映画の声優陣とマリオの生みの親である宮本茂氏(右端)(写真:Kayla Oaddams/Getty Images)

今月28日に日本公開を控える『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』。先行公開されている海外での勢いが止まらない。

公開初週末にはあらゆる新記録を打ち立てたが、2度目の週末も絶好調。北米成績は8700万ドルと、『アナと雪の女王2』(8590万ドル)を抜いて、アニメーション映画の2週目の成績としては北米で史上最高記録を達成した。製作のイルミネーション・エンターテインメントの歴史においても、これは記録だ。

世界興収はすでに7億ドルを超え、今のところ2023年公開作の最高ヒット作となっている。公開初週末に大きな数字を上げた映画は2週目に落ち込むことが多いが、この映画は37%しか落ちていない。これはまさにクチコミの力。アメリカの批評家からのウケは良くなかったが、シネマスコア社による観客の感想調査で、この映画は「A」を得ているのだ。

それはつまり、この映画を公開直後に見に行ったゲームのファンが大満足し、別のファンにそう話したということ。そうなったのも、納得。この映画はスーパーマリオのゲームを愛する人たちによって作られていて、それがファンに伝わったのだ。監督はもちろん、声の出演をした役者たちや作曲家もである。


(c)Universal Pictures

たとえば、クッパの声を務めるジャック・ブラック(53)。彼は、筆者とのインタビューで「これは僕がこれまでに得た中で最高の仕事。だって、クッパになれたんだから」と言っている。1982年から任天堂のゲームをプレイし、ふたりの息子さんともマリオのゲームを一緒に楽しんできたというブラックは、この役のオファーが来ると、迷いもせずにイエスと答えた。

「脚本はまだなかったし、どんな内容になるかも聞かなかった。それでもイエスと言ったんだ。そしてすぐに息子たちに話した。『パパはクッパを演じるよ』ってね。息子たちは最初、信じなかった。マリオをプレイして育ったから、ぴんとこなかったんだろう。任天堂はそれだけ長いこと人々を楽しませてきたということ。僕も子供の頃、大好きだったし、息子たちもだ」と彼は語っている。

マリオ役のクリス・プラット(43)、ルイージ役のチャーリー・デイ(47)、ドンキーコング役のセス・ローゲン(41)も、子供の頃からずっとマリオのゲームをプレイしてきた。「物心ついた時からやってきたから、これらのゲームがなかった時のことを思い出せない」とまで言うローゲンは、脚本を読んで、「マリオのファンが望むことが全部入っていると思った。マリオの映画がこうだったらいいのに、と思うような映画だと。純粋にファニーだし、ストーリーも良い。満足のいく映画だ」と語る。

プラットとデイも、ストーリーを絶賛。プラットは、「マリオがなぜキノコ王国にいるのかがわかったのも良いと思った。ゲームではなぜマリオとルイージがプリンセスを救おうとしているのか、説明がなかったよね。この映画では、彼らがどこから来たのか、どんな家に住んでいるのかなどが、全部語られるんだ。そのことに興奮した」と、ファンならではの視点から褒めている。このふたりにも息子さんがいて、オファーを受けるとすぐに息子さんに話したそうだ。


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そしてもちろん、フィルムメーカー。「この映画はファンのために作る」と決め、任天堂の宮本茂と強い信頼関係を築いたイルミネーションのトップ、クリス・メレダンドリ(彼は1991年に息子がゲームをプレイするのを見て、初めてマリオに触れている)は、監督に、マリオのゲームの大ファンであるアーロン・ホーヴァス(42)とマイケル・ジェレニック(45)を連れてきた。

ジェレニックは、「子供時代、学校から帰ってきて、いつもこのゲームで遊んだものだ。僕はこれを、子供の頃、ゲームをしながら感じたことを映画として体験できるものにしたかった。その感情をスクリーンに持ち込みたかったんだ」と語っている。

ホーヴァスも、「僕たちが重視したのは、キャラクターと彼らの世界を忠実に描くこと。それで僕らはゲームを見直し、最もよく出てくる要素を探して、ディテールを極めた、信憑性のあるデザインを作った。観客がつい手を伸ばして触りたくなるようなものを」と述べる。

音楽にしても同様。作曲家のブライアン・タイラー(50)によれば、この映画のサウンドトラックには、マリオのゲームから取った要素が最低でも130個あるとのこと。タイラーは、近藤浩治によるゲームの音楽を新たにアレンジしたり、抽象的に変えてみたり、自分が書いた曲の一部として含めたりしながら、広げていった。

「オリジナルのゲームの音楽へのラブレターとしてこれらの音楽を書いた」とも、タイラーは語っている。観客は音からも、これはマリオの世界だと感じるのだ。

これらの人たちは全員40代から50代で、まさにマリオ世代。デイは、自分がマリオの映画に出ることを子供が喜ぶのはともかく、大人である友人たちも同じくらい興奮したことに驚いたとも語った。事実、アメリカでは、午後7時以降の回にも十分人が入っている。それはつまり、子連れ以外の層にもアピールしているということ。半世紀近くも人気を保ってきたゲームならではのパワーだろう。

ローゲンは、「『プレミアにわが子を連れて行っていい?』とこんなに聞かれたのは初めて。みんなすごくこの映画を楽しみにしているんだ」とも語っている。そんな世代を超えたゲームのファンは、この映画を見て、これぞマリオの世界だと感じたのだ。


ピーチ姫役のアニャ・テイラー=ジョイ(写真:Kayla Oaddams/Getty Images)

当然のことながら、興奮したファンの間では、早くも続編にはどのキャラクターを出すべきか、その声を誰が演じるべきかなどの論議が起きている。そういう想像をめぐらせるのも楽しいものだ。

イルミネーションと任天堂は、続編に関してまだ何も発表していない。しかし、クレジットの最後には、次へのヒントを匂わせるシーンが用意されている。28日、日本でついに公開された際には、ぜひ最後までしっかり席に座って、その会話に参加してほしい。

(猿渡 由紀 : L.A.在住映画ジャーナリスト)