことで、この日は普段の入場優先の天井席ではなく比較的前方のいい位置取り。ショートサイドに向けた演技や、放送席の模様などがとてもよく見えます。スケーターたちが近くに来れば、表情までハッキリと見えるほど。ジョニーさんとのお別れ、ツアーの名残惜しさ、しっかり目に焼きつけて帰る所存です。

迎えたオープニング。おなじみの曲で登場するスケーターたちの呼び込みを見守っていると、早速この日の「主役」がやってきました。お別れ公演となるジョニー・ウィアーさんが登場すると、ステージ側の観客から順に、波紋が広がるように歓声が上がります。スケーターたちが作る花道を、しなやかに身を躍らせながら通過してきたジョニーさんは、観衆に大きく手を振ると、ダブルアクセルを決めます。笑顔でお別れ…というわけにはきっといかないだろうなぁと思いつつも、まずは笑顔での登場に頬が緩みます。

世界のスケーターたちが呼び込まれ、それぞれに得意技を披露して舞台を温めていくと、満を持して座長・羽生結弦氏がやってきました。羽生氏は4回転トゥループ&キックを華麗に決めると、まるで戦いの前のような気合で群舞をリードし、観衆を煽っていきます。今日を素晴らしい日にする、そんな強い気持ちを感じさせるような幕開けでした。

そしてオープニングコラボ、ディーン・フジオカさんとの「History Maker」へ。冒頭パートを担当した羽生氏は演目途中でソデに下がっていくのですが、僕の位置からは自分のパートに滑り出していくジョニーさんと力強く、握手あるいはタッチを交わした様子が見えました。録画したテレビ映像では映っていませんでしたが、きっと誰か映像が写真におさめているだろうと思いますので、早く世に出てほしいなと思う場面でした。

羽生氏の想いを受け取って滑り出したジョニーさんは、リンクに寝そべるように身体をのけ反らして滑る得意の動きや、羽生氏も憧れたというスピンなど「選手ジョニー・ウィアー」の歴史をリンクに刻みつけます。コラボレーションをしているディーン・フジオカさんからは「We Love you,Johnny」から始まる英語のメッセージで「あなたはHistory Makerだ」という言葉が寄せられました。「(観衆のみんな)そうだろ!?」の呼び掛けに大きなアクションで応える大観衆。あぁ、何て素敵なコラボだろう…と思います。観衆の心を英語で代弁してくれたディーンさんがいてくれて、とても嬉しく思いました。We Love you、その気持ち、その言葉、耳に残ってくれたら嬉しいなと思います。

そこからの第1部、僕はリンクの上の軌跡をずっと見ていました。「History Maker」でジョニーさんがズザーしたときに残った手の跡です。右手側の軌跡が少し大きい2筋の線は、ほかのスケーターがその上を滑っても、いくつもの演技が行なわれたあとでも、ずっとそこに残っていました。もちろん常に見えているようなものではないのですが、暗闇のなか強い光が当たると確かにそこにはジョニーの痕跡が見えるのです。ほんの一瞬、撫でるように滑っていっただけなのに。

人間の営みのようだなと思いました。過ぎ去ったものは消えてしまったような気がするけれど、そこには確かに痕跡が残っているのだと思いました。見えないのではなく、強い光が当たるまで気づかないだけであり、僕たちはいつも誰かの痕跡の上に自分の痕跡を重ねて生きているのだと。それが爪痕と呼ばれるような深く抉る軌跡でなかったとしても、時によってそれが消えるわけではないし、光を当てて目を凝らせば確かにそこに見えるのだと。しみじみとそんなことを思います。

やがて第1部の中盤、ジョニーさんの演技がやってきます(※素敵な演技がつづくのですが、すべてに触れると到底まとまらないので、今回はジョニーさんとのお別れにフォーカスします)。第1部で演じたのはおなじみの「Creep」ですが、登場してきたときにハッとします。いつもなら、煌びやかなロングドレスで演じるところを、まるで練習着のようなタイツとタンクトップ姿で、メイクもなく、ヘアセットもなく演じています。

