AppleはiPhoneで使えるiOSアプリを、公式のアプリストアであるApp Storeからのみインストールできるようにしています。しかし、ライバルのAndroidは公式アプリストア以外からもアプリのインストールが可能であるため、Appleも「App Store以外のアプリストア」を認めるべきという声が長らく存在します。そんな「App Store以外のアプリストア」を許可するべく、Appleは準備を進めているとBloombergが報じました。

Will Apple Allow Users to Install Third-Party App Stores, Sideload in Europe? - Bloomberg

https://www.bloomberg.com/news/articles/2022-12-13/will-apple-allow-users-to-install-third-party-app-stores-sideload-in-europe

Appleは欧州連合(EU)の厳しい要件である「デジタル市場法」に準拠するべく、抜本的な見直しを進めているとBloombergが報じています。この見直しの一環として、AppleはiPhoneおよびiPadでApp Store以外のアプリストアとなる「サードパーティー製アプリストア」を認める準備を進めているとのことです。

Appleの取り組みに詳しい関係者によると、ソフトウェアエンジニアリングおよびサービス構築に携わる従業員が、Appleのプラットフォームの重要な要素を開放するための大規模な取り組みに従事しているとのこと。App Store以外のアプリストアが許可されることとなれば、顧客は最終的にApp Storeを利用せずにiPhoneやiPadにサードパーティー製アプリをインストールすることが可能になります。そうなれば、現在のApp Storeに課されている「厳格なガイドライン」を無視したアプリが利用可能となったり、「最大30%の手数料」を回避することが可能となります。

これはEUのデジタル市場法に対処するための動きですが、他の国でも同様の法律が成立すれば、Appleのプロジェクトが他の地域へも拡大していく可能性が十分にあると情報筋は語っているそうです。ただし、記事作成時点では仕様変更は「デジタル市場法の適用範囲」であるヨーロッパでのみ施行されるよう設計されている模様。

Appleがサードパーティー製アプリストアを許可する可能性があると報じられたのち、App Storeが課す手数料に苦しんでいる出会い系アプリなどを開発する企業の株価が急騰したとBloombergは報じています。これはAppleの支配から解放されることを期待している表れだとBloombergは言及しており、App Storeの手数料が高すぎると長らく指摘し続けてきたSpotifyの株価に至っては、9.7%も上昇したそうです。

デジタル市場法は今後数カ月で施行されますが、企業は2024年まですべての規制を順守する必要がありません。アメリカやその他の国でも同様の規制を設けるべく動きを進めていますが、記事作成時点ではEUほど法整備が進んでいる国はありません。

デジタル市場法はテクノロジー企業に対してサードパーティー製アプリのインストールを許可し、ユーザーがより簡単にデフォルト設定を変更できるようにすることを求めています。また、メッセージングサービスを連携させ、外部の開発者がアプリやサービス内の中枢機能に平等にアクセスできるようにすることも求めています。

なお、デジタル市場法はEU圏内で時価総額750億ユーロ(約10兆円)以上、月間ユーザー数4500万人以上のテクノロジー企業に適用されます



Appleのデジタル市場法に対応する試みは。同社のソフトウェアエンジニアリング担当ヴァイスプレジデントであるクレイグ・フェデリギ氏の直属の部下であるアンドレアス・ウェンドカー氏が主導しているとのこと。Appleのサービス部門のトップエンジニアリングマネージャーで、サービス部門のトップであるエディ・キュー氏の直属の部下でもあるジェフ・ロビン氏もプロジェクトに関与しているとのこと。

情報筋によると、Appleはこの取り組みに相当な量のリソースを注いでいる模様。Appleは公式のアプリストア以外からアプリをインストールするサイドローディングを批判し続けてきたため、サードパーティー製アプリストアを許可する試みについて、「Apple社内で人気があるわけではない」とBloombergは報じています。実際、Appleはデジタル市場法の法案が提出された際、これに反対するためのロビー活動を行い、「サイドローディングが消費者の端末に安全でないアプリを入れ、プライバシーを損なう可能性がある」と主張してきました。

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このプロジェクトに取り組んでいるエンジニアの中には、仕様変更が「将来の開発における典型的かつ日常的な妨げになる」と考えている従業員もいるそうです。なお、Appleは2023年にリリースされる予定のiOS 17の一部として、仕様変更を行うべく準備を進めている模様。

Appleはユーザーを保護するために、App Store以外からアプリがインストールできるようになる場合であっても、一定のセキュリティ要件を義務付けるというアイデアについて議論している模様。また、サードパーティー製アプリストアで配布されるアプリに対しても、Appleによる検証が行われる可能性があります。そして、このプロセスを通じてAppleは各アプリから手数料を徴収する可能性がある模様。

Appleは日本の公正取引委員会による調査を受け、それまで認めていなかった「アプリ内で外部サイトへのリンクを表示すること」を2021年9月に許可するようになりました。しかし、EUのデジタル市場法はさらに一歩踏み込んで、サードパーティー決済システムが利用できるようになることを求めています。

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Appleがサードパーティー製アプリでApp Store以外の決済システムの利用を認めるか否かについて、情報筋は「Appleはこの件について最終的な決定を下していない」と言及。もしもサードパーティー決済システムの利用が認められれば、アプリ内のコンテンツをAppleのシステムを介さず購入できるようになります。

この他、Appleはサードパーティー製アプリに対してプライベートアプリケーションプログラミングインターフェース(API)をより多く解放するための取り組みも進めている模様。解放が予定されているのは、Apple製ハードウェアやコアシステムと相互作用することを可能にするような、基本的なフレームワークに関するAPIだそうです。

また、AppleはApp Storeで配信されているウェブブラウザに対して、同社の純正ブラウザアプリであるSafariと同じブラウザエンジンのWebKitを利用することを義務付けています。しかし、デジタル市場法に対応する一環として、この規制を解除することもAppleは検討している模様。

加えて、Appleはより多くのカメラ技術や近距離無線通信チップ(NFC)を含む機能を、少なくとも限定的なサードパーティーアプリ開発者に解放するべく取り組みを進めているそうです。記事作成時点では、iPhoneに搭載されているNFCチップは、ほとんどAppleのWalletアプリやApple Payといったサービスでしか利用できない状況です。しかし、これらの利用制限が解禁されれば、サードパーティー製アプリでも同様の機能が利用可能となります。

ただし、AppleはiMessageを含むメッセージアプリについてはサードパーティーアプリ開発者に機能を解放するという決定を下せずにいる模様。これを実現してしまえば、iMessageが提供するエンドツーエンドの暗号化やプライバシー機能が損なわれてしまうとAppleのエンジニアは懸念しているようです。加えて、GoogleがAppleに採用するよう働きかけているメッセージングプロトコルのRCSの統合についても、記事作成時点では「Appleは考慮していない」と情報筋は語っています。

AirTagと競合するような落とし物トラッカーに対して、AppleのFind Myネットワークをさらに解放することについても協議が進められています。Appleは2021年からFind Myネットワークの一部機能をサードパーティー向けに提供していますが、競合他社からは「Appleは自社製品を優位に立たせている」という批判の声も上がっています。

なお、デジタル市場法への違反を繰り返した場合、企業は年間売上高の20%にもおよぶ制裁金を科される可能性があります。Appleの2022年度の売上高は約4000億ドル(約54兆円)であるため、デジタル市場法に違反した際の罰金は800億ドル(約10兆円)となる可能性があります。