Jリーグ2022開幕特集
新天地に賭ける男たち(1)
永木亮太(湘南ベルマーレ)インタビュー@後編

「動けるうちに戻りたい」

 湘南ベルマーレへの復帰を決意した永木亮太の思いだった。7年ぶりに戻ってきたチームについて聞けば、彼はこう語っていた。

「これはベルマーレの伝統でもありますけど、選手みんながひたむきで真面目なところですね。ただ、いい意味でも悪い意味でも真面目すぎる印象も感じています」

 真面目すぎる----。その言葉を聞いた時から耳に残っていた。

◆永木亮太@前編はこちら>>「王者アントラーズとレジェンド小笠原満男から得た大きな財産」


33歳で再びベルマーレの一員となった永木亮太

 それは6年間を過ごした鹿島アントラーズで、彼自身が多くを培ってきたからわかる的確な表現と言えるだろう。そして、33歳になった彼が今、湘南にもたらすことができる要素のひとつでもある。

「これからも、その都度、感じること、伝えられることはたくさん出てくるとは思うのですが、キャンプも含めて今、感じているのは、その真面目すぎるという部分です。チームとしては、若い選手も多く、経験が少ないという一面もありますが、監督やコーチングスタッフから言われたことをやる能力というのは、チームとして非常に高いんです。

 一方で、ピッチのなかでプレーするのは選手たち自身なので、試合中に起きる事象については、選手たちのなかで話し合って解決する、もしくは試合の流れを見て臨機応変に対応していく必要がある。そこは今までのところですごく感じていることですね。自分たちが勝利に近づくためには、選手たちで判断して決めなければいけない瞬間や時間帯というのが絶対にある。

 そこが今のベルマーレには足りていないところなのではないかと思っているので、自分がピッチ内で示していければと思っています。必ずしも自分が考えていることが正解かどうかはわからないですけど、方向性を示していく立場であり、ポジションだとも感じているので」

【勝利に導けるプレーとは?】

 永木の言葉を噛み砕けば、言われたことばかりに意識がいきすぎるきらいがある、ということになる。さらにうがった見方をすれば、柔軟性の欠如と捉えることもできるだろう。

 目まぐるしく攻守が切り替わる現代サッカーにおいて、チームとしての対応の遅れは致命傷となる。刻一刻と変わる状況をつぶさに読み、選手たちで素早くコミュニケーションを取り、打開していく自己解決力が、チームにも選手個々にも求められている。

 相手を見て対応する、いわゆる状況判断力である。

「アントラーズは、それができるチームだったんです。特に(小笠原)満男さんはそれをチームに発信できる選手でした。その時その時で、相手のシステムも違えば、ポジショニングも変わってくる。そのたびにベンチを見て『どうするの?』では遅いですし、自分たちの成長にもつながらない。

 もちろん、監督が言うことは絶対ですし、そこはチームのベースとしてはあります。だけど、そのなかで対応して、応用していくということができれば、もっと強いチームになっていけると思います」

 坂本紘司スポーツダイレクターが獲得に際して、「勝ちに持っていけるプレーや声がけをしてほしい」と永木に言ったのは、まさにそこに狙いがあったのだろう。永木の言葉を聞けば、指揮官である山口智監督も考えや思いが同じところにあることは明白だ。

「基本的に今のベルマーレが目指しているサッカーは、スピードのある選手たちの特徴を活かしている。だから、自分はそうした選手たちの特徴を消さないように、まずは心がけています。

 一方で、ボールを持っている選手が絶対というか、判断はボールを持っている選手に委ねてくれている。だから、ゴール前での動き方にしても、『これ!』といった凝り固まったものではなく、ピッチにいる選手たちの考えを尊重してくれる監督だと感じています。それだけに、先ほどいった臨機応変な対応という部分を自分には求められているとも感じています」

【中盤は熾烈なポジション争い】

 鹿島では時にサイドバックを務めることもあった永木だが、湘南では本来、彼が最も輝く場所、中盤を主戦場にしているという。

「得意とする中盤の底をはじめ、中盤ならばどこでもプレーできると思っています。実際、智さん(山口監督)からも、どこでもできるようにならなければダメだという話はされました。

