高いステータスを持つ者の代名詞の1つともいえる、都内の高級タワーマンション。

港区エリアを中心とした都心には、今もなお数々の“超高級タワマン”が建設され続けているが…。

では果たして、どんな人たちがその部屋に住んでいるのだろうか?

婚活中のOL・美月(28)と、バリキャリライフを楽しむアリス(28)。2人が見た“東京タワマン族”のリアルとは…?

▶前回:彼の部屋で「お泊まり用の化粧品を置いていってもいい?」と尋ねたら…。男が放った、ゾッとする一言




美月「好きになれる人がいない」


JRの目黒駅前は、どうしてこうも風が強いのだろうか。

「美月、最近どうなの?いい人いないの?」

突風でめくれ上がりそうなスカートの裾を押さえながら、待ち合わせをしていたアリスと駅近くのタワーマンションを目指す。

「それがさ、なかなかいなくて…」

先日までデートをしていた、神楽坂の有名ブランドタワマンに住む衛さん。彼はなんと、離婚調停中の人だったのだ。

「最近はもう、誰を好きになればいいのかわからなくて」
「わかる。なかなかいないよね〜」

そんな会話をしているうちに、駅から徒歩1分の場所にそびえ立つタワマンの入り口にたどり着いた。

この日のホムパに参加した私は、心底驚くことになる。なぜなら意外にも、この会に素敵な独身男性がたくさん揃っていたからだ。


Case9:独自路線をいく、目黒タワマン男子たち


まだ新しさが残るエントランスは、清潔感が漂っている。大きな自動扉を抜けた先にあるパーティールームが、本日のホムパの会場だった。

「美月ちゃん、こっちこっち」
「わぁ…♡こんな部屋が共用施設なの?」

タワマンのパーティールームは、見晴らしのいい高層階にあるところも多い。けれどここは1階にあり、しかも外には水盤があって大きなテラス席まである。

その開放感はまるで外資系の有名ホテルのようで、あまりの美しさに私たちは思わず目を見開いた。

天井も高く広々としたパーティールームは、余裕で50人は入るだろう。しかも2017年に建てられたばかりというだけあり、細部まで綺麗でかなり洗練されている。

「ここ、素敵だね」
「でしょ?いいでしょ?とりあえず適当に食べて飲んでね」

今日の家主は、私と同い年の賢太くんだ。医療系ベンチャーを経営しているらしく、なんと上場準備中だと噂で聞いた。

同じ年齢でここまで成功しているのはすごいなと素直に感心していると、彼がニコッと微笑んだ。

「ちなみに、今日いるメンズはほぼ独身だから♡」




賢太くん自身は長く付き合っている婚約者がいると数年前に聞いたけれど、いまだに独身ということはまだ結婚はしていないのだろう。

「さすが!助かります。ちなみにアリスも独身です」
「アリスです。よろしくお願いします」
「初めまして、賢太です。よろしくね」

家主に挨拶をした後、私たちは部屋に集まっている15人ほどのゲストを眺めて、ふとこう思った。

「なんか…。もっとギラギラしているのかと思いきや、みんないい人そうだね」

アリスの言葉に、私もうなずく。




港区のホムパに集うようなギラギラ系とは、少し毛色が違う。みんな爽やかだし、一目見ただけでわかるようなハイブランドの服も着ていない。アクセサリーもつけていない人がほとんどだ。

みんな色白で日焼けしている人なんていないし、肌も綺麗。

女性陣も、港区にいるようなタイプとは全く違う。こぼれ落ちそうなほど大きな胸を強調している子などいないし、みんな淡いベージュやラベンダー色のふわっとしたワンピース。

