■コロナ不況は序章にすぎない

新型コロナウイルス関連倒産、全国で37件――。2020年4月3日までに発表されたこの数字は、「コロナ不況」の序章にすぎないのか。業績が厳しいなかで経営を維持してきたが、「新型コロナ」が最後のダメ押しとなって事業継続を断念したケースもあるだろう。年度末を機に、体力のあるうちに店じまいした企業もある。

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20年2月からの入国制限等で中国人をはじめとする観光客減により、インバウンド消費は激減。さらに20年3月中旬以降は、日本人の消費行動にブレーキをかける外出やイベントの自粛要請が始まった。だがこれはあくまでも「自粛レベル」。20年4月7日には政府から「緊急事態宣言」が出され、宣言を受けて東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県は自粛要請を超えたさらなる強硬策が求められることになる。

外出自粛などに罰則を設ける海外の「ロックダウン」(都市封鎖)こそ行われないものの、対象区域の都道府県知事は住民への不要不急の外出の自粛要請をさらに強めると同時に、生活インフラ以外の業種に関しては基本的に休業要請を行う。

宣言対象の7都府県のGDP(国内総生産)は約260兆円。日本全体のGDPの約半分を占める。日本経済は自粛期間のみの短期的落ち込みで済むのか、長期的な衰退となるのかの瀬戸際を迎える。

■日本経済は戦後最大の危機に直面している

20年4月7日夜の会見で安倍晋三首相は「日本経済は戦後最大の危機に直面している」と述べた。さらに政府は緊急事態宣言に合わせて「史上最大となる108兆円の緊急経済対策」を行うとしたが、新型コロナや緊急事態宣言が経済活動に与える影響は計り知れない。リーマンショックや東日本大震災時を超える、未曾有の事態に突入することになる。

政府の「緊急事態宣言」に先立つ20年4月6日、東京都の小池百合子知事が行った会見では、教育施設などのほか、ゲームセンターやカラオケボックス、パチンコ、映画館などの娯楽施設、クラブやバーなどのナイトタイムエコノミー関連施設、ショッピングモールや百貨店など小売施設が休業要請対象として挙げられた。要請を押し切って開店する店舗はわずかと見られ、対象となる業界の業績悪化は待ったなしの状況だ。

「社会機能を維持するために必要な職種を除きオフィスでの仕事は原則自宅で行うように」との方針も示された緊急事態宣言は、7都府県が対象とはいえ、ゴールデンウイーク明けの20年5月6日まで続く。新型コロナの蔓延状況によってはさらに継続する可能性もある。

経済に影響を与える「コロナショック」はどこまで拡大するのか。帝国データバンクによると、新型コロナ関連倒産37件のうち、飲食関連が12件、観光関連が16件を占める。

「20年3月末からの自粛要請で春の歓送迎会などの予約はすべて取り消し。来客もまばらです。せめてもの売り上げにつなげようと普段やっていないテイクアウトメニューを設けて損失を補っていました。しかし休業要請となれば、これさえできません」

都内のある居酒屋店主はこう言って肩を落とした。小池都知事の発表で飲食店は生活インフラと見なされたが、居酒屋は休業や営業の短縮を求められた。20年4月上旬の時点で倒産件数が増えている飲食業だが、もとより19年10月の消費増税で店内飲食は10%課税となっていたことも苦境の背景となっている。政府は補償の手厚さをアピールするが、緊急事態宣言期間を乗り切れる企業ばかりではないだろう。この点、休業要請が行われる娯楽施設も同様だ。すでに「感染クラスター」として名指しされたライブハウスはもちろん、新作映画の公開を遅らせ過去作の上映で集客を図ってきた映画館なども苦境に立たされている。

小池都知事は、休業や営業時間の短縮に協力した中小企業などに感染拡大防止協力金の構築を検討しているというが、打撃をカバーできる規模になるか、都の施策が待たれる。

■観光業界も試練の時を迎えている

本来2020年は空前のかき入れ時だったはずの観光業界も、新型コロナで一転、試練の時を迎えている。五輪は1年の延期が決まったが、業界の先行きには不安が立ち込める。

コロナの影響で空席が目立つ東京・渋谷の飲食店。

当初は海外、おもにインバウンドを牽引してきた中国からの旅行客減の影響が懸念材料だった。そのため、国内観光の総需要約26兆円のうち約21兆円を占める日本人の国内観光需要に期待をかける業界関係者の意見もあったが、日本人自身の移動を制限する状況となると、話は変わってくる。緊急事態宣言期間に頼みのゴールデンウイークがすっぽり入ってしまったことで、観光業界は見通しの練り直しが必要となる。

