(左から)鎌田順也、川上友里、又吉直樹

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鎌田順也(ナカゴー)・川上友里(はえぎわ)・墨井鯨子によるユニット「ほりぶん」が、2022年2月24日(木)より東京新宿・紀伊國屋ホールにて『かたとき』を上演する。キャストには、川上をはじめとする鎌田作品お馴染みの面々に加え、ほりぶん2度目の出演となる猫背椿、今回初参加の又吉直樹(ピース)ときたろうを迎える。キャパシティ100人前後の会場を正体不明の熱気で埋め尽くしてきた鎌田は、今回初の紀伊國屋ホールに何を思うのか。そして又吉出演の経緯は。12月8日、東京・田端の稽古場でメンバーの初顔合わせと台本初稿の読み合わせを終えた、鎌田、川上、又吉の3人に話を聞いた。

 (撮影:池上夢貢)


 

■鎌田「芸人さんには勝てない」 又吉「劇団主宰はできない」

ーー今回初の紀伊國屋ホールですね。おめでとうございます。

川上友里(以下、川上) ほりぶんはずっと小さい劇場でやっていくつもりだったから、今回紀伊國屋ホールって聞いて「えーっ! お客さん埋まるの!?」って……。鎌田くんは、大きな劇場が目標だったの?

鎌田順也(以下、鎌田) 目標というか、大きい劇場だからこそできるおもしろいことは、いくつか考えていて。

川上 たとえばどんな?

鎌田 コロナがなければ、もっと大人数でやりたかったんですよね。

川上 何人くらい?

鎌田 いや、もう、ほんと50人とか。

川上 おおっ!

鎌田 50人でわっちゃわちゃしてるのをやりたいと思ってたけど、それはまたいつか機会があればやるとして、今回集まっていただいたメンバーで、紀伊國屋ホールでできるおもしろいことをやっていきたいです。

 (撮影:池上夢貢)

ーーそして今回、又吉さんが参加されることにも驚きました。

川上 ほりぶんに出てほしいって話を最初に聞いたとき、どう思いました?

又吉直樹(以下、又吉) 「できるのかな、自分が」って。演劇の経験もほとんどないですし。

川上 断る選択肢もあるなかで、出演を選んでくださったのは……?

又吉 鎌田さんが書いたものならやってみたいし、いい経験になると思って、「やらしてください」ってお願いしました。これまではコントもお芝居もほとんど全部自分で書いてきたので、他の人が書いたホンで演技するって経験が本当になくて。

ーーでも、鎌田さんの書くものなら、と。 

又吉 そうですね。他の劇団だったらたぶん、やらなかったです。木乃江(祐希)さんに勧められて最初に観に行ったのが、確かナカゴーで……

鎌田 『いわば堀船』(2016年)っていうやつですね。ピザ屋が一本道で見えない壁と戦う、みたいな話です。

又吉 それがすごくおもしろくて、そこからファンになって。こないだのほりぶんの『これしき』(2021年7月27日~8月1日)もむちゃくちゃおもしろかったですね。

ーー又吉さんは、鎌田さんの作品のどんなところがお好きですか?

又吉 すごい熱量を感じますし、圧倒されますよね。僕はこれまでコントをいっぱいやってきたし見てもきたけど、(鎌田さんの作品に)似たようなものって、ないですよね。その、なんやろな……舞台上から熱さを感じるんですけど、お笑いをやってきた自分からすると、お笑いにはない熱さというか。みんなが想像しているさらに先のことをやっている感じがしますよね。だから周りの芸人にも勧めていて、そうするとみんなどんどんハマっていくんですよ。芸人ならみんな驚きますね、やっぱり。

鎌田 サルゴリラの児玉さんは、ナカゴーのオーディションにも来てくれて。……まあ、一回落としちゃったんですけど。でもその後、神保町花月でやった『予言者たち』(2019年)でご一緒できることになって、すごいおもしろくて。

又吉 「またチャレンジしたい」ってこないだも言ってましたね。

 (撮影:池上夢貢)

ーー芸人さんからも支持も集めていらっしゃいますね。そういえば、以前鎌田さんにお話を伺ったとき、「別に笑わせたいわけじゃない」と言っていてびっくりしました。あんなに笑えるものを作っておいて……って。

鎌田 僕それ、うそだと思います。

川上 私もそう思う! うそですよね?

又吉 ああ、うん、そうでしょうね。

鎌田 そう言いがちってだけのことです。すいません。

ーーまんまとだまされました……! 