何人か彼女たちとも話したけれど、みんなどこか雰囲気が似ていてすぐには名前が覚えられないほどだ。

「美月ちゃんとアリスちゃんも、一緒に飲もうよ」

いつの間にかテラス席に移動していた賢太くんに呼ばれ、私たちもワイングラスを持って外へと向かう。

「今日来てる人はみんな、賢太くんの友達なの?」
「そうだね、みんな同世代で。あと、このマンションに住んでる友達も何人かいるよ」
「みんな仲良しだね〜」

先日会った芝浦のタワマンに住む康平さんの話を聞いたときも思ったけれど、どうやらタワマン内にはコミュニティーがあるらしい。

タワマンに住めるということは、ある程度の財力と社会的地位が証明されている。しかもそのコミュニティーには外部からは入れないため、一度仲良くなれば親密になれる可能性が高い。

― タワマンコミュニティーって強いよね。私もその輪の中に入りたいなあ。

そんなことを思いながら、少しぬるくなった白ワインを一口飲んだ。


「アリスちゃんは、何のお仕事してるの?」
「私は外銀のバックオフィスで働いてます」

隣に座った男性にロックオンされているアリスを横目に、私は静かに観察をしていた。

みんな爽やかで、稼ぎもある。ギラついておらず年も若くて、しかも独身。久しぶりにこんな大人数で、全員“まとも”な男女が集っている気がした。

「美月ちゃん、誰か気になる人いない?繋げるよ」

幹事力を遺憾なく発揮してくれている賢太くんに、私は素直に今の気持ちを伝えてみる。

「みんな素敵な人ばかりだね。でも最近、誰を好きになればいいのかわからなくなってきて…」
「重症だね(笑)でもわかるなぁ…。大人になればなるほど、誰かを好きになるって難しいよね」
「賢太くんは婚約者がいるじゃない」
「そうなんだけど。本当に結婚するのかわからなくなってきた」




この大都会にいる限り、どこかに出会いは転がっている。お金もあって顔も良くて、性格も良くて色気まである人が星の数ほどいるから。

でも逆に出会いがありすぎるからこそ、誰を選べばいいのかわからなくなってくる。

選択肢が多ければ多いほど、人は迷うもの。

今日だって、経済力のありそうな素敵なメンズは揃っている。でもなぜか心が動かない自分がいる。賢太くんも逆パターンなのだろう。

“普通に”可愛くて性格のいい女性は山ほどいる。

ただその中で誰を選べばいいのか、何を判断基準にすればいいのか…。悩めば悩むほど、答えは遠ざかっていくのだ。

「この後、何人かうちに来て飲むんだけどさ。美月ちゃんたちも来る?」

お部屋の方も覗いてみたい気持ちはあったけれど、夕方から飲んでいたせいか少し疲れてしまった。

「今日はもう帰ろうかな。誘ってくれてありがとね」
「ううん、こちらこそ来てくれてありがとう。また飲もうね」

こうして私とアリスは、少し早めに帰宅したのだった。






翌日。オフィスで仕事をしていた私は、アリスから届いたLINEを見て手を止めた。

Alice:昨日はありがとね!
美月:こちらこそ、ありがと!アリスはいい人いた?
Alice:そういう目で見てなかった(笑)美月は?家主の人とかいいじゃん♡

そんなやり取りをしていると、急に上司から呼ばれてしまった。

「山田さん、ちょっといい?」
「はい、なんでしょう」
「突然なんだけど、広報部へ異動してみない?」
「…えっ!?私がですか?」

今の生ぬるい部署が好きだった。残業もないし、リモートワークもできるので出社しなくても済む日が多い。ただ、誰でもできそうなこの仕事を続けていていいのかなと思っていた自分もいる。

「…やりたいです。異動したいです」

一旦、婚活はお休みして仕事に邁進するときが来たのかもしれない。

そう思って、一歩踏み出してみたけれど…。この判断が、後の人生に大きな影響をもたらすことになったのだ。

▶前回:彼の部屋で「お泊まり用の化粧品を置いていってもいい?」と尋ねたら…。男が放った、ゾッとする一言

▶1話目はこちら:気になる彼の家で、キッチンを使おうとして…。お呼ばれした女がとった、NG行動とは

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タワマンに住むには、結婚するしか方法がない!?