「400万円なんてすぐ…」女がハマる人生逆転かけた副業
『嫉妬こそ生きる力だ』
ある作家は、そんな名言を残した。
でも、東京という、常に青天井を見させられるこの地には、そんな風に綺麗に気持ちを整理できない女たちがいる。
そして、”嫉妬”という感情は女たちをどこまでも突き動かす。
ときに、制御不能な域にまで…。
静かに蠢きはじめる、女の狂気。
覗き見する覚悟は、…できましたか?
▶前回:「2つめのバーキンよりも“それ”が欲しい…」世帯収入3000万越えの妻が本当に欲しかったもの
誘う女
私は立教大学卒業後、国内大手メーカーに就職した。
入社3年目で千葉の実家を出て以来、戸越銀座から徒歩3分のマンションで一人暮らし。
25平米で、家賃8万7千円。何の変哲もないただのワンルームだけれど、夜には窓から港区方面の夜景がキレイに見える。
そんな景色を見ながら、恋人の大樹とお酒を飲むのが私にとっては至福の時間だった。
とんでもない成功を掴んだわけじゃないけれど、東京のど真ん中で、私はなかなか頑張ってやっている。
自分の人生に、私は満足していた。
けれど、突然の再会が私の人生を狂わせる。
「…もしかして、凛子?」
聞き覚えのある声が突然、私を呼び止めた。
29歳の凛子は、旧友と再会する。そして、徐々に凛子の人生は思わぬ方向へ…
それは、久々に表参道のヘアサロンでカラーをした帰り道のことだった。
「え、美沙…?」
そこには、見覚えのある、けれどすっかりあか抜けた女が立っていた。
大学時代の友人・美沙だった。
学部もサークルも一緒で、私たちは仲が良かった。けれど、当時の美沙は典型的なギャル。要領はいいけどちゃらんぽらんで、生真面目な私とは正反対な性格だった。
そういえば大学3年生あたりから夜のバイトにすっかりはまってしまい、授業にはほとんど出ていなかった。
私がノートを貸してあげたおかげで、ちゃんと4年で卒業できたといっても過言ではない。
「凛子じゃん、ひさびさ〜!卒業以来じゃない?」
そんな美沙が、すっかり綺麗なお姉さんへと変貌を遂げている。
「そうだね。うわ〜、凛子変わらないわ〜」
「本当?美沙は、なんか綺麗になった?」
美沙の相変らずの明るさに、当時の思い出がフラッシュバックし、私たちはついつい立ち話が盛り上がってしまった。
「ねぇ、今時間ある?よかったらうちでお茶しない?」
「え、いいの?行きたい!」
そして、すぐ近くに住んでいるという美沙の家へ行くことになったのだ。
「ねえ、凛子は彼氏いないの?」
「今は、会社の同僚と付き合ってるよ!」
「え〜何それ社内恋愛ってやつ?写真見たあーい!」
会話の内容も、声のトーンも、7年前と全然変わっていない。一気に時間が巻き戻った感覚がした。
そんな懐かしさを覚えながら、北青山方面へと歩くこと10分。美沙の自宅に到着したのだが…。
「…え、ここが美沙の家?」
「そだよー」
美沙の家は、予想以上の佇まいをしていた。
「もしかして美沙、結婚したりしたの?」
「してないよ〜、まだ独身だよー!ねぇ、誰かいい人紹介してよっ」
「…」
他愛もない会話が続いていても、内容は全然頭に入ってこない。
けれどそんなことはお構いなしに、美沙はレッドソールのピンヒールをこつこつ鳴らしながら、だだっ広いエントランスを真っすぐ進む。
その先には、エレベーターが4機も並んでいた。1機しかなくて、毎朝ストレスを感じさせられるうちのマンションとは違う。
よく見ると、美沙が着ているコートのデザインや素材もかなり洗練されているものだとわかる。私が去年の初売りセールで買ったものとは質感が全く違った。
「どうぞ〜」
「…お邪魔します」
そして、美沙に案内された部屋にあがった私は、絶句した。
40平米ほどの1LDK。マンションの設備全体の豪華さから考えると案外普通の部屋だったが、壁一面に広がる窓からは大きな東京タワーが望める。
その景色は、このマンションの格を物語っていた。
「ねぇ、美沙…。今仕事何してるの?」
そして、数分前から脳内を占めていた質問がつい、口からついて出てきてしまったのだが…。
返ってきた答えは想定外のものだった。
美沙の想定外の職業。それを聞いた凛子はあらぬことを考えはじめる…
「ニートだよ」
「…え?」
「前まで会社やってたんだけど、つい最近売却してさ。今は、次何やろうっかな〜って考え中。まあ、ニートっていっても投資とかはしてるけどね」
…会社を売却?ニート?投資?
