140万冊のデジタル書籍を無料で公開したインターネットアーカイブを大手出版社が著作権侵害で訴えていた裁判で、一審の地方裁判所は出版社に有利な判決を下しました。

gov.uscourts.nysd.537900.188.0.pdf

(PDFファイル)https://storage.courtlistener.com/recap/gov.uscourts.nysd.537900/gov.uscourts.nysd.537900.188.0.pdf

The Fight Continues - Internet Archive Blogs

https://blog.archive.org/2023/03/25/the-fight-continues/

Judge Decides Against Internet Archive | File 770

https://file770.com/judge-decides-against-internet-archive/

Internet Archive Loses Copyright Lawsuit: What to Know | Time

https://time.com/6266147/internet-archive-copyright-infringement-books-lawsuit/

インターネットアーカイブはデジタル書籍をオンラインで貸し出すプログラム「Open Library」を長年続けていますが、このプログラムで借りられる本は基本的に1人1冊のみで、誰かに貸し出し中の本は返却されるまで借りられないなどの制限が設けられています。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行に伴い各国で緊急事態宣言が出され、現実の図書館にアクセスできない人が増えたことから、インターネットアーカイブは制限を一時的に緩和。Open Libraryのコレクションを1人10冊まで、待ち時間なしに借りられるようにする「National Emergency Library」を公開しました。

2020年3月24日に開設されたNational Emergency Libraryは、2020年6月30日まで、またはアメリカの国家非常事態宣言が終了する日のいずれか遅い方まで継続される予定でしたが、「公開されている書籍に著作権を有したものが含まれている」という大手出版社4社の訴えを受け、2020年6月16日に前倒しで閉鎖されています。



原告である出版社は「原告の許可なく印刷物をスキャンし、デジタルコピーをウェブサイトの利用者に貸し出すことにより、127冊の書籍に関する著作権を侵害した」と主張。一方でインターネットアーカイブは「フェアユースの原則によって免責されている」と反論しています。

フェアユースの原則では「科学の進歩と有用な芸術を促進する」という著作権の目的そのものを達成するために、著作物のいくつかの無許可の使用を認めています。たとえば、批評・コメント・報道・教育・学術・研究などの目的で著作物を公正使用する行為は、著作権の侵害にあたりません。

ニューヨーク州南部地区の地方裁判所が担当した一審では、インターネットアーカイブの貸出行為が「変形的」であるかどうかが主な争点となりました。

インターネットアーカイブは出版された書籍を二次利用するという形で配布していますが、この際にさらなる目的や異なる性格を持つ新しい何かを書籍に追加し、追加の表現、意味、メッセージを込めてオリジナルの作品を変更しているわけではありません。

フェアユースの原則では、著作物を使用することが公共のためになるかどうか、著作権者にどれだけの影響を与えるか、著作物のどれだけの部分がコピーされたか、著作物を新しいものに「変形」させたかなどを考慮していますが、今回のインターネットアーカイブの二次利用は「変形的である」とは認められませんでした。

なお、同様に書籍をスキャンしてオンラインで公開している「Google ブックス」は、単にコピーを公開するのではなく、書籍の内容を検索可能なデータベースを構築しているため、「変形的」であると認められています。



図書館が物理的な書籍をユーザーに貸し出せるのは、著作権のある書籍を所有する個人に、そのコピーを販売、展示、貸し出すことを許可する法理「ファーストセール・ドクトリン」が設けられているためです。他方、オンラインにおいては「Controlled Digital Lending(CDL)」という概念が適用され、図書館が所有する部数のみを貸し出すことが認められます。

インターネット・アーカイブは、自分たちが所有する物理的な書籍のコピーと、提携する図書館が所有する書籍のコピーを最大1部までカウントして、電子書籍の貸出数を決定しています。しかし、今回のパンデミックではこのような慣行はなく、インターネットアーカイブが権利を有するよりも多くの電子書籍のコピーを貸し出していたことも問題視されました。

加えて、インターネットアーカイブが電子書籍の公開で利益を得ていた可能性も追求されました。

著作権法では、特定の場合における作品の使用がフェアユースであるかどうかを判断する際にいくつかの要素を考慮するよう求めています。その中の1つが「二次利用が商業的な性質のものか、非営利の教育目的のものか」という点です。

原告の主張によると、インターネットアーカイブはOpen LibraryやNational Emergency Libraryを公開することで新しい会員を集め、寄付を募っているとのこと。また、オンライン書籍販売を行うBetter World Books(BWB)と提携し、ウェブサイトに「BWBで購入する」というボタンを設け、顧客がBWBに支払った代金の一部をBWBから受け取るという商業的な行為をも行っていると主張されました。こうしたことから、インターネットアーカイブの行為は「利点や利益を得ている」と見なすことができ、商業・非商業を区別する要素においては原告に有利な判断が下されました。



続いて、「著作物の使用または複製使用が、著作物の潜在的な市場または価値にどう影響するのか」という要素も考慮されました。この要素は、「二次利用者が競合する代替物を提供することが、オリジナルの市場を奪うかどうか」に焦点を当てています。

近年、電子書籍の繁栄に伴い、出版社は図書館向けに電子書籍のライセンスを供与するというビジネスを展開しています。こうしたビジネスは出版社にとって大きな収益源となっていますが、インターネットアーカイブは出版社に電子書籍のライセンス料を支払うことなく書籍を提供しています。そのため、インターネットアーカイブは出版社の地位を奪っていると認められました。インターネットアーカイブは「物理的な図書館から遠く離れた場所に住む利用者が容易に書籍にアクセスできるようにすることで、研究、学術、文化参加を支援している」と主張していますが、こうした利益は、出版社に与える損害を上回ることはできないと判断されています。

地方裁判所のジョン・ケルトル判事は「インターネットアーカイブの電子書籍の利用は、National Emergency Libraryを展開する際だけでなく、貸出図書館の幅広い利用においても上記基準に準拠していない」としたため、訴訟時点で公開継続中のOpen Libraryにも影響が出る恐れがあります。

プロの作家に法的なアドバイスを提供するAuthors Guildは、一審の判決を受けて「感激した」とツイート。「私たちが長い間主張してきたように、許可や対価なしに本をスキャンして貸すことはフェアユースではなく、窃盗であり、著者の作品の価値を下げるものです」と付け加えました。





一方で、ナオミ・クライン氏やニール・ゲイマン氏を始めとする300人以上の著名作家が出版社と業界団体に訴訟の中止を求める公開書簡に署名しており、業界の中でも賛否が分かれていることがうかがえます。

インターネットアーカイブは「図書館は企業の顧客サービス部門以上の存在です。民主主義が世界規模で発展するためには、図書館が社会における歴史的な役割、つまり本を所有し、保存し、貸し出すことを維持できなければなりません。この判決は、図書館、読者、作家にとって痛手であり、私たちは控訴する予定です」と述べました。