衣装やメイクには誰よりもこだわるのが「ジョニー・ウィアーらしさ」であるはずの人が、あえて素のままの自分で「Creep」を演じている。この楽曲は自分を卑下する主人公が、去っていった想い人を思いながら、自分はここにいてはいけないんだと自分を憐れむような楽曲ですが、そんな世界を人間であるジョニー・ウィアーからスケーターであるジョニー・ウィアーへと捧げているかのように見えました。リンクを去っていく美しくて完璧なジョニー・ウィアーへ向けて、自ら別れを告げるかのような、そんな姿でした。

リンクの上で涙するジョニーさんと、歓声ともらい泣きが入り混じる場内。場内アナウンスをするナレーションの方は、演技後の紹介として名前を呼ぶアナウンスを「ジョニー・ウィァ…」と言葉を詰まらせました。そして、両目を拭っていました。隣に座ってキューを出すスタッフの方が涙を拭くためのティッシュを渡すのですが、渡したその人もまた泣いていました。誰も彼もが泣いていました。僕はジョニーさんが少しでも長くリンクに留まってくれるよう祈っていました。すぐに立ち去られたら、誰も彼もが、涙で進行できないから…。

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たくさんの素敵な演技、アーティストとのコラボ、そのMCで並ぶ「終わってほしくない」という言葉たち。演目が進めばそれだけ終わりが近づいてくるという寂しさも大きくなります。素敵な演目は、終わりへのカウントダウンです。嬉しくもあり、寂しくもある。だから、MCでは「終わってほしくない」のあとに「最後まで楽しもう」の言葉を異口同音につづけるのでしょう。終わりを悲しむよりも、今を全力で楽しもう、と。これもまた人生と同じだなと思います。時は永遠ではなく、いつか終わりが来るもの。だから、今の1秒を大事にして、楽しまないといけない、そう思います。

第2部でジョニーさんが演じた、個人としては最後となる演技「月の光」も、まさに「終わってほしくない」のあとにつづく「最後まで楽しもう」の言葉のような演技でした。最後に、最後まで、この唯一無二の世界を。美しくて完璧なスケーターの姿を。今日初めて見る人がいたとしても、その人にも届くように、残された時間を使ってジョニーさんは「ジョニー・ウィアー」を表現します。この衣装、このメイク、この演目、この演技、ほかの誰が同じことをできるだろうかと思います。奇抜になるわけでもコミカルになるわけでもなく、「ジョニーだな」と思う。そんな世界を作ったことは、その痕跡は、たとえリンクを去ったとしても消えてなくなるわけではない。

一度整氷で真っさらになったリンクに、再びジョニーさんが刻みつけた両の手での痕跡は、新しい道のように真っ直ぐに伸びていました。ツアーの仲間たちが掲げる「THANK YOU JHONNY WE LOVE U」のバナーに見送られながらリンクを降りたジョニーさんですが、これはまた新しい始まりなのだろうと思います。スケーターではなくなったとしても、「ジョニーだな」と思う機会がまったくなくなるということもなかろうと思います。現役選手でなくなったとしても、プロスケーターでなくなったとしても、「ジョニーだな」と思う何かが始まるのなら、何も終わっていないのと同じではないか?と思います。そんな未来があるように祈って、プロスケーターとしての最後の演技、懐深くおさめておこうと思います。ありがとう、お疲れ様、いつかまたどこかの何かで。



やがて公演は最後の演目へ。大トリをつとめるのは座長・羽生結弦氏です。演じるのは中島美嘉さんとのコラボ演目「GLAMOROUS SKY」。羽生氏は映画「NANA」のナナを思わせるような、帽子と赤い上着をまとってリンクに現れました。メイクをしていないようであるのに、帽子をかぶると唇が赤く色づくのは錯覚なのか魔法なのか。熱狂する観衆と、一転して静寂のなかで響くリンクを叩くエッジの音。それはドラムのスティックが打ち鳴らされるような、「始まる」という痺れが背筋を走る音です。