また、消費者マインドを考えても、緊急事態宣言期間明けに爆発的に旅行需要が伸びるとは考えがたい。特に、日本からの海外旅行需要は絶望的だ。

「20年3月中から、午前中には渡航を受け付けていた国が、午後には日本からの渡航禁止を発令するなど、渡航先の国の事態が刻々と変わるため、その都度、対応に追われました」(旅行代理店関係者)

20年4月に入って、状況はさらに悪化。状況の好転を期待して予約を受け付けていた海外の旅行商品に関しても、催行中止が相次いでいるという。

新型コロナウイルス感染拡大を受けて、観光客が減った京都の観光地。(写真=時事通信フォト)

「国内旅行に関しては、20年3月中旬ごろまでは『今しか空いていないから』と国内旅行を敢行される方がちらほらいらっしゃいました。例えば自家用車で行けば感染の心配も少ないだろう、と。しかし緊急事態宣言となればそうはいきません」(同)

政府は観光業界を支えるべく1.7兆円規模で1泊2万円とした国内旅行の宿泊代や現地の食事代、土産代などの補助に充てる施策を打ち出している。このほか「GO TO TRAVEL」と称するクーポン券の配布も検討されているが、効果は未知数だ。

旅客需要の減少で大打撃を受けているのは航空業界も同じだ。薄利多売で厳しい価格競争を戦ってきたLCC(格安航空)は、相次ぐ運休や減便に耐える体力がなく、すでにギリギリまで効率化を行っているため、淘汰や再編が予想される。

国際航空運送協会(IATA)は20年3月5日、新型コロナの感染拡大の影響により、航空会社の旅客事業に1130億ドル(約12兆2000億円)の損失が発生する可能性があるとのリポートを発表。これほどの規模の打撃となれば、JALのようなナショナルフラッグキャリアや、それに類する大手航空会社もダメージは免れない。JALは緊急事態宣言を受けて20年4月8〜12日の間、44%の減便を行っている。

また、新型コロナ蔓延の原因をグローバル化に求める向きからは、全世界にまたがるサプライチェーン(部品供給網)や食料品の輸出入など、人だけではなくモノの移動それ自体がリスクだと指摘する声もある。どこか一国が転べば、複合的、連鎖的に危機が及ぶからだ。

■コンテナ船各社も20年度の見通しは厳しく先行き不透明だ

グローバルなモノの移動を担う19年度は好業績を残したコンテナ船各社も20年度の見通しは厳しく先行き不透明だとしているという。海運への影響も予断を許さない。

新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため臨時休業した「伊勢丹新宿店」。

売り上げの一部をインバウンド、特に中国人観光客の購買力に頼ってきた大型百貨店なども苦境に立たされている。中国人らの入国制限が始まった20年2月の時点で売り上げは右肩下がりとなり、20年2月の売上高速報が前年同月から激減する店が相次いだ。

さらに20年3月中旬からは営業時間の短縮や週末の休業を行ってきた店舗も多いが、緊急事態宣言により、休業がさらに拡大。ルミネは宣言に先立つ20年4月6日、食料品などの生活インフラフロア以外の休業と、ルミネ新宿など都内5店舗の全館休業を発表。伊勢丹、大丸なども続いて休業を発表した。

店が閉まれば百貨店やショッピングモールに店舗を展開するアパレル業界も苦境に立たされる。特にネット通販事業が弱い企業への影響は大きいが、出勤にしろ旅行にしろ、外出そのものが減れば服の需要も減る。

すでに「MAJESTIC LEGON」「le.coeur blanc」などのブランドを展開し、全国の商業施設やショッピングモールなどに出店してきたシティーヒル(大阪市中央区)が20年3月16日に大阪地裁へ民事再生法の適用を申請している。当初より減収が続いていたが、新型コロナの影響による来店客の減少がとどめとなった。

現在何とか持ちこたえているアパレル企業も、百貨店やショッピングモールの休業が追い打ちとなることは間違いない。ネット店舗の拡充や試着・返品サービスの向上など、この危機をデジタルトランスフォーメーション化の契機とすることも生き残りには重要だ。

中国依存度の高い自動車業界も低迷しつつある。日産、トヨタ、ホンダの3社は最大で売り上げの3割程度を中国市場での販売に頼っており、20年2月の中国での販売は前年同月比で7〜8割減少したという。特に日産は20年4月7日、海外工場の従業員1万人を一時解雇すると発表した。

