「ワクチン打たず感染」43歳彼女の周囲で起きた事
オミクロンの症状よりも怖かった「人の排他性」を感じた彼女の告白とは?(写真:亀山さん提供)
世間では「オミクロン株は風邪と似たようなものだ」「軽症のまま治るから心配しなくていい」といった情報を耳にするが、実際のところはどうなのだろうか。感染を経験した人たちの体験談をつづっていく。
血色素量の異常を理由にワクチンは打てなかった
亀山鶴子さん(仮名・43歳)はコロナワクチンを1回も打っていない。
鶴子さんは近年、ある病気をきっかけに重度の貧血となったことがあった。血中の鉄が関係するヘモグロビンの数値「血色素量」では、健康な女性が「11.3〜15.2」のところ、彼女はその範囲に収まらない値だった。病院で処方される鉄剤や注射の治療も体質的に合わず、拒否反応。自然治癒に任せるしか方法がなかった。
「身体が弱っている中で、コロナワクチンの副作用がこわいと思った。ワクチンに負ける気しかしない、と感じたんです」
「職場の人間関係が一変。私は迷惑をかけた者として、陰口のターゲットになりました」
ワクチンを接種していない鶴子さんの、感染の経緯や症状、周りの状況を詳しく聞いた。鶴子さんのプライバシーに配慮して、個人が特定される情報を伏せながら経緯を説明していきたい。
1月中旬のある日、鶴子さんは急に喉が痛くなり、咳が出始めて「おかしいな」と感じる。思い当たる感染経路は主に3つ。満員電車での通勤、職場での同僚やお客さんとの接触、そして同居する親族との接触だ。自身として疑うのは親族との接触だが、明確にどれが原因かはわからない。
2日後に病院で抗原検査を受けると、「陽性」と診断された。PCR検査も受けたが、医師からは「もう十中八九はコロナ陽性だろう」と言われ、次の日の結果が出る前にコロナの認定をされた。
「実際の症状は軽く、コロナか風邪かわからない状況でした。症状でいちばん気になったことと言えば、『体温が1日のうちで波をうつみたいに変動する』こと。2日目は朝イチが38.8℃で、お昼ごろには37.4℃になり、その後36℃台まで下がるも、夜中は38.8℃になりました」
すぐに熱は下がり、症状もそこまでつらくはなかった。実際は、感染中よりも、感染から1カ月ほどたった取材時点(2月23日)のほうが彼女を大きく悩ませていた。
「やる気が出ないんです。つねに頭に霧がかかったようにボーッとするというか。人から言われたことも忘れやすくなった気がします。あ、元からだと言われれば……そうなのかもしれないですけど(笑)。でも、他人から見たら『ただの怠慢』に見えるような、実際にはやっかいな後遺症だと感じています」
発症から10日間の状況
以下で感染後の鶴子さんの症状の経緯を記す。
【1日目】
発熱なし。喉が痛く、咳が出る。その他の症状はなし。普通に生活。
【2日目】
朝イチで発熱(38.8℃)。熱が上がったり下がったりが激しい。(朝38.8℃〜昼37.4℃〜夕方36℃台〜夜中38.8℃)
咳・喉が痛い。倦怠感。少し節々が痛い。味覚はある。自分の部屋でひたすら寝ていた。
【3日目】
発熱が続く。熱が上がったり下がったりが激しい。(朝38.5℃〜昼37℃台〜夜中36.7℃)
咳が激しくなり、喉が痛い。倦怠感。少し節々が痛い。味覚はある。自分の部屋でひたすら寝ていた。
【4日目】
熱が下がってくる。37℃〜36.4℃と変動が続く。咳がひどく、喉が痛い。倦怠感。
少し節々が痛い。味覚はある。自分の部屋でひたすら寝ていた。
【5日目】
発熱なし、36.4℃。咳が続く。関節痛は治まる。ここから倦怠感がさらに強くなってくる。
【6日目】
発熱なし、36.5℃。咳が続く。倦怠感は昨日から強いまま。
【7日目】
発熱なし、36.6℃。咳が続く。倦怠感は強いまま継続。
【8日目】
発熱なし、36.5℃。咳が続く。倦怠感強いまま。
【9日目】
発熱なし、36.4℃。咳が続く。倦怠感強いまま。
【10日目】
発熱なし、36.5℃。咳が続く。倦怠感。
少しずつ本を読んだり、作業したりはできるようになった。
「今回のコロナ感染で大変だったことと言えば、職場の人間関係です。私がワクチン未接種のことも、オミクロン感染のことも、同僚には全部知られているので。『ほれ、見たことか』というような厳しい視線と意見がありました。迷惑をかけてしまったので何も言えませんが……」
少人数で長く勤めている人も多い環境、コロナ前まではスタッフ同士、アットホームな感じでうまくいっていた。ここでトラブルが生じたのだ。
ワクチンを打っていないことが職場のある人に知られ、避けられるようになったり、そのことを言いふらされたり、陰口を叩かれたりした。
そこに今回のオミクロン感染によって、仕事を十数日間休まざるをえなくなった。その穴は周囲がカバー。同僚たちは感染の有無を調べるため検査を受けざるをえなくなったうえに、一時休業も強いられた。
ワクチンを打っていないことをよく思わない同僚は、鶴子さんへの陰口に拍車をかけた。直接言ってこないが周囲から耳にする。
いちばんつらかったのは「人の排他性」を感じたこと
鶴子さんに、「オミクロン感染でいちばんつらかったことは何か」と聞くと、「職場の人間関係が変わってしまったこと」だという。
「コロナワクチンを接種したかどうかの問題がまずあり、打っていない人がオミクロン感染をしてしまったときの、人の排他性をすごく感じました。コロナを怖がり、自己防衛でとる態度や行動は仕方ないのですが、そこに傷つけられる人がいることも事実です。
職場だけでなく趣味の活動でも周囲に迷惑をかけてしまいました。『コロナ』という言葉がなければ、症状的には風邪とあまり変わらなかったかもしれませんが、他人を感染させてしまえば、同じように今度は周りの人に自粛に伴う心労をかけてしまう。ここも大きいと思います」
オミクロン株は多くの人が感染しているものの、昨夏の流行の中心となったデルタ株に比べると、比較的症状が軽く済んだ人が多いという話を聞く。
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ただ、今回の鶴子さんのように、ワクチン接種の有無や、その感染によって、周りの人との人間関係にひびが入ったり、考え方の相違が浮き彫りになったりするケースがあるのは、コロナという病気ならではの事象といえる。人によっては感染時の体調不良や後遺症と同じぐらい厄介なことだ。
ワクチン接種についてもあくまで任意であり、本心から打ちたくとも体調面の理由でそれがかなわない人もいる。しかし、打つ・打たないというだけで対立が生まれる。いまだにコロナ自体に感染したことを責めたり、非難したりする人も多く、感染経験者が肩身の狭い思いをしていることも少なくない。日本中に生んでいる「相互不信」も、コロナが人間に与えている深刻な病状の1つである。
(斉藤 カオリ : 女子ライフジャーナリスト、コラムニスト)