“一次的免疫”発言が非難を浴びた丸川大臣(写真:アフロ)

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「1回目の接種が終わってとりあえずホッとしました。2回目も予約できましたし、ひと安心ですね」

新型コロナワクチンの1回目の接種を6月に終えた地方在住の60代女性は、にこやかにそう話す。

“2回接種”が前提のワクチン。7月3日時点で、日本では少なくとも1回の接種をしているのは人口の2割ほど。2回目まで完了しているとなると1割ほどだ。

ワクチン供給の遅れも報道されているなか、冒頭の女性のようにまずは接種を受けられたことで安心する人は多いようだ。ただ、1回目の接種を終えた“ホッ”が、“気の緩み”になってはいけないのであるーー。

「1回目の接種で、まず一次的な免疫をつけていただく」

丸川珠代五輪担当大臣(50)の、この発言が波紋を呼んだ。

6月29日の定例会見で、東京五輪のボランティアに対する“ワクチン接種2回”が開幕までに間に合わないことを記者に指摘された際に出た言葉で、“1回だけの接種でもある程度は大丈夫”とも受け取られかねないと批判の声が上がっているのだ。

これについて、東北大学災害科学国際研究所の児玉栄一教授(災害感染症学)に話を聞くと、「ワクチンは接種1回では60%ほどの効果といわれ、2回目を接種して95%といわれています。それも2回接種後から3〜4週間たたなければ抗体がきちんと機能しません」

のぞみクリニックの筋野恵介院長も「1回しか接種していない人は、接種前と何も変わらない対策が必要」と指摘し、“1回接種”と“2回接種”の違いについて、次のように解説してくれた。

「まず、新型コロナワクチンの1回目の接種をすると、“弱い抗体”ができます。しかもその抗体ができるのは全員ではなく、2人に1人ほどなのです。さらに、その抗体は1カ月後まで続くかどうかもわからない、という状態です。しかし2回目の接種をした場合には、ほとんどの人にしっかりと抗体ができ、それが半年〜1年ほど持つ状態になります」

■2回接種でも感染しない訳ではない

そもそも、1回だけの接種はもちろん、2回接種を終えた状態ですら気をつけなければならないのだと、筋野院長は念を押す。

「2回接種をしたときの効果というのは、感染しても“軽症で済み、重症化しない”というものです。また、2回打って抗体ができているとウイルスが体内で増殖しないので“排菌しにくくなる”、つまり人にうつすリスクは減ります。

ただ“感染しない”ということではないので、2回の接種が済んでも、人にうつすリスクが全くないとは言えません。来日した五輪選手がワクチンを2回打っているのにもかかわらず、陽性者が出たこともニュースになりましたが、打ったから100%大丈夫、というものではないのです」(筋野院長)

“まずは1回接種”という方針が感染再拡大に影響したのでは、とみられているのがイギリスだ。同国では、5月末から新規感染者数が増大。インドで最初に見つかった変異株であるデルタ株が流行しているためだ。

「そもそもイギリスでは、“まずは1回でも接種している人を増やす”という考えから、2回目の接種までの間隔を規定の3〜4週間でなく、12週間としていました。しかし、デルタ株には“1回接種”だと効果が特に低いということがわかってきたのです。ファイザー製の場合、2回接種でのデルタ株の予防率は88%に達しますが、1回では33%だと、イングランド公衆衛生庁は発表しています。今ではイギリスは接種間隔を8週間に短縮しました」(通信社記者)

デルタ株は日本でも感染が拡大しつつある。これについて、『感染症予防BOOK』(三笠書房)の著者で元WHO専門委員の左門新さんは、

「デルタ株の感染力は従来の1.95倍といわれ、さらに日本人は重症化しやすいともいわれています。今、日本では、従来型からデルタ株への置き換えが進んでいます。秋には感染の9割がデルタ株に置き換わると予測されます」

ワクチン接種後もマスク着用と手洗い継続を

デルタ株のほかにも、話題になっている変異株として、ペルーで最初に見つかったラムダ株もある。

「ラムダ株はまだ研究が進んでいないのではっきりと言えませんが、ペルーやブラジルなどで猛威をふるっている状況を見ると、感染力が高いことは間違いないでしょう。抗体の働きを低下させるのではないかと推測されていて、“ワクチンの効果が下がる”のではないかと考えられています」(左門さん)

日本での感染例はまだないが、「日本に入ってくる恐れはありますし、東京五輪によってそのリスクは高まると思います」(左門さん)

変異株に、五輪による人流の増加。強い対策をとらねば7月下旬から8月中旬に爆発的な感染が起きる、と話す専門家もいる現状だ。

心配は尽きないが、今後気をつけることについて児玉教授は、

「接種を終えた人も、マスク着用と手洗いは継続して、全体の感染者数が下がるのを待ちましょう。そもそも“ワクチンが95%効く”というのは、マスクや手洗いなどをしている感染対策下での話。推測値ではありますが、感染対策をやめた状態では6割ほどの効果しかないのではといわれています」

筋野院長も同様の意見だ。

「私がワクチンを打った人に話を聞くと、若い方を中心に『夏真っ盛りの8月に出かける予定を入れている』という人は多いです。確かに6月から1回目を接種している人は、8月ごろには抗体ができます。ただ、それでも100%人にうつさないわけではありません。

“全体の7〜8割が抗体を持たないと感染は収束しない”と考えられていますから、7〜8割の人が2回の接種を終えるまでマスクは必要。まして1回打っただけならもってのほかです」

ワクチンを打ったとしても、あくまで“過信”は禁物なのだーー。