激しい滑りのなかに組み込まれた7本ものジャンプ。それは楽曲のなかで歌われる「失意のなかで繰り返す日々との戦い」、その象徴だったでしょうか。ともに夢を追った愛する人を失って、ひとり夢だけを手元に抱え、暗い空を見上げる。愛と夢とを同時に手にすることはできなかったこの楽曲の主人公は、こんな日々に何の意味があるのかと自問しながら戦っています。まぶしい思い出のフラッシュバックに身悶え、朝日輝くあの朝に戻りたいと嘆きながら、鉛のように暗く深い空のなかに夢という「光」を探すのです。時折走る稲妻や、時折降る雪花の輝きは、暗い雲の下にも届くわずかな光です。そのわずかな光を追って、懸命にこの失意に抗っているのです。決して覆ることはない、確定した失意に。

虹は雨のあとにしかかからない。星も月も夜にしか輝かない。この主人公には太陽はもう訪れないことを、誰よりも主人公はわかっています。もう、愛と夢とが同時に叶うことはないのです。だから、失意の先にある光しか探せないし、それしかもう見つからないと虹や星を探し、月に祈るのです。かつて見た光あふれるGLAMOROUS SKYはもうどこにも存在しないけれど、それでも、決してGLAMOROUSではない暗い空に、光を探さずにはいられないのです。この闇雲を破って虹をかけることはできなくても、この闇雲を破って星を集めることはできなくても、せめてこの闇雲を破った月が君の未来を照らすようにと、切なる祈りを抱えて。君がいなくても、私は夢を叶えて、君を照らすよ…と。

歌の主人公がロックで戦うように、羽生氏はこの楽曲に心を重ねてスケートで戦っているのでしょう。跳ね上げて、息上がるまで。跳ね上げて、息上がるほどにガムシャラになることでしか、振り払えない失意に抗って。たとえば、今日訪れる誰かとの別れ、その悲しみとか…。演技の終わり、天に向かって何かを叫ぶようにして、最後はリンクに倒れ込むほどに演じ抜いた羽生氏。「最後の一滴まで」という言葉通りに、出し尽くす演技でした。この楽曲と、この別れとが重なったのは半ば偶然でしょうが、出来過ぎた偶然だったと思います。二人で歩くことはもうなくなり、一人でグロリアスデイズを歩んで行く人に、この楽曲が巡ってきたことは本当に、出来過ぎた偶然だったなと…。

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そして迎えたフィナーレ。中島美嘉さんの「STARS」を演じるなかで、羽生氏はジョニーさんとガッチリと抱き合います。もしかしたら振り付けとしては手を添えるくらいだったのかもしれませんが、羽生氏がジョニーを抱き締めずにはいられなかったようでした。惜しんでも惜しんでも尽きない名残で、観衆への挨拶の周回の間も羽生氏はうなだれ気味です。見送られるジョニーさんは笑いながら泣いています。

長年、このショーの柱としてともに牽引してきたステファン・ランビエールさんがジョニーさんを誘ってリフトなどしている間に、一瞬裏に消えた羽生氏はTシャツ姿になっていました。ジョニーさんを誘うと、ふたりでズザーの痕跡をリンクに残します。起き上がれない羽生氏を引き起こすジョニーさんと、その後のジョニーさんの挨拶を聞きながらうなだれて涙している羽生氏。ここまで惜しんでくれる人がいるというのは、送られる側としても幸せな気持ちになるのではないでしょうか。寂しいけれど、素敵な光景でした。

さぁ、ここからはみんなからの贈り物の時間です。まず場内アナウンスの声に導かれて、観衆からジョニーさんへ「光」がプレゼントされます。スマホのライトをつけて、満天の星のように輝くスタンドは、本当にキレイでした。自分もその光のひとつになれてとても嬉しい気持ちになりました。つづいて羽生氏が運んできた白いバラの大きな花束。さらに共演したスケーターたちからの熱い抱擁。次から次に温かい贈り物が届きます。

そして極めつけは、羽生氏からの「ジョニーのOtonal」。羽生氏自身も自分のプログラムとして演じた楽曲ですが、ジョニーさんの演じたバージョンを忠実に再現することで、羽生氏からの贈り物としたのです。Otonalの決めポーズから始まるステップシークエンスは、かつてジョニーさんが演じたときより「たくさんまわしております」といった感触もありますが、確かに「ジョニーのOtonal」でした。自分の得意としたスピンの形を若きレジェンドが再現する様に、「こんなことがあるのか」とでもいう様子でジョニーさんは少し首を振っていました。信じられないほどの幸福感が伝わってきました。

