多くの人が知らない「販売」と「発売」の違い

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「販売」と「発売」。一見すると、ほとんど同じように感じるかもしれません。

しかし、「新発売」とは言いますが「新販売」とは言いません。「販売業」とは言いますが「発売業」とは言いません。

ということは、「販売」と「発売」には、れっきとした違いがあるわけです。

どんな違いがあるのか、調べてみましょう。

■「販売」の意味は「顧客に品物を売ること」

まず「販売」の意味を調べてみましょう。

はんばい【販売】
売りさばくこと。あきなうこと。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)

念のため「売りさばく」という意味も確認しましょう。

うりさばく【売りさばく】
手広く売る。じょうずに手配して売る。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)

つまり、「販売」とは「業務として顧客に品物を売る行為。販売業として商うこと」であると捉えることができます。

例えば、スーパーや商店などの小売店がお客さんに商品を売る行為を「販売」と表します。

■「発売」の意味は「市場に商品を売り出すこと」

次に、「発売」の意味を確認しましょう。

はつばい【発売】
うりだすこと。売出し。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)

つまり、「商品を売り出すこと」いう意味ですね。

ちなみに「売り出す」という言葉には、以下の意味があります。

うりだす【売り出す】
(1)売りはじめる。発売する。
(2)特別に宣伝して大いに売る。
(3)(自動詞的に)世間に名を広める。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)

つまり、「発売」とは「ある商品を市場へ新しく売り出すことや、既存の商品をセールや限定などの方法で売り出すこと」であると捉えられます。

例えば、メーカーなどが新商品やリニューアル商品を売り出すことを「発売」と表します。

■「販売」と「発売」の違いとは?

前述の通り、「販売」とは、業務として顧客に品物を売ること。そして「発売」とは、ある商品を市場へ新規に売り出したり、既存商品を販促として売り出したりすることだと分かりました。

ここでは両者の違いをもう少し掘り下げてみましょう。

◇「販」と「発」の漢字が持つ意味の違い

販売の「販」には、次のような意味があります。

【販】ハン・ホン・ひさ-ぐ
ものを仕入れて売る。あきなう。ひさぐ。
(『例解新漢和辞典』三省堂)

発売の「発」には、次のような意味があります。

【発】ハツ・ホツ・た-つ
(1)矢を放つ。鉄砲などをうつ。
(2)外に出る。外に出す。
(3)出かける。動き出す。たつ。
(4)新しくはじまる。はじめる。生じる。おこす。おこる。
(5)のびる。盛んになる。成長する。
(6)かくれているものを外に出す。明らかにする。ひらく。あばく。洗われる
(7)弾丸などをかぞえることば。
(『例解新漢和辞典』三省堂)

上記からも分かるように、「販売」の「販」は、「売る」という意味です。

一方、「発売」の「発」は、上記の(4)「新しくはじまる。はじめる」という意味で、「売る」という意味はありません。

「売」という漢字と合わせて熟語になることで、「売り始める。新しく売り出す」という意味を表します。

したがって、「販売」は「売ること」であり、「発売」は「新しく売り始めること」です。

◇「販売」は継続的、「発売」は間断的

「販売業」という言葉があるように、「販売」は業務として継続的に行うことです。

例えば、「味噌作りと販売一筋、40年」というように、長い期間を通じて行う行為です。

一方、販売業務の一環として行うのが「発売」です。

新商品の売り出しや販促キャンペーン、季節のセールなど、売り出した瞬間やその期間に限り、間断的に使われる言葉です。

新商品を「発売」したり、すでに売っている商品の価格を下げて「大売り出し」「セール」として「発売」したりします。

商品によっては、新しく売り出した時に「新発売」という形で一度だけ使われることもあります。

つまり、「販売」はお客さんに売ることそのものの行為、「発売」は商品が市場へ売り出される瞬間やその期間という、それぞれ異なるニュアンスを持っているといえます。

◇「販売」と「発売」の用例

下記の図は、どんな場合に「販売」「発売」の言葉を使えるかを考察したものです。

(『現代国語例解辞典』小学館)

