お金持ちは、モテる。ゆえに、クセが強いのもまた事実である。

そして、極上のお金持ちは世襲が多く、一般家庭では考えられないことが“常識”となっている。

“御曹司”と呼ばれる彼らは、結果として、普通では考えられない価値観を持っているのだ。

これは、お金持ちの子息たちの、知られざる恋愛の本音に迫ったストーリー。

▶前回:「BMWは親に買ってもらった」ハイスペ男と交際したら“人の自慢話”ばかり。あきれた女は…




仁美(27)「この歳でお年玉をもらうことが、お金持ちは普通なの?」


「あけましておめでとうございます」

私は、今年は年末から実家のある小田原で過ごしている。コロナの影響で、昨年は一度も帰省できなかったから、久しぶりに家族と過ごすお正月だ。

実家は、私が8歳のときに大手ハウスメーカーで建設した、いたって普通の2階建ての一軒家。一人暮らしの部屋にはない広さと、家族の温かさにホッとする。

だけど私は、もう少し上のレベルにいきたいと、高校に入った頃からずっと思っていた。私が入学した私立高校には、“お嬢様”と言われる人たちがたくさんいたからだ。

私の実家にある唯一の高級家具は、祖父が新築祝いにプレゼントしてくれたカッシーナのダイニングテーブルとチェア。

そのテーブルに置かれた、手作りのおせちやスーパーで買ってきたマグロなどを前にして、彼氏・智也のことを考える。

おそらく、彼の実家でのお正月は、こんな過ごし方ではないはずだ。

その証拠に先日、実家の新邸が完成したと写真を見せてもらったのだが、それが桁違いの豪華さだったからだ。


仁美が感じてしまった、彼氏との“価値観の違い”とは?


赤坂でお蕎麦を食べていたときに、智也は実家を「県内一の豪邸」だと言っていたが、写真を見て私は納得した。

土地だけで500坪超えという敷地には、6台の車が入る、私の実家よりも大きなガレージ。そして、平家の住宅部分は中庭にプールが付いていた。

本当にお金持ちなんだなぁ…と私はつくづく実感する。同時に、彼との結婚を強く意識するきっかけにもなったのだ。

そんなことを考えていると、彼からちょうどLINEがきた。

『あけましておめでとう!今年もよろしくね』

『こちらこそよろしくね!』

智也はあの豪邸で、華やかなお正月を家族と迎えているのだろう。再来年あたりは、私もそこにいることができるだろうか…。

『おせちって意外と残るよね〜』

新年の挨拶から始まり、他愛もないLINEをダラダラとする元旦。

智也のいいところは、御曹司でも気取らないところだ。そんなところが、好きだな…と実感したのもつかの間。

思わずソファから立ち上がってしまうほどの、驚きのLINEが届いたのだ。

『今年もお年玉3桁だったわ!』

相当ハイテンションなのだろう。普段の智也はスタンプなど使わないのに、喜んでいるクマのスタンプも送られてきた。

『待って、そもそも3桁って…100万超えよね?』

『そうだよー。108万だった!親戚や会社関係の人がまだご挨拶に来るから、三が日で増えると思うわ!仁美はいくら?』

『うちはもう、もらわないよ!』

桁違いのお年玉を普通に受け取っていることに、驚愕した。しかし、それ以上に驚いたのが彼の返信だった。

『え、もらわないんだ…まじかー』

― 私たち、もう27歳だけど…?