リンクの壁面に「Thank you Jhonny Weir」の文字が描かれるなか、最後のお別れの周回へ。ジョニーさんはスタンドから花の冠をもらい、ジョニーみあふれる花いっぱいの姿です。リンク中央で挨拶をしたジョニーさんが、ステージ付近に集うスケーターたちのもとに戻るとそこには名残の門番(羽生氏)が立ちはだかっていました。誰よりも名残を惜しむ門番はジョニーさんを「もう一回」とリンクに押し戻します。ひとしきり挨拶などして今度こそと戻ってきたジョニーさんですが、再び名残の門番(羽生氏)が「記念写真です」とジョニーさんをリンクに押し戻します。

ほとんどのスケーターが裏に退くなか、ついに退場口まで下がった名残の門番(羽生氏)ですが、ここで最後に引きあげてきたジョニーさんをキャッチしてもう一度押し戻すと、最後の最後の名残として二人での「アリガトー」のご挨拶でこの公演を締めました。尽きない名残を惜しんで、惜しんで、惜しみ抜きました。こんなにも惜しんでもらえる引退なんて、世界にいくつあるでしょう。名残のクワドラプルアンコールとか初めて見たかもしれません。それだけの想いがあったこと、ジョニーさんにとっても嬉しい出来事だったのではないかと思います。

↓素晴らしい公演、その一部になれたこと嬉しく思います!
何を言ったか、ではなく、何をやったか。そんなことを思うお別れの時間でした。言葉よりも行動で伝わる、そんな想いがありました。羽生氏が演じたOtonalは、どんな言葉で語るよりも愛と敬意と名残惜しさが伝わるものだったでしょう。羽生氏自身のOtonalはプログラムとしては光を浴びる機会の少ない、苦しいシーズンを過ごした作品です。「GIFT」のなかでも苦しい時期を象徴するように起用されていました。

それでもOtonalがあったことで、Otonalで競技会を戦ったことで、本心からの想いが伝わったでしょうし、この日演じた「ジョニーのOtonal」が特別な贈り物であることも鮮やかになりました。憧れと、敬意と、継承とが確かにある。それはジョニーさんにとっても嬉しいことだっただろうと思います。自分が演じたものや、自分が美しいと信じたものは、確かにこの世界を変え、誰かに影響を与えていたのだと強く感じられたでしょうから。

選手としてのジョニーさんは五輪の金メダルのような鮮やかな光を手にするには至りませんでしたが、リンクに残した痕跡は鎖のように伸びて、自分にしか描けない世界を作り、やがて巨大な光にまでつながりました。その光は振り返ってジョニーさんを照らしていました。たくさんの人に笑顔と涙と光で見送られる経験は誰もができるものではありませんが、自分の成してきたことが幸せを自分に運んできた、そんな出来事のように思います。「報われる」ような気持ちになってくれていたらいいな、と思います。何だか自分も頑張らないとなと、元気をもらうようなお別れでした。今を頑張ることが、今でなくても、いつか幸せを運んでくるかもしれない…そんな気がして。寂しくて涙あふれるのに、元気も勇気もちゃんとある、そんな公演だったと思います!

↓現地の雰囲気などは動画でまとめておりますのでご覧ください!


とまぁ、こんな感じで涙腺崩壊の公演となったわけですが、「推しの引退つれぇわ…」という気持ちで共感される皆様におかれましては、「推しの引退は2年くらいかけてジワジワやってほしい…」「そして次の未来をセットで提示してほしい…」「伝わる人にだけ伝われ!みたいな謎掛けシステムはナシでお願いしたい…」という僕の希望にもご賛同いただけるのではないかと思います。尽きない名残を惜しむには、いくら時間があっても足りないくらいですからね。推しへの名残は最低2年、それぐらいかかるのが普通だと思いますので!


来年もこのツアーでお会いできるように祈っております!お疲れ様でした!