自動車業界が低迷すれば、部品を供給している中小企業はもちろん、鉄鋼、プラスチック、制御用コンピューターに至るまで幅広い業界にダメージが及ぶ。バブル後の日本の主要産業として経済を牽引してきた自動車業界が転ぶことになれば、日本経済全体への影響は計り知れない。

■自動車業界がコロナショックをどう好転させるか

もとより自動車業界は、日本の若者の「車離れ」や、それにより発展しつつあるカーシェアという変革期だった。車そのものも、電気自動車、自動運転システムへの移行という大きな分水嶺を迎えている。自動車業界がコロナショックをどう好転させるかは日本経済の行く末を大きく左右することになるだろう。

食品業界は学校給食や外食向けのものに落ち込みがあるものの、在宅ワークや休校措置の影響で、家庭で食べる冷凍食品などの需要は高まっているという。WTOが食糧危機の懸念を示すなど、今後、輸入に頼っている原材料の調達に影響が出る可能性は否定できないが、扱っている品物が品物なだけに、とにかくコロナ患者を出さないことが悩みの種になっていると話す関係者もいる。

「もし感染者を出せば、企業名を公表しなければならない。工場などの生産拠点で罹患者を出せば操業を止めなければならないのはもちろんですが、コロナと商品が結びついてしまうと、そのイメージを払拭するのは大変。なんとしてもコロナにかからないよう、20年2月の段階から旅行などを文字通り“自粛”していました」(食品メーカー社員)

インバウンドや中国との関係の直接は左右されない業界にも余波は及んでいる。20年4月3日に帝国データバンクが公表したアンケート調査によれば、全業種の8割以上が「マイナスの影響あり」と見込んでおり、そのうちの5割近くが「すでにマイナスの影響が出ている」と回答している。調査期間は20年3月17〜31日と緊急事態宣言前だが、それでもこれだけの数字である。

住宅設備業界をはじめ、関連企業でも「新型コロナの悪影響は避けられない」とする声が上がっている。建設業界を騒がせたのは「トイレ不足」。ウォシュレットなどトイレを構成する様々な部品の多くが中国で生産されており、中国での生産がコロナの影響を受け始めた20年2月中旬の段階から納品の遅れが発生。当初、トイレが設置されていないと建築基準法上の「完了検査」を受けられなかったため、業界はパニックを起こしかけたという。

住宅周りではほかにも、水回りやシロアリなどの定期チェックなども後回しにされるケースが出始めている。「不要不急ではないし、他人を自宅に上げるのは今はリスクだから」というのが主な理由だ。

また、テレワークなどの導入で、かねて不要ではないかと指摘されながら改革に至らなかった業種・部署が“効率化”の名のもとに削減される可能性も高まっている。製薬業界のMR(医薬情報担当者)がやり玉に挙がっているという指摘もあるが、そもそも企業の営業職は00年からの20年間で100万人以上、減少したといわれる。「直接足を運び、顔を合わせて自社製品を売り込む」形の営業職は、どの業界であれ、この間に削減の方向に進むかもしれない。

■テレワークがようやく広がってきた

ITの導入程度が主な原因とされるが、これまで浸透しなかったテレワークがようやく広がってきたコロナ後には、さらにこの方向に拍車がかかる可能性がある。

コロナショックの兆しが見え始めた20年3月末頃は経済の先行きに関してはまだ楽観論も少なくなかった。また、「ひと月程度の影響でつぶれる企業はもともと体力がなかったのだから、そうした会社の倒産はマイナス材料ではない」という声もあった。

確かに、体力のなかった企業が「これを機に」店じまいするケースもあるだろう。そうした企業を補助金で無理に延命するよりも、選択と集中により「救うべき企業」をふるいにかけることで、日本の生産構造を好転させる好機となる、との見方もある。だが緊急事態宣言と休業要請、自粛要請がゴールデンウイーク明けまで続くとなれば、もともとの体力のあるなしだけでは測れない影響が出ることは間違いないだろう。

20年3月31日に発表された20年2月期の有効求人倍率は約3年ぶりに1.45倍にまで落ち込み、雇用情勢判断からは13年5月以来、6年9カ月ぶりに「改善」の言葉がなくなった。増税の影響で陰りが見えてきていたアベノミクス神話も崩壊しつつある。

政府は中小・小規模事業者への給付金制度の創設や民間金融機関による無利子・無担保融資制度の導入を決め、さらには雇用の維持に向け、雇用調整助成金を20年6月末までの拡充、助成率の引き上げなどの緊急経済対策を決めた。季節は初夏を迎えつつあるが、日本経済は冷え込みを脱することができるのか。

(梶原 麻衣子)