この価値観のズレが原因で、私の智也への気持ちは萎んでしまうのだ。



智也との出会いは、会社の同期である菜々からの紹介だった。

「地方では有名な建設会社の息子が知り合いでいるんだけど…飲み会でもしない?」

そう言われて、飲み会に参加することになった。

私の大学時代の話だが、お金持ちとの恋愛は…すべてうまくいかなかった。その理由は未だわからずにいる。

以来、そういった人たちを遠ざけて生活していたので気が進まなかったのだが、仲良しの同期の頼みなので断れなかったのだ。

だが、しぶしぶ参加した飲み会で、智也と出会うことができた。

「初めまして、智也です!仁美ちゃん、よろしくお願いいたします」

― 言葉遣いが綺麗で、きちんとしている人だな。

飲み会の時は“お金持ち”という先入観からなのか、緊張していたのか、特に外見を気にしていなかった。

後日2人で食事に行ったとき、カウンターで横並びになり智也の顔を近くで見ると、彼が端正な顔立ちをしていることに気づく。

彫りは深いが、主張が強すぎず、さわやかな笑顔。智也の顔は、私のタイプだった。

食事の帰り道に智也から告白をされ、私たちは付き合うことに。顔がタイプなだけではなく、食べ方が綺麗で、育ちがいい人だと改めて実感したからだ。




こうして智也の自宅へ一緒に帰り、お互いすぐに夢中になった。それから毎週末、一緒の時間を過ごしている。

智也がお金持ちであることは、出会った時からわかっていたが、本当かと疑うことも何度かあった。

お店のチョイスが、微妙なのだ。

高額な割には美味しくないコスパの悪い店や、大衆居酒屋でのデートが多かった。それでも、お金持ちの妻になれるなら…と、気にしないようにしていたのに…。

結局、高額なお年玉をもらうことが普通であるかのような智也の反応を見て、育ちがよくてかつ価値観も合う人と結婚するのは、難しいと感じてしまった。

だって、私はこの歳になってまで、お年玉は欲しくない。

それに、私がもらっていないと知ったときの智也の反応が、私の家族を見下しているようで嫌だったのだ。


智也について考える仁美。彼女が下した決断は?


― 智也とは、別れよう。

2022年の元旦から、彼氏との別れを決意するなんて思ってもみなかった。

智也と別れてしまったら、彼以上のお金持ちの男性とはもう出会えないかもしれない…。

けれど、このまま智也といるよりも、もっと価値観の合う人を探した方が、私は幸せになれる気がするのだ。

たかがお年玉、されどお年玉。今回の一件で、私はお金持ちと釣り合わないと確信したのだった。


智也(27)「お年玉の額で家柄がわかるよね」


仁美とはゴールデンウィークに、大学時代の友人の菜々の紹介で出会った。

実は菜々とは、長いことダラダラと男女の関係を持っていた。「付き合ってくれないの?」と迫られたことは、何回もある。

ただ、俺が菜々を愛していないことを、彼女も気がついていたのだろう。




「飲み会でもしない?」

そう言われるがまま誘われた飲み会で、仁美と知り合った。

参加者は男女3人ずつ。仁美だけが、自然体で場が和むようなホッとする雰囲気を持っていた。

― いいな、この子。

男側の幹事は俺だ。けれど他の2人も仁美を狙っていることは、勘のいい俺にはすぐにわかった。

― 早く、手をうたないと…。

仁美は雰囲気がいいだけではなく、顔も美人だったのだ。

クシャッとして目がなくなるほど笑うのに、ふと真顔になった時の吸い込まれそうな大きな瞳は、俺の心をグッとつかんだ。

しかも、出身大学が一緒だった。俺は内部進学で仁美は外部からだけれど、話が非常に盛り上がったのだ。

『仁美ちゃん。今度、ご飯に行かない?』

初めての2人での食事は、恵比寿の『創和堂』へ連れて行った。

熱々のハムカツを頬張りながらナチュールワインを飲む仁美は、飲み会の時よりも美しく、帰り道に告白した。

「はい。よろしくお願いします」

その夜、彼女を俺の神谷町の自宅に泊めた。こうして、晴れてカップルになった俺たちは、毎週末を一緒に過ごす。

郊外へ出かけたり、昼間から部屋でまったりと愛を育んで過ごす日々。特に、俺のイチオシのお店へ飲みに行くことが多かった。

仁美はどんなお店へ連れて行っても笑顔で美味しいと言ってくれる。俺はこの子となら結婚してもいいかな…とまで思っていたのだ。

ただ、12月頃から俺のなかで、ある問題があった。

それは、お正月のことを話していたときに、仁美の実家の写真を見せてもらったのだが、正直ピンとこなかったのだ。

というよりは、俺とレベルが釣り合っていないと言った方が正しい。

仁美の持ち物はほとんどブランド物だったし、俺は勝手に裕福な実家かと思っていたが、その認識は間違っていたのだ。

俺の実家は、祖父の代から続いている地場のゼネコンを営んでいて、俺は30歳で後継者となる。

「結婚は、もちろんそれなりの子だよな?」

父は幼い時から俺にそう言っていたし、母も政治家の娘だ。俺も、奥さんとなる相手を妥協することは許されないし、したくないのだ。

だから、年末からずっとモヤモヤした感情を抱えていたのだ。

好きだけど、将来がない相手が目の前にいることは、結構つらいのだ。

そしてお年玉の話で、トドメを刺された。

この歳になってもねだっている訳ではなく、周囲が勝手にくれるのが、俺にとってのお年玉だ。残念ではあるが、仁美との将来は完全にないな…と感じてしまった。

それでも、俺から別れを切り出すつもりは一切ない。

仁美のことが好きだから。彼女を別れ話で傷つけたくない。

今の俺には遠い将来よりも、目の前にいる彼女と向き合いたいと思うのだった。

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