近年は画像や文章を生成するAIの登場が大きな話題を呼んでいますが、その裏では既存の仕事がAIに奪われるという懸念が浮上しています。既に中国のゲーム業界からは「AIに仕事を奪われてしまった」という声が上がっているほか、サイバーセキュリティ専門家の多くが「2030年までにAIに仕事を奪われる」と予想しています。新たに、国際的な音楽企業であるユニバーサルミュージックグループが、SpotifyやApple Musicなどの音楽ストリーミングサービスに対し、AIのトレーニングに楽曲が使用されるのをブロックするよう指示したことが明らかとなりました。

Streaming services urged to clamp down on AI-generated music | Financial Times

https://www.ft.com/content/aec1679b-5a34-4dad-9fc9-f4d8cdd124b9



Streaming sites urged not to let AI use music to clone pop stars | Music industry | The Guardian

https://www.theguardian.com/business/2023/apr/12/streaming-sites-ai-copyrighted-music-copycat-tracks

Universal Music Asks Spotify, Apple to Block AI Access To Songs - Billboard

https://www.billboard.com/pro/universal-music-asks-spotify-apple-stop-ai-access-songs/

Report: UMG wants DSPs to block unlicensed AI-training scraping - Music Ally

https://musically.com/2023/04/12/report-umg-wants-dsps-to-block-unlicensed-ai-training-scraping/

経済紙のフィナンシャル・タイムズは、ユニバーサルミュージックグループがSpotifyやApple Musicなどの音楽ストリーミングサービスに対し、AIのトレーニングに楽曲が使用されるのを防ぐよう求める電子メールを送信したと報じました。

ユニバーサルミュージックグループは電子メールの中で、「当社は、特定のAIシステムがコンテンツを所有または制作した権利者から必要な同意を得たり、補償金を支払ったりすることなく、著作権で保護されたコンテンツで学習されている可能性があることを認識しました」「私たちはアーティストに対し、楽曲の無断使用を阻止してアーティストやその他のクリエイターの権利を侵害するコンテンツを、プラットフォームに取り込ませないようにする道徳的・商業的責任を負っています。プラットフォームのパートナーが、『アーティストに損害を与えるような形で自分たちのサービスが使用されるのを防ぎたい』と考えているだろうと期待しています」と述べたとのこと。



さらにユニバーサルミュージックグループは音楽ストリーミングサービスやデジタル音楽販売プラットフォームに対し、AIのトレーニングに使用される楽曲データのダウンロードをブロックするよう求めた上で、「私たちは、当社とアーティストの権利を守るための手段をとることをためらいません」と警告しています。

音楽業界誌のBillboardは、ユニバーサルミュージックグループと音楽ストリーミングサービスの双方から、電子メールの内容について裏付けを取ったとのこと。しかし、具体的にユニバーサルミュージックグループがどのような手段を計画しているのかや、音楽ストリーミングサービスに何を求めているのかは不明だそうです。Billboardの問い合わせに対し、Spotifyの担当者はユニバーサルミュージックグループの電子メールについてコメントすることを拒否したほか、Apple MusicとAmazon Musicはすぐにコメントを返しませんでした。

Billboardは、大手レーベルは音楽ストリーミングサービスと非常に複雑なビジネスパートナーシップを結んでおり、楽曲がAIのトレーニングに使用されたことでユニバーサルミュージックグループが音楽ストリーミングサービスを訴える可能性は低いと指摘。その代わりに、AIプラットフォームに対して直接訴訟を起こす可能性の方が高いだろうと予想しています。



記事作成時点で一般的な生成AIと言えば、画像生成AIであるStable DiffusionやMidjourney、対話型AIのGPT-4やChatGPTが思い浮かびますが、既に音楽生成AIもかなりのクオリティに達しています。

たとえばYouTubeには、AIで再現したカニエ・ウェスト(現イェ)にQueenの「Don't Stop Me Now」やケシャの「Tik Tok」をカバーさせたバージョンが投稿されています。

Kanye West - Don't Stop Me Now (AI Cover) - YouTube

Kanye West - Tik Tok (AI Cover) - YouTube

音楽業界が生成AIに対する懸念を表明したのは、今回が初めてではありません。2022年10月には音楽の業界団体であるアメリカレコード協会(RIAA)がアメリカ合衆国通商代表部に宛てた(PDFファイル)書簡で、AIを用いて生成された楽曲は有名アーティストのトラックとほぼ同等のクオリティに達していると指摘。AIサービスやそのパートナーは無許可でRIAAに所属するアーティストの楽曲をトレーニングに使用しており、「メンバーの著作物を無許可でコピーすることで権利を侵害しています」と主張しました。

イギリスの日刊紙・The Guardianは、AIシステムは大量のコンテンツでトレーニングされているものの、これらのコンテンツは通常、制作者やソースからの明示的な同意なしに収集されていると指摘しています。一方でAI研究者は、最終的な成果物であるAIモデルは元の素材と競合しないため、自らの行為はフェアユースに該当すると主張しています。

ユニバーサルミュージックグループのデジタル戦略担当ヴァイスプレジデントを務めるマイケル・ナッシュ氏は、2023年3月のインタビューで「ほとんどのAIシステムは、膨大な量の著作権で保護されたコンテンツで基本的なトレーニングを行うことで、『独自の』IPを開発するために必要な知識ベースを獲得しています。そして、これらのトレーニングに必要不可欠な素材を生産している人々には、何の補償も行っていないのです。要するに多くのAI開発者は、他者の創造的な作品を利用することの倫理を無視しているか、あるいはフェアユースの考え方を危険なほどゆがめて正当化しているだけで、絶対に支持されることはありません」と述べました。