鎌田 「笑わせたいわけじゃない」はうそだと思うんですけど、僕にお笑いは書けないとは思ってて。自分がおもしろのピークだと思ってる部分と、お客さんが笑うピークがずれてるんで、「ああ、ちょっとダメかも」って自信をなくしたっていう。でも、お笑いの方に楽しんでもらえるのは、すごくうれしいです。僕はコントは書けないし、芸人さんには勝てないと思ってるから。今回の台本も、『水曜日のダウンタウン』で落とし穴から脱出するパンサーの尾形さんに勇気をもらって、それで書けたようなところがあるし。

ーーあれはたしかにすごかったですが、まさか台本を書くための力になっていたとは(笑)。一方の又吉さんは、小説『劇場』で小劇場の劇団主宰を主人公に据えています。小劇場について調べたり書いたりするなかで、自分で劇団をやってみたいとは思いませんでしたか?

又吉 いや、難しそうだなと思いました。こういう形で劇団にお邪魔するのはまだいけると思うんですけど、もし僕が主宰の立場になったら、みんなにめちゃくちゃ嫌われるか、逆にみんなに気を遣って自分の好きなことできひんか、どっちにしろ絶望的な気持ちになるのを想像しちゃって、危険やなと思いました。おもしろいホンがあって、おもしろい演者さんたちがいて、お客さんからの反応が良ければ、メンバーの関係性も保てると思うんですけど、どれかが欠けたら揉め出しそうで。

川上 全部が揃ってる劇団なんて、なかなかないと思いますよ。

又吉 そうなんですか。ただ、僕はずっとコンビでやってきて、そうすると2人しかいなくてもやっぱりいろいろあるんですよ。たとえば、綾部(祐二)は子どもの役も、女装もしない。コントの中で僕より立場が下の役は絶対嫌なんですよ。相方一人に対してもそれだけ制限があるってことは、劇団でたくさんメンバーがいて、それぞれの嫌がるところを気にして、それぞれのいいところを活かせるように考えながら作品を作るって、すごい世界だなと思いますね。

川上 主宰はたしかに調整ごとが多くて、大変ですよね。

 (撮影:池上夢貢)

鎌田 僕は、とりあえず今日までたどり着いたことが……。

川上 ああ、ホッとしてるんだ。

鎌田 いや、ずっと書けなくて。1週間ホテルに缶詰までさせてもらって、それでも書けなくて、ようやく書き始めたのが今朝の7時で。

ーーえっ、そうだったんですか……大変でしたね。

鎌田 はい。でも結局半分くらいしか書けなかったから、申し訳なくて。でも今日みなさんに読んでもらったのを見て、それを活かしながら、1月に稽古が始まるまでに全体の台本を用意したいです。だから、今日の台本とはぜんぜんちがうものになるかも。

ーー今日の時点での台本では、職務質問のシーンが印象的でした。

鎌田 僕よくされるんですよ。又吉さんもされたことがあるって言ってて、それで入れました。警察の人に「ポケットの中身見せて」って言われて、しぶしぶポケットに入ってたガムを出したら「これは何?」って聞かれて、「クロレッツです」みたいな。される人はされるけど、されない人はされないですよね。職務質問。だから実際はこうです、っていうのを伝えたいと思って。

川上 今日の台本にはなかったけど、ナカゴーとかほりぶんは、みんなで大声を出すシーンがあるじゃないですか。又吉さんそういうのは大丈夫そうですか? 喉は強いですか?

又吉 どうやったら鍛えられますか?

川上 私たちも毎回潰れますね。

鎌田 (又吉さんは)そういうのはやらなさそうな人だから、出てほしいなって。今までにないアプローチだから。

川上 そうだよね、見たことないですよね。又吉さんの必死な訴えとかは。

鎌田 又吉さんの声は、生で聞くと落ち着きますよね。やさしい声だなと思って、それを活かせればいいなって。あと、こないだの『ドラフトコント』(フジテレビ)で、又吉さんが侍役をされてたときの動きが俊敏で、すっごい動けるんだなって。侍としての説得力があってかっこよかった。そういう部分も、活かせたら。

又吉 転んだだけですけどね(笑)。でも、トレーニングしておきます。

ーー本格的な稽古は1月に始まるとのことですが、現時点ではどんなお話になりそうですか?

鎌田 今日の時点の台本は、このまま進めるとちょっと後味が悪いものになりそうだから、考え直そうと思って……。最近観た『マリグナント』ってホラー映画なんですけど、後味の悪いものではなかったので、そういうのがいいかなって。最近日が沈むのが早くて、夕方になると寂しくなっちゃうんですよ。公演も2月で冬だから、心が温まるような、最終的にはほっこりするものにしたいです。

 (撮影:池上夢貢)

取材・文=碇雪恵  写真撮影=池上夢貢