ここで挙げた用例の中では、「良書を販売する・発売する」はどちらも成立しますが、それ以外ではどちらか片方しか使えません。

例えば、「発売が10日遅れる」とは言いますが、「販売が10日遅れる」とは言いません。前述した通り、販売は継続的に行うものだからです。

また、「販売を促進する」とは言いますが、「発売を促進する」とは言いません。「販売」を促進する方法が、大売り出しなどの「発売」そのものだからです。

■「販売」と「発売」の使い分け(例文付き)

「販売」と「発売」の違いが分かったところで、次は例文とともに使い分けについて解説します。

◇業務として継続的に顧客へ商品を売る場合は「販売」

顧客へ継続的に商品を売る場合には「販売」を使います。

☆例文

・こちらは、創業当初からずっと販売しているロングセラー商品です。

・酒類の販売には免許が必要です。

◇新商品を売る場合や、既存の商品を売り出す場合は「発売」

新しい商品や既存の商品を広く売り出す場合には「発売」を用います。

☆例文

・私が開発した商品が、来月1日に発売されます。

・今度、人気のスナックが、九州限定で新発売になるそうです。

■「発売中」という表現を使ってもいいのか?

「好評発売中」「絶賛発売中」という表現を時々見かけます。

先述したように「販売」は継続的で、「発売」は間断的であることを考えれば、「発売中」という言葉に違和感を持つ人もごく一部いるかもしれません。

結論から言うと、「発売中」という表現は使用しても特に問題ないのではないかと考えます。

「〇〇中」という言葉は、「〜し続けている」という意味です。

「営業中=営業し続けている」「勉強中=勉強し続けている」は、すんなり理解できますが、「発売中=発売し続けている」には、疑問が生じるかもしれません。

厳密には「ずっと売り続けている」という意味であれば、「販売中」の方が国語的にはふさわしいと考えられます。

しかし、いくら国語的に正しい表現であっても、商品が売れなければ企業やお店は利益を損ないます。なぜなら、商品を売る際には、販売促進の側面から考えて、商品の鮮度も訴求する必要があるからです。

継続的に売っている「販売」という言葉を使っても、単に商うという意味だけで、商品そのものの新鮮さは感じられません。

「発売」という言葉の方が、「新しい、ニューフェイス、新鮮」というイメージを感じさせるので、「販売」を強調する言葉として多用されているのです。

そのため、既存の商品を改めてテコ入れして売り出したい時に「好評発売中」などと使われるのは、販売促進の考え方では理にかなっているわけなのです。

つまり「発売中」とは、国語的な違和感があっても、CMや店頭の案内などの日常生活で目に触れる機会が多いので、人々もさほど疑問を持たなくなり、すっかり定着した感のある表現といえます。

■「発売」「販売」以外の「売ること」を表す熟語

「発売」「販売」以外にも、「売」という字を使った熟語はいろいろあります。

例文とともに挙げておきます。

◇「直売」

生産者・製造者が直接買い手に売ること。

☆例文

・本日午後から、京都の和菓子屋による直売があります。

◇「分売」

一部分ずつ分けて売ること。

☆例文

・長年住みたかった地域で、土地の分売が始まった。

◇「乱売」

利益度外視で、叩き売りをすること。

☆例文

・この業界では、決算前は見切り品の乱売合戦になると予測されます。

◇「特売」

特別に安く販売すること。

☆例文

・年末年始の特売では、例年多くのお客さまでにぎわいます。

■国語的な正しさとマーケティングの言葉

今回は「発売」と「販売」の違いについて説明しました。いかがでしたか?

広告やマーケティングの世界では、時に国語的な正しさよりも、消費者に与える印象の強さの方が重視されることがあります。インパクトがあるかないかが、利益に直結する要素だからです。

とはいえ、違和感のある表現の全てが許容されるわけではありません。国語的な正しさを頭に置きながら、時代的な傾向も加味しつつ考えるバランス感覚が問われるでしょう。

(前田めぐる)

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