相変らずギャルっぽい喋り方は変わらないものの、彼女の口から出てくる情報は、脳内ですぐに処理できるものではなかった。
「…そうなんだ」
いくらで売却したのか。投資でいくら稼いでいるのか。…ここの家賃はいくらなのか。
具体的な数字を聞くことははばかられたけれど、堅実に生きてきた私よりも、美沙のほうが圧倒的に良い暮らしをしていることだけは確かだった。
しかも、誰かパトロンがいるわけでもない。彼女は自分の力で生きている。
私が今までこつこつと積み上げてきたものは、何だったのか。色々と疑問に思わずにはいられなかった。
「…ごめん、私ちょっと体調悪くなってきたから帰るね」
「…え?…凛子、大丈夫?」
ドラマでしか聞いたことのない安っぽいセリフを残して、私はその場を後にした。それ以外に、咄嗟に理由が思いつかなかった。
DIANAで奮発して買ったパンプスの鳴らす音が、エントランスに空しく響き渡る。自分のマンションでは聞いたことのない、透き通った音だった。
表参道を歩きながら、考えた。
― なぜ、美沙が…?
早慶や東大を卒業し、外銀とか外コンで働くような超エリートならわかる。あれくらいのマンションに住んでいてもおかしくない。
…でも、美沙が私より良い生活しているのはおかしい。だって、彼女が大学を卒業できたのも私のおかげ。
私のほうが絶対に真面目に生きているし、能力も高いはず。
…それなのに。…どうして。
突然に対峙させられた理不尽な現実に、やるせなさが込み上げる。
そして、さらに考えた。
どうしたら、美沙みたいな生活ができるんだろう。どうしたら、美沙よりももっと上に行けるんだろう。
ぐるぐるとそんなことを考え続けていたある日、運命の出会いが私に舞い込んできた。
◆
引き寄せの法則
<凛子、久しぶり!元気している?良かったら、今度お茶しない?>
高校時代の友人から、突然Facebook経由でメッセージが届いたのだ。
日々悶々としていた私は、何の気なしに彼女からの誘いに乗ったのだが、彼女が私の運命を変えてくれた。
「ねぇ、凛子。突然だけど、今の人生に満足している?」
まるで私の心を見透かしているようなセリフに、ドキっとした。
「…え」
「私もそうだった。全然自分の人生に満足できなくて…。でもね、ある尊敬できる先輩に出会って、私は変わったの。彼を紹介したいんだけど、今から呼んでいい?」
「うん…」
あまりの展開の速さに驚いたけれど、“善は急げ”だ。言われるがままにその先輩にお会いしたのだが、その方はカリスマ的なオーラを放っていた。
「凛子ちゃん、人生変えたいんだよね?まずは副業をはじめてみるのはどうかな?」
「…副業」
「お金がすべてじゃないけど、お金があれば人生は変わる。それにこの仕事は、大好きな仲間と協力して、みんなで健康になることができるんだ」
彼が勧める副業は、たしかに私の人生を変えてくれそうな予感がした。
そして、私の人生が少しずつ動き始めた。
まず、彼らから紹介されたサプリメントを大量に買い込んだ。
市販のものには入っていないような、身体にいい成分がたくさん入っている。これを飲み始めてから私も、気分までよくなった気がする。
もっと色んな人に、この商品の素晴らしさを伝えたい。そして、その人たちにも更に商品の素晴らしさを広めて欲しい。ちょっと高いし、最初は販売ノルマの負荷もあるけれど、商品自体は素晴らしいし、彼らが販売すればするほど私にもバックマージンが入るのだ。
美沙に対する晴れない感情が、一気に吹き飛んでいった。
どこかで聞いたことがある。これはきっと、引き寄せの法則というやつだろう。どうにかして人生を変えたい、美沙よりもっと上に行きたい。そう願っていたおかげで、このビジネスとの出会いを引き寄せたのだ。
私は、美沙なんかよりずっと真面目で優秀。美沙があんな生活をできているなら、私がこの副業に力を入れれば、きっともっといい暮らしができるはずだ。
そう思った私は、先輩に紹介してもらった麻布十番のマンションに引っ越した。ここは波動がいいらしい。
暮らしの質を上げれば、人生の質が上がる。先輩にそう勧められたのだ。
30平米のワンルームで18万円。今の給料だとかなりきついし、今はサプリメントの在庫に占拠されてて、稼働スペースは前の家と大してかわらない。こつこつためてきた貯金・400万円も底をついた。
けれど、これはあくまで先行投資。副業がうまく行きさえすれば全く問題ない。すぐに、取り戻せる。
大丈夫。絶対に大丈夫。
私は意気揚々と、片っ端から友人に勧誘の連絡を入れ始めた。
▶前回:「2つめのバーキンよりも“それ”が欲しい…」世帯収入3000万越えの妻が本当に欲しかったもの
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他人が欲しいものは何でもほしい。そう思っていた女が行きついた先とは…