 それにどのポジションにおいても自由度は高いので、ここじゃなければ自分の特徴が出せないということもない。むしろ自分にとっては、初めてやるシステムで、初めてやる中盤の形なので刺激というか、発見のほうが多いですね」

 33歳になれば、ある程度はポジションもプレースタイルも確立されてくる。「永木亮太といえば、こういう選手だ」という固定概念を周囲も持てば、自分自身ですら抱くかもしれない。現場を束ねる監督から、そこを打破するようにと言われたことがうれしかった。

「ポジショニングのことについては、今のこの時期にダメ出ししてもらったほうがいい。智さんは、ベテランや外国人選手、中堅、若手と関係なく、ダメなときはダメとはっきり言ってくれるので、本当にわかりやすいというか。そうした意見やアドバイスが自分のさらなる成長につながると思っています」

 そう言って永木は充実した表情を浮かべるが、熾烈なポジション争いについて触れれば、真顔になり襟を正す。

「本当に中盤のポジション争いは熾烈だと思っています。若手としては昨季も試合に出ていた(田中)聡がいて、ヨネ(米本拓司)は実力も経験も兼ね備えている。高卒で加入した鈴木淳之介も本当にいいものを持っているので、ボランチの選手層はかなり厚いと思いますよ。その争いに勝って試合に出る自信はもちろんありますけど、過信しすぎずに自分自身にも目を向けていきたい」

 そこに永木は、経験や言葉だけでなく、どんなプレーで存在感を発揮しようとしているのか。

「33歳という年齢になり、フィジカル的な部分は正直、ここから上がっていくことはないと感じています。どちらかといえば、筋力やスピードはここからきっと下がってくる。

 でも、技術のところはまだまだ成長できると思うので、特にピッチの中央に位置する中盤ではその技術が活きるはず。このサッカーではボールを失わない技術が重要になるし、ボールを受ける回数もより増えるので、自分のところで流れを止めてしまわないようにしたい」

【純粋にサッカーが楽しい】

 これまでJ1残留が現実的な目標だった湘南だが、来たる2022シーズンは「5位以内」を公言し、チームとして、クラブとしてワンランク上を目指す覚悟を示している。

「本当にいい目標というか、目指す価値のある目標だと思っています。また、個人的にはメンバーを見れば、そこを狙えるとも思っています。

 ただ、まだまだ足りない部分がたくさんあることも事実。目標を達成するためには、智さんも話しているように、勝ちきる力が必要になる。そのためには、先ほど話した選手たちで判断していく部分や、昨季は失点数を抑えられていた一方で得点が奪えていなかったと聞いたので、最後のところで決めきる力が課題になってくる」

 指揮官の指示を高い再現性で実行することのできる選手たち。そこに状況判断力が養われた時、湘南は魅力と結果の両方を掴むことだろう。チームを次なるステップへ引き上げるのが永木の役目であり、使命となる。

 最後に「サッカーがまた楽しくなってきているか」と問いかけた。

「今、純粋にサッカーが楽しいですね。自分のプレーについて考える時間も、サッカーについて考える時間も増えました。昨季は試合に出る機会も少なく、試合で頭を使って考える機会がなかったので、今はもうフル稼働といった感じです(笑)」

 復帰した湘南での背番号は「41」を選んだ。

「(湘南でも鹿島でもつけていた)6番が空いていないので、坂本さんに41番は空いていますかって聞いたんです。自分にとっては、特別指定選手時代につけていた、キャリアをスタートさせた時の番号だったので。初心に返る、リスタートするといった意味も込めて、41番でお願いしますと伝えました」

 12年前、初めてライトグリーンのユニフォームに袖を通した時のワクワク感と向上心を胸に、レモンガススタジアム平塚に永木が戻ってくる。あの時とは違う"経験"という武器を携えて、背番号41が湘南ベルマーレを牽引する。

【profile】
永木亮太(ながき・りょうた)
1988年6月4日生まれ、神奈川県横浜市出身。中学・高校の6年間は川崎フロンターレの下部組織に在籍。中央大学に進学したのち、2011年に湘南ベルマーレに正式入団した。1年目から主力として活躍し、2013年からキャプテンに就任。2016年に鹿島アントラーズに移籍し、同年には日本代表デビューも果たす。今シーズン7年ぶりに湘南に復帰。ポジション=MF。身長175cm、体重67kg。