オリックス・小林宏2軍監督[写真=北野正樹]

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◆ 猛牛ストーリー【第41回:小林宏 2軍監督】

 リーグ連覇を達成し、昨年果たせなかった日本一を目指すオリックス。監督・コーチ、選手、スタッフらの思いを「猛牛ストーリー」として随時紹介していきます。

 

 第41回は、1995年のヤクルトとの日本シリーズ第4戦で、延長10回から登板。11回1死1、2塁のサヨナラのピンチに、トーマス・オマリーをほぼストレートで押す攻めの投球で14球目に空振り三振を奪った小林宏・2軍監督(51)です。

「小林−オマリーの14球」は、「江夏の21球」と並び大舞台での好勝負と語り継がれています。自身の経験をもとに、今季、中継ぎでブレイクし日本シリーズでも大活躍の宇田川優希や本田仁海には「打者に合わさず、空振りを取りに行け」とアドバイスを送りました。

◆ 「空振りを取りに行くことで、抑え方を覚える」

 日本シリーズ4戦(10月26日、京セラドーム大阪)で、オリックスが山岡泰輔−宇田川−山粼颯一郎−ワゲスパックとつないで1−0で逃げ切り、1勝2敗1引き分けとした翌日、小林2軍監督の姿は直線距離で約500キロ離れた宮崎県内で行われている「みやざきフェニックス・リーグ」のロッテ戦(アイビースタジアム)にあった。

 シリーズの流れを変える宇田川の投球を、誰よりも喜んでいたのは小林監督だったのではないだろうか。

 宇田川は1点リードの5回表1死3塁のピンチに、山岡の後を継いで登板。ヤクルトの2番・山崎晃太朗を142キロのフォークボールで空振り三振、3番・山田哲人も145キロのフォークで見逃し三振と、2者連続三振でピンチを断ち、1回2/3を無安打、4奪三振でチームに初勝利をもたらせた。

 育成選手から今季途中に支配下登録された2年目の右腕。150キロ台のストレートとフォークに定評があった宇田川に、小林2軍監督が送った言葉は「頑張れ」と、「思い切っていけ。打者に合わせたらアカンぞ。空振りを取りにいけ」だった。

 その言葉通り、宇田川はシーズン終盤からストレートとフォークで攻めて三振の取れる投手として中継ぎ、抑えで頭角を現しシリーズでも期待に応える働きをしている。

 小林2軍監督は、宇田川に27年前の自分を重ね合わせたのかもしれない。

 1995年10月25日、ヤクルトとの日本シリーズ第4戦(神宮)。王手をかけられ負けられない一戦で、オリックスは1点を追う9回に小川博文のソロ本塁打で追いついた。延長10回から登板したのが、第5戦に先発予定だったといわれる小林2軍監督だった。11回一死一・二塁で迎えたのは、前の打席までで打率5割以上をマークしていたオマリー。

 仰木彬監督から「速い球で攻めろ。強気でいけ」とアドバイスされた小林2軍監督は、初球を内角へのスライダー、2球目も内角への直球で2ストライクと追い込んだ後、13球目のスライダーまで内角へ直球で攻め続け、14球目、内角低めへのボール気味の直球で空振り三振に仕留めた。7球目に右翼ポール際への大ファウルもあったが、強気に攻め続けて12回表にソロ本塁打が飛び出し、勝ち投手に。

「技術がないんだから、思い切っていくしかないんです。小細工をせず空振りを取りに行くことで、抑え方を覚えるんです。(ファームでも)そうやってやらせてきました。過程があってそうやって覚えていくものなんです。今持っているものを試してみて、ダメなことを気付けばいいんです。色気を出して、出来るわけでないので」

 宇田川へのアドバイスの意味を語った小林2軍監督は今季途中に先発から中継ぎに転向した本田にも、同じ言葉を送ったという。

◆ 2軍で実戦経験を積ませ勝負の世界に送り込む

 1軍の中嶋聡監督が「(1、2軍の)風通しはいいですよ。誰が調子がいいのかなど、全部、気にしていますよ。何か(1軍で)足りない時、あいつどう?(と聞けば)、『今なら推薦できます』『もうちょっと待ってください』、となる」と公言するほど、1、2軍の意思疎通が出来ている。

 先発か中継ぎか、抑えか。1軍のチーム事情や選手の適性を見極め、2軍で実戦経験を積ませ勝負の世界に送り込み、連覇を下支えする。

 それでも、オリックスの2軍首脳陣は控え目だ。自らの引退セレモニーで「オリックスは絶対に強くなります」とファンにメッセージを送った岸田護投手コーチは「僕は何もやっていません」といい、野球界で働く場を失った際、PL学園での先輩でもある桑田真澄(現巨人ファーム総監督)から「謙虚でいるんだぞ」という金言を送られた入来祐作投手コーチも、選手の活躍だけを称える。

 小林2軍監督も「上(1軍)でやってくれたらうれしいんです。うまく(育てている)といってもらえるが、やった本人がすごいんです。やってくれて、チャンスをつかむのもコイツらなんで」と声を揃える。

 フェニックス・リーグでは、ファーム公式戦とは違い、1軍への選手供給などを意識しなくていいことから、育成選手も積極的に起用している。

「今は、とくに3ケタ(育成選手)の選手はチャンスですね。そこで結果を残すか、自信をつけるか。成績だけでなく、投手ならどういう過程で、どうやって投げてどうやって抑えたかを、覚えるか覚えないかだけでも大きく違います」と小林2軍監督。

 今年のドラフトで、オリックスは育成5選手を含む10選手を指名した。

「新人が入って来て、育成選手は来年が勝負になります。1つか2つの枠に入りきれるかの競争なんで」。

 育成から支配下をつかみ、シリーズで活躍する宇田川らの姿は、いい手本だ。

「枠があればチャンスがある。行ける可能性があるので、あとはそこまで自分がやっていけるかだけです」

 大舞台で送り出した選手が躍動する姿に目を細める一方で、第2の宇田川を育てるもう一つの“戦い”が始まっている。

取材・文=北野正樹(